千文字の強化
前回のあらすじ
ついに解呪に取り掛かるファリアとイザベラ。魔力倍加の秘薬を使い、物量でゴリ押しするようですが……
『魔力倍加を使用する場合は――と唱えてください』
「――」
「!」
久しぶりの音。
人の耳には聞こえにくい発音だった。
ループ中の突然の異変にベルが目を見開く。
人の言葉に無理やり当てはめるなら、マナの根源に最も近い理知の魔神との交信を行い、強制的に魔力を倍加させる。
通常この世界の魔法は呪文も魔法陣も必要としない。
呪文を必要とするのは、異常に強力なため、本人の承認を必要とする魔法のみだ。
突如、魔力暴走に近い激流に包まれ、補助脳が可視化の速度を越えて倍加し始めた。
稲塚かプラズマかわからない刺激光が辺りにほとばしる。
「あっはは! 楽しいねこれ」
精神の愉快さとは対照的に、肉体は限界を迎えつつあった。
少しずつ魔王の血脈に慣れつつあるとはいえ、元は普通の男爵令嬢の肉体だ。
「ちょっと、手足にヒビが! 大丈夫なの!?」
ベルが慌てて止めに入る。
いくつか限界を越えてダウンする補助脳も出てきた。
加速度的に解析は進む。
補助脳が160機落ちる。 再起動。
落ちる。 再起動。 解析。
落ちる。 再起動。 解析。
あ、ダメだ。
こんなに急に限界って来るんだな。
「んー……骨は拾って?」
手首から先が弾け飛び、眼球が片方破裂する。
足が縦に割れ、辺りに血が飛び散った。
私は真っ白な光と、何か柔らかいものに包まれた。
◆
「……馬鹿!」
魔力の奔流の影響で雲が厚くなり、霧のような小雨が頬を叩いた。
意識を取り戻すと、中央教会の屋根が半壊し、光の帯が幾筋か私の女神を照らしていた。
私はベルの体に頭を預け、体を投げ出す形になっていた。
体といってもほぼ半壊しているが。
神聖院の司祭でもそうそう受けられない上等な治癒魔法で、血まみれになった私の体は次々修復されていく。
「あれ、時を戻していただければ大丈夫ですよ」
「もう一回貴女が壊れるかもしれないのに戻れるわけないでしょう!」
そう言われると、確かにどのタイミングから壊れ始めたのかはよくわからなかった。
魔力は……魔王よりちょっと強いくらいで止まっているようだ。
倍加の重ねがけは、今後より実験を繰り返して慎重に使わなければ。
呪いはどうなったんだろうか。
手を見ようとしたけど、弾け飛んでいたので確認できなかった。
魔法陣はもう消えてしまったようだけど。
「あの、お手を見せていただいても」
ベルは無言で手を見せてきた。
その間も一切治癒の手は止めなかった。
あざがすっかり消えた綺麗な手だ。
「良かった……」
アリスフィアがすっかりグロテスクになった私から目をそらす。
「おーい、終わった!?」
カテジナ達も駆けつけてきた。
遠くから、多くの人のざわめきが聞こえる。
「これから質問攻めにされるわよファリア。 覚悟なさいな」
オーロラに輝く絹糸を眺める。
彼女を見ているとどんな痛みも引いていくような気がした。
「いいですけど、ご褒美をください」
「……資産も爵位も思いのままよ、多分ね」
ああ、そうだった。
一晩一緒に過ごした夜の空気も、あなたの照れた可愛い顔も、時間遡行でなかったことになったのだ。
私が全て思い出していても、なかったことにしなきゃいけない。
「楽しみですねえイザベラ様」
イザベラ様はごく近くにだけ防音魔法をかけた。
「イザベラ様は長いって言ったでしょ」
「あれっ? えっと……」
「……あなた、嘘が下手ね、リア。 明確にスキルが積み上がる前提で作戦を立てるんだもの」
「ああー、そういうこと……」
本当は忘れさせてあげたかった。
ベルは確かにそう言った。
その意味を理解するには、もう少し時間が必要だった。
私は膨大に積み上げられた記憶を反芻しきれてはいなかったし、イザベラが何故最初から私に好意的なのか。
嘘つきのホワイト家の恐ろしさをまだ理解していなかったのだ。
やっとちょっときりがいいとこまで書けました。
ファム・ファタルに人生めちゃくちゃにされる話が大好きですわ~~~~~~~~~~~~~~~~




