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アンモン家の紋章を身に着けるようになって三日後の事だった。
何時ものように仕事を受けようと商業組合に入ると受付のお姉さんに声を掛けられまた応接室に通された。
「指名依頼?僕にですか?」
「ルナミリク子爵様から二日後の昼前に自宅の方へ来て欲しいとの事です」
「ん?依頼内容はそれだけですか?」
「配達の依頼をしたいが細かい内容は直接伝えたいとの事です」
お姉さんから依頼内容を聞いたけど・・・なにそれ?普通に考えてそんなの受けられる訳ないじゃん。でも・・・・・
「・・・・・断れませんかね?」
「子爵家当主からの依頼ですし、流石にそれはお勧めできません」
「ですよね・・・・・」
予想通り貴族家当主からの依頼じゃ断る事も出来ずに受ける事になってしまった。
ルナミリク子爵家の住所が書かれた紙を受け取り自宅へと帰り、万が一のために両親に二日後の事を話し、戻らなかった場合は就職先の整備場に知らせて貰い、自宅に戻らずにゲベルへ避難して貰う事にした。
当然両親は納得しなかったが、僕も必ずゲベルに行くからと粘り強く説得を続けて渋々だが納得してくれた。
そして指定された日時にルナミリク子爵家へと向かい、門番に名前を告げると中へと通されて、リサは門番の詰め所の横に止めておくように言われてヘルメットをリサのミラーに掛けて予想通り逃がす気は無いようだと心の中で溜息を吐いた。
広い中庭を玄関に向かって歩く。
はてさて如何したものかと悩みつつ進んでいると玄関が開いて中から先日商業組合で会った名前も知らない女性が出て来てやっぱりこいつかと眉根を寄せた。
「ようこそお越し下さいました、オルト様」
「いえ、仕事の、依頼の内容を聞かせて貰えますか?」
笑顔で話し掛けてきた彼女には嫌悪しか沸かないが、あからさまに顔には出さずにすまし顔で仕事だと返事を返した。
「其方は父の方から説明させて頂きますが・・・ご安心下さい、貴方に損はさせませんから」
「それを決めるのは僕なんですけどね・・・・・」
傲慢極まりない台詞に反吐が出る。
自分達の事を神様か何かと勘違いしてるんじゃないか?
偶々貴族として生まれただけだろうに。
「では、こちらへ」
有無をも言わさず僕に背を向ける彼女の後を冷めた目をして付いて行った。
*
*
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「そろそろ時間だが現れなかったか・・・まったく父上も面倒な事を押し付けて下さる・・・・・」
夏の終わりに父上の指示で王都で彼、オルト・フィールズの身辺調査をして報告を上げたのだが、そのまま王都の別邸で彼を陰ながら見守るようにと指示され今に至る。
「まぁ、ニール殿が気に掛けている若者と言うだけで護る価値があるが・・・お前は彼を如何思う?」
「私ですか?私には少々変わった所が有るものの何処にでも居る少年としか思えませんでしたが」
私の傍に控えていた専属の執事に問いかけたが思っていたよりも酷い答えで落胆した。
あの報告書を読んでこの程度の答えとは・・・所詮は凡人か・・・もう少し頭の切れる男だと思っていたが買い被りが過ぎたか。
「ほう・・・だとすると少し考えが足りんな」
「・・・左様ですか・・・・・」
顔に出過ぎだ馬鹿者が。
「不満か?ならば問おう。いいか、三歳だ。僅か三歳の時から十八になるまでの十五年間、お前は一つの目標だけを追い続けられるか?それこそ他の欲望の全てを捨ててだ」
彼は幼少期には母の手伝いをして貰った小遣いを使わずに貯め続け、十三になると同時に商業組合に登録をし依頼をこなし続けたのだぞ?常人に出来る訳がない。
「そ、それは・・・・・」
「出来る訳がない。ある程度の年齢ならばまだしも好奇心旺盛な幼少期に他の物に目も繰れず、たった一つの目標だけを追い続け、諦める事無く成し遂げた。周囲の者は彼を『変人』と呼んだが、私からすれば彼はある種の『天才』だ。ごく稀に彼の様に努力し続ける事を苦に思わない者が存在するが・・・大成する者は少ない。何故ならば彼等が興味を持つ物が他者に利益を生み出すとは限らないからだ」
「・・・で、では、御館様が彼に紋章を与えたのは・・・・・」
父上が、いや、アンモン家が初めて他者に、それも平民に紋章を渡したのだ。何処にでもいる唯の少年の訳がない。
「勿論アバタ領の・・・いや、ゴタード商会の利益に繋がると見ての事だろう。何しろ彼の興味はゴタードの主力『魔導車』に注がれているのだからな。彼はエルフの混血で長命種と言ってもいい。彼がその長い人生で今まで同様の〝力〟を発揮し続ければデクス会長の右腕・・・いや、下手をすれば次期会長の目も有るかもしれん」
「そ、そこまでですか・・・・・」
後数年したら父上にこ奴を筆頭に推挙するつもりだったが考えを改めねばならんな。
「ああ、それが天才と言う物だ。だから父上が私に守護の任を言い付けたのだろう。彼を他の者に取られる訳にはいかんのだよ」
「で、では・・・・・」
「うむ、ルナミリク家へ彼を迎えに行くぞ!急ぎ魔導車を用意せよ!王都の木っ端貴族に後れを取る訳にはいかん!」
「「「「「はい!」」」」」
室内に居た使用人達が一斉に動き出す。
十名の護衛の内二名が魔導四輪へと乗り込み他の八名は魔導二輪で周囲を囲む。
私と世話係の執事が魔導四輪へと乗り込むとルナミリク子爵家へと出発した。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




