王妃の願い
前回のあらすじ
憲兵からの取り調べのあと、王妃と謁見しました。
王妃はどうやら第二王子にお灸を据えてほしいらしいです。
エディとは、第二王子エドワード殿下のことだろう。
学園にも通っている男子生徒。高等部の生徒会副会長もつとめている。
ベルの婚約者であり――非常な女好きで、しょっちゅうお気に入りの女の子が変わる。
最近も子爵令嬢のフエン嬢と仲睦まじく過ごす様子の話が女子生徒達にウケたなあ。
まあ、あまり良い評判は聞かないお方だ。
「エディと懇意にしている生徒会の書記さんが教えてくれたのだけど……あの子、今度お誘いした夜会で貴女に婚約破棄を突きつけるつもりらしいわ」
ミネルヴァ王妃は頭を抱えている。
ホワイト家は、魔法での記録を主な義務としている。
記録は主役とは離れた楽な仕事だと、表立っては誰も言わないが、内心では思っている。
ホワイト家は資産や権力は常に盤石だったが、わかりやすい攻撃魔法や防御魔法に比べて、少々見劣りすると他の貴族からは思われていた。
しかし――その実体は、時間遡行によりほぼ国の趨勢を良い方へと操る要のような活躍ぶりだった。
誰もその活躍を記憶に残せない。残せないから見劣りすると判断される。何故かうまくいったと。
ミネルヴァとしてもホワイト家との間に禍根は残したくないのだろう。
王と王妃だけは定期的にホワイト家の記録を見ていると聞く。故にその重要性を理解しているのかもしれない。
「あら、そう」
「ごめんなさいね。 あの子の教育を間違えてしまったみたい。 貴女の記録も見ようとしないのよ……」
「殿下が期末テストのお勉強をするまであの手この手で繰り返した記録を見られたかしらね」
「面目ないわあ」
ベル、そんなことをやっていたのか。
自分の恥部が永遠に記録として残され、しかも王や王妃にまで読まれたのが嫌だったのかもしれない。
「そんなことは辞めなさいと言ったけど、全く聞かなくて。 強制的に謹慎させても良いのだけど、あの子は一度痛い目に遭った方がいいと思ったの」
「承知しましたわ。 でも、エディの評判がどうなるかまでは責任取れなくてよ」
ミネルヴァは目を細めて笑った。
「あら、もうあの子の評判なんてないようなものよ」
それはそれは柔和で美しい笑顔なのに、何故か私は恐ろしく感じた。
廃嫡も視野に入れてるわ、王子はまだいるしね、とでも言いたげだった。
ミネルヴァは第8子まで出産しきった、しかも5、7子を除いて全て男子というスーパー国母なのだ。
第一子は一方的な婚約破棄でみすみすエレノイア公領を逃したが、第三王子は有能と名高く、彼を王子にとの声も多い。
王家は成果を上げるものには糖蜜のように甘く、怠惰なものには苛烈な罰を与える、という評判は本当のようだ。
「それに――」
ミネルヴァ王妃は言葉を選んでいるようだった。
「あの子には、例の呪いに加担していた疑惑も出ているの」
とんでもない醜聞。
さらっと言い残して、ミネルヴァは8頭もの白馬に引かれる真っ白な馬車に乗り、王宮へと帰っていった。
一体何を話したのかミネス達に問い詰められた。
「王妃命令ですので、他言無用です」
ベルがそう言うと、憲兵達はすごすごと引き下がっていった。
王家パワーすごい。
ミネルヴァは去り際、憲兵達に見えないようベルに何か渡していた。
「手紙、ですか?」
ふわりと刺激的な香水の香りがただよう。ミネルヴァ王妃のイメージからは想像がつかない、
封筒から取り出した便箋を見たベルは、その整いすぎた眉をしかめた。
「あんのタヌキ王妃……面倒事を押し付けたわね」
「見てもいいです?」
ベルは少し考えた後、便箋を渡してくれた。
「今更魔王の娘にあの呪い以上の醜聞もないわね」
便箋にはこう書いてあった。
『エドワードは呪いの主と通じている テトトラ司教、エル・テペリ教会、5』
「この数字何でしょう」
「さあね。 行ってみたらわかるんじゃない?」
「……」
ベルが便箋を読む私の下に潜り込んで訝しげに見つめてくる。
「何、あなた、まだこの件に首を突っ込む気? 私は行かないわよ。 もう暫く休みたいの!」
「じゃあ私一人で行ってみますよ。 王妃じゃ流石に身動き取れないんですよね、きっと」
もし殿下があの呪いに関わっているなら、それはオルスフェーンにふさわしくない。暴くべきだと思った。
それに殿下に決定的な醜聞があれば、ベルは婚約破棄された悪役令嬢ではなく、悪を断じた強い人になれるかもしれない。
「でも死んじゃったらごめんなさい。 私、時間遡行は使えないので」
「……それ言われたら、行くしかないじゃない」
ベルはため息をついた。
王家から招待された夜会は2周間後。
ベルとは使い魔を通して定期的に連絡を取る約束をとりつけ、私はひとまず自宅へ帰ることとなった。
事前に準備するタイプの婚約破棄ですわ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!




