父の告解
前回のあらすじ
父が実はロードライト・ホワイトだと言ってきました。
今私の父は……養父は何と言ったろうか。
「は……?」
ロードライト・ホワイト。
それは国の要たるホワイト家当主の名だ。
「頭がおかしくなったの……?」
「そう思うのも無理はない――だが、本当だ」
父はソファに深く座り直した。
「ホワイト公とは友人だ、と嘘をついても良かったが……これ以上あなたを騙したくはない」
少し長くなるが、と前置きをして、父は語り始めた。
◆
父はホワイト家の嫡子だった。
ホワイト家には他に跡継ぎがおらず、父への期待は重くのしかかっていた。
しかし父は商才はあれど、魔法の才能はさっぱりだった。
魔法は基本的に血統によって受け継がれていくが、稀に突然変異のように全く魔法が使えない者が表れる。
彼らは罵倒語にかけて「魔抜け」と呼ばれていた。
「何度も何度も血の滲むような努力をしたさ……でも指先に火を灯すことすらできないんだ」
よりによって公爵家の嫡子が魔抜けとバレては一大事だ。
そのため、魔法の才能がある者を側に仕えさせることとなった。
それがテイラー・アルテイシア。 先代ホワイト公がその才を認め、平民から引き立てた男だった。
「彼は優秀な男だったよ。 俺が失敗すると、全部巻き戻してなかったことにするんだ」
父は少し瞳を揺らして言った。
「やがて――先代ホワイト公は、俺よりテイラーを可愛がるようになった。 家宝の宝飾品を彼に与えたりしてね」
ずっとほしかった白い馬を先にテイラーに与えたり、
一番眺めの良い部屋をテイラーにあてがったり、
ずっと禁じられていた書斎への入室をテイラーだけ許可したり。
ある日、父はついに先代ホワイト公の扱いに耐えかね、病に伏せってしまう。
心配するテイラーが提案したのは――
◆
「入れ替わり……? でもそんなこと、可能なの?」
「時間遡行魔法の一番恐ろしいところは何か知ってるかい?」
首を横に振る。
そもそも公爵家のほぼ秘伝に近い魔法のことなど、王族でもなければ詳しく聞ける機会はない。
「時間遡行によるあらゆる食い違いを、勝手になだらかに変化したように受け入れさせることだよ。 あの魔法の真の強みは、時間を巻き戻すだけではなく、現実を改変できる点にある」
「つまり、色んな場面で彼が息子だと信じ込ませた……?」
「特にそのほうが自然で、都合が良い事実は馴染みやすくてね……」
ひとつ小さな咳払いをする。
秘密を打ち明けた父はずいぶんと小さく見えた。
「俺は髪の色も目の色もあの男とは違った。 調べたら母方の遠縁の血筋だったみたいなんだがね。 テイラーは……染めたんだか魔法なんだか、ホワイト家らしい色の目と髪を持っていた。 身寄りもなかったしね。 全てが都合が良かった」
父は病気と偽り、社交界から姿を消した。
そして何事もなかったように、ロードライト・ホワイトと名乗るテイラー・アルテイシアが嫡子として成り代わった。
「それ……籍を偽るのは重罪だよね」
「そうだな。 お前はやろうと思えば俺も、ロードライトをも豚箱にぶち込める」
「っ……何で話した!? あまりにも……身勝手すぎる」
「その方が良いと思ったからだよファリア。 ……あいつは俺にはできないことをやろうとしている」
「ホワイト公がやろうとしていることって?」
「それはあなた相手でも言えない。 聞きたきゃ自分で聞くか、その足で突き止めるんだな。 自称ジャーナリストなんだろ?」
それに、と父は付け加える。
「俺はあいつと入れ替わって良かったと思っている。 家族も持てたし……自分の才能を活かせる稼業を見つけられた。 血に縛られる生き方は俺には合ってなかったんだ」
スピキオは何を考えているのかよくわからない。
特に驚いた様子はないので、事情ははじめから知ってたらしかった。
「お母様や……兄さんは知ってるの?」
「母さんだけは知ってる」
「何で……」
「俺は……あなたにとっての人質なんだ。 あなたが原因でオルスフェーンに何かあれば、多分俺は責任を取ることになる」
気づいたら泣いていた。
視界が涙で歪み、目が痛くて仕方なかった。
「だから、あなたが決断を迫られた時、こんなクソ親父さっさと死ねー! と思えるように話したんだが……」
父は恐る恐る、くしゃくしゃに私の頭を撫でた。
ホワイト公は、私が問題を起こした時の責任者の身代わりとして父を使ったのだ。
それはそれは適任だと思う。
さすが偽物とはいえ公爵様だ。
しかし父も自由を得るためにテイラーを利用したと言える。
それに、ホワイト家はアルテイシア家の重要取引先でもあった。
話を聞いて合点がいった。 ホワイト公は罪滅ぼしのためか、商売において融通を効かせてくれていたのだ。
私がこの気のいい家族を壊してまで嘘を告発するなど、できるはずもなかった。
死罪まではいかないけど流刑くらいはなりそうですわ~~~~~~~~




