隠された真実
前回のあらすじ
イザベラ様のお母様は大変な功績をあげてきたようです。
「イザベラ様には、大変親切にしていただいています」
実験のためとはいえ、幾度も体を重ねているとはさすがに言い難かった。
(どうしてあんなうかつな事ができたんだろう……)
令嬢の処女性は家にとって重要な資産である。
ベルほどの人となればそれはもう結婚ひとつで莫大な財産を家にもたらす。
今は時を戻してなかったことになったとはいえ、私はひときわ鮮明に彼女のみだらな姿を覚えてしまっていた。
残暑の汗に濡れるオーロラの髪。
今も思い出すだけで疼くほどの快楽。
全てを捧げたくなるような魔性。
「ふむ……腹芸をしていても仕方ありませんね」
ロードライト・ホワイト公は一冊の書類束を持ってきた。
それには見覚えがあった。
神聖院での帳簿のようなもののコピーだ。
「それは……」
「神聖院の、呪い運用の帳簿の写しの一つです。 あなたや……娘の金額は『0』と記載されていた。」
そうだった。
私の名前の横には確かに0と書かれていた。
ホワイト公は深くため息のような深呼吸をした。
「これは……王家筋の誰かによるものと判明しています」
「えっ」
「娘には……オルスフェーン王家の第二王子、エドワード殿下という婚約者がいます。
しかし呪いにかかっても見舞いにすら来ないということは……恐らく、彼は仕方ない理由で婚約破棄したかったのでしょう」
ホワイト公にとってみれば、この上ない侮辱だろう。
「そのことについてとやかく言うつもりはありません。 オルスフェーンの情勢は最早変わった。
今はエドワード殿下よりももっと有益な嫁ぎ先がある」
「はぁ」
たかが男爵令嬢、政治には疎かった。
隣国のトワイライトとかだろうか。
小麦がたくさん採れて料理も美味しいし。
「貴女ですよ、ファリア・アルテイシア嬢」
「はぁ……?」
公爵がいいこと思いついた! みたいないたずらっぽい表情を向けてくる。
「あの子は元来から悪人や魔に魅入られやすい性質で本当に苦労しましたが、貴女がもらってくれるなら話は早い」
(ちょっと待って、話がすごい方向に逸れていく)
「魔界は今や最も大きな取引先。 なのに我々は彼らの流儀を今ひとつ理解できていない。
貴女が魔族として目覚めないようなら、このまま男爵令嬢として平穏に暮らしていただきたかったが……ファリア様が間に立ってくださるととても助かるのです」
政府の重鎮が、時には王家よりも権力を持つと噂のホワイト公が頭を下げている。
「あの、エドワード殿下との婚約は……?」
「どんな理由があれ窮地に見舞わないのは立派な婚約破棄の理由になるのです」
(どこまでが仕組まれたことなんだろう、全く読めない――)
魔族は騙されやすい。
人の深謀遠慮に興味がなく、力でねじ伏せれば良いとシンプルな考え方をする者が大半だった。
「それに、私は女性ですが」
「おや。 ふふ。 そんなものを本当に気にしているのは一部の古い貴族だけですよ。
性別を変えることすら、魔界との取引が叶った今は容易なのです……まあ、その古い貴族が幅を利かせているのも事実ですがね」
父は……テイラー・アルテイシアは、かなり古い考えに近い貴族かもしれない。
ピンクの目も、女性らしいふわふわの服ばかり着せたがるのも、いつも父だった。
(魔界も、お父様達の意向もまだ分からない以上、不用意な発言はできない)
「是非前向きに検討させていただきたいです」
思いとは裏腹に、ものすごく前向きな言葉が口をついて出てしまう。
どうしてベルのことになると全く歯止めが効かなくなってしまうのだろう……。
ホワイト公はにこにこと満足げに頷いた。
「色よい返事が聞けて喜ばしい限りです」
ちょうどベルがお菓子を持って戻ってきた。
「あら、ご機嫌そうねお父様」
「まあな。 娘は丁度解呪祝いにと、王家主催のパーティーに招待されているのです。
二人で楽しんでくるといい」
この時の私は、ホワイト公の執念をまだ知らなかった。
◆
ファリアは事情聴取のため軍事省へ赴くこととなった。
治癒は済んだとはいえ大怪我をした後だ。
もう少し休ませてやりたかったが、事が大きすぎたので1日と半日が限界だった。
馬車を待たせているため、イザベラもすぐに向かわなければならない。
「どうだイザベラ」
「……万事順調ですわ」
「そのようだな」
ホワイト家の女にはもう一つ、裏の役割があった。
魔王の血族を、その身でもって籠絡すること。
魔族は騙されやすく、しかし恋愛や忠誠のような深い信頼関係を結ぶには情緒が乏しかった。
そこを時間遡行の重ねがけでカバーできるホワイト家へ、記録はないが大昔に王命が下ったそうだ。
「苦労をかけるな」
「いえ。 それに私、あの子のこと結構気に入ってますのよ」
イザベラはそう言って、ファリアと憲兵の待つ馬車へと向かった。
「リリィ……」
ロードライト・ホワイト公には秘密があった。
「どうして戻ってきてしまったんだ」
しかし真実を知る者は、この邸宅には誰一人いなかった。
静かに眠る彼の妻を除いて。
ホワイト公大分アレな人のようですわ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!




