久しぶりの帰宅
前回のあらすじ
王妃様からなんかめんどくさいことを頼まれました。ファリアは自分の屋敷へ帰宅します。
教会へ忍び込んで、呪いを解いて、何度か死にかけて、数日をホワイト邸で過ごし、軍事省での取り調べや王妃との謁見。
ちなみにドゥーイ伯爵は憲兵に箱ごと譲り渡した。私たちとは比較にならない厳しい尋問を受けることだろう。
人生における驚いた出来事ベスト3を全て詰め込んだような気がするが、移動時間を足しても一週間足らずのことだ。
お父様にこの紅の瞳を見られたら何と言われるかな。お母様はまたため息をつくだろうか。スピキオは――両親を魔物に殺されたと聞いている。
何故そんな身の上の者を使用人として雇ったのか。事情は詳しくないが、気が重かった。
考え事ばかりしていたらあっという間にアルテイシア家に着いた。こじんまりとした館だが、つくりは頑丈で立派な門もついている。
「あの……お茶くらいお出ししますので、上がっていきませんか」
当然ながら私は晴れて自由の身……とはならなかった。憲兵のアケローン・サルドヴァ准将とミネスなんとかが護衛という名目で馬車に同乗していた。いきなり魔界の王の娘という脅威であり賓客になってしまったし、おそらく監視のためだろう。
「いや結構。 飲み水は携行しております」
「そういう意味じゃないと思いますよアケローン准将」
アケローン准将はむ、と考え込んだ後、ではごちそうになると答えた。
呼び鈴を鳴らし、スピキオが出迎える。うちはしがない男爵家だ。使用人は3人しかいないのだが、良い友人だったスピキオには――今は会いたくなかった。
「あ――」
目が合った瞬間、スピキオは今にも泣き出しそうな顔をした。
「お帰りなさいませ、ファリア様……!」
頭がついていかなかった。両親を魔物に殺されたはずのスピキオが、まるで神にでも会ったかのように喜んで見せた。
◆
うきうき上機嫌なスピキオの案内でエントランスへ入ると、皆がばたばたと集まってきた。家族は先触れを見て今か今かと待っていたようだ。
お父様の反応はやはりというかなんというか。
「ああ――――!」
お父様は膝をついて目元を抑えた。ついにそうなってしまったかと全身が言っていた。
本来サラサラの金のストレートをカールさせたり、服を無駄にピンクのふんわり系にしたり、私はうっとおしいこともあったが「大人しく可愛らしく人間らしい少女でいてほしい、魔王の娘だとしても」という意図はこの短い旅の間でなんとなく理解していた。
「ただいま。 説明してほしいんだけど、この紅の瞳について」
魔力は魔力隠蔽で抑えているとはいえ、以前の私の数十倍の魔力は漏れ出ている。
貴族は魔力で存在を把握することがある。母は一瞬私がファリアだと気づかなかったようだ。
「もちろん、説明するとも――ロードライト・ホワイト公ともそういう約束だ。 ……まずはゆっくり休みなさい」
お父様、テイラー・アルテイシア男爵はがっくりと肩を落とすのを隠そうともしない。
体力は既に回復していたが、多少は長旅に疲れた演技をすべきだろうか。
「それもそうだね」
「とにかく無事でよかったわ」
果たして、時間遡行でなかったことになっているとはいえ、純潔の身ではなくなった上二三回死にかけたのは無事と言っていいのだろうか。
そう思っていると、珍しい顔が見えた。
「なんだぁ、久しぶりに会った妹が魔族のかっこしてるぞ」
「! お兄様!? お帰りになってたの?」
金の髪にピンク色の瞳。 アルテイシア家の嫡子であり年の離れた兄のスヴェンは、海外へ香辛料の仕入れに長い旅に行っていた。 アルテイシア家にはごく狭い領地しかない。 嫡子であっても商人として身を立てなければならなかった。
砂漠地に長く居たせいか、少し濁ったいかにも商人らしい迫力のある声に変わっている。 少し見ない間に背も伸びていた。
「お帰り、とただいま。 珍しいこともあるもんだな」
一瞬も戸惑うことなく、いつものように頭をわしわしと撫でてくれる兄の手が嬉しかった。
その感情が明らかに昔よりは平坦なものになっていることからは、目をそらした。
次回お父様の懺悔回ですわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!




