千文字の修練
前回のあらすじ
過去回想です。
ファリアはクララを助けてもらうかわりにイザベラの奴隷になってしまいました。
イザベラから見て、ファリアは決して頭が悪い娘ではなかった。
言われたことはこなせるし、物覚えも良い方だった。
だが彼女は壊滅的に、空気というものが読めなかった。
「だから、他人の悪口を言われたら、
同じくらい毒にも薬にもならない悪口を言うものなのよ」
「はぁ、思っていなくてもですか」
「そうよ。 そういう類の人間は悪口でしか仲良くなれないの!」
放課後の談話室。
年季の入ったベルベット生地のソファに座りながら、イザベラはファリアに説教していた。
イザベラを恐れて誰も入ってこないので
実質貸し切り状態だった。
「そんな人とは……仲良くしたくないですねえ」
「ほんっとあなた貴族向いてないわよ。 生まれからやり直しなさい!」
できるならそうしたいんですけどねぇと苦笑するファリア。
それでもかなり立ち居振る舞いはマシになってきた。
しかし同時に、ファリアの体調は悪化し始め、
授業を欠席することも増えてきていた。
(あまりにも使えないから、
懇切丁寧に貴族の振る舞いを教えてやってるというのに!)
「あなた、悔しくないの?
馬鹿にされて、嘲笑されて、そのままでいいっていうの?」
ファリアは数秒目を閉じた。
「別に――構わないですね。
何が楽しいんだろうと不思議に思うことはありますが」
イザベラはほんの少しだけ気圧された。
まるで、蟻の喧嘩を眺める子どものような。
純粋無垢で、次の瞬間にはその場を血まみれにしてもおかしくなさそうな。
「あ、でもイザベラ様に構っていただけるのは楽しいですよ」
「構ってない。 シゴキとかイジメとかよこれは」
「イザベラ様は皆さんといかに私が愚鈍か、共有して遊ばないですよね」
「そんなことはないわ。 毎回大ウケよ」
「そうですか……」
かと思えば本気でしょんぼりした捨て犬のような様相を見せる。
「……冗談よ」
「ですよね。 イザベラ様は素直じゃありませんから」
文字通り受け取りすぎるなと教えたことを後悔し始めていた。
「貴女最近調子に乗ってないかしら?」
「乗りますよそれは。 こんなに素敵な方との時間を独占してるのですから」
ファリアはたまにきわどいセリフを言うことがあった。
イザベラはそれを指摘せずにいた。
そういう空気になってしまったら、この時間は終わってしまうのだ。
イザベラは王子に嫁がなければならないのだから。
イザベラもファリアも、笑うことが増えていった。
そんな平和な時間が続くと思っていた。
事件が起こったのは、秋に差し掛かった頃だった。
百合になるかならないかくらいが一番良いですわ~~~~~~~~~~~~~~~




