20話
「双子の妹なんですけど、人混みではぐれてしまって。お昼休憩には兄と揃ってご飯を食べるつもりなので見つけたいのですが」
「妹さんを放送で呼び出すっていうのはどう?」
「あぁ、それは考えたんですけど、妹がそれは嫌がりそうなので。一応は連絡は取れていて校舎の昇降口前で待っていっているのですが、僕が場所がわからなくて……」
もしかして、迷子なのは君の方なのでは?なんて言葉は飲み込んだ。
程なくして昇降口が見えてきた。ここまで来ると観戦客は殆ど、おらず空気は一変した。
「あぁ!やっと来た!」
そう声を上げたのは昇降口に立っていた少女だった。長い髪をハーフツインにして可愛らしいオフショルダートップスにシンプルなミニスカート。彼女が妹さんだろうか。
「遅い!一体どこほっつき歩いていたのよ!」
「ことねぇぇぇ、よかたぁぁ!急にいなくなるんだもん」
「いなくなったのはそっちよ!トイレに行くっていうのに競技に見入ってついてこなかったでしょう!」
やっぱり迷子はこっちだったか。
「妹さん、見つかったようで良かった」
「ちょっと!誰よ、この女!」
まるで浮気相手だとでも言うような言い方だ。
「や、やめてよ。ここまで案内してくれたんだよ」
「そうなの?てっきりあんたが月ノ塚学園に通いたがってるのって、この女がいるからかと」
「違うよ!兄ちゃんがいるからだよ!!」
完全に二人の世界だ。まぁわざわざ割って入る必要もないが、なんだか孤独感を感じる。という、もうすでにお昼休憩だ。お腹が空いた。
「あぁ、いたいた」
「兄ちゃん!」
どこか聞き覚えのある声。
「ふたりとも、なんでこんなところに……と、幸村?なんで一緒に?」
あぁ、いつもと変わらず元気な先輩。思えばふたりとも顔にその面影がある。
結局、早瀬さんは最初から最後まで大活躍だった。個人競技はもちろんクラス対抗リレー、選抜対抗リレーはアンカーをつとめ、周りを圧倒していった。それでも優勝した色は早瀬さんの色ではなかった。やはりバランスを見て色分けされているのだと納得させられた。生徒会副会長、春馬さんの閉会宣言で体育祭は終わり、場内の客は段々と減っていった。私達も会場の片付けをしてクラスごとに解散だ。その点うちのクラスの学級委員は優秀。閉会式の前にテントの荷物を片付けるように指揮を取っていた。だからすぐに帰れる。まぁ、私はこの後放送部でご飯を食べに行くからどのみちみんなを待つのだけれど。なんて考えながら私はふわふわとした気分で着替え終わり靴を履き替え校門に向かう。すると門の横に何処かで見覚えがある姿が立っていた。
「あ、あの!ゆき......むらさん!」
「えっと、湊くん、だっけ?」
「先程はお世話になりました」
彼はぶんっと音を立ててきれいな90度角のお辞儀を披露する。
「妹さん、見つかってよかったよ。まさか早せ―――裕貴さんの弟さんだったなんて」
「兄がいつもお世話になってます!」
あぁ、今のは少し早瀬さんに似ている。でもやっぱり早瀬さんとは少し違う。あの人は、イノシシ。湊くんはうさぎだ。一つしか年が違わないのに幼く見えるのはなぜだろう。
―――......あれ?
「琴音ちゃんは?」
「琴音なら......―――
ん?あれ?え、あれ?おかしいな、さっきまで後ろにいたのに」
「さっきまで」という言葉が私の中で引っかかる。私が見つけたときから彼は一人だ。
「はぐれました。連絡してみます」
湊くんはそう言ってスマートフォンを取り出した。
「あれ、電話に出ない......おかしいな、兄ちゃんが校門で待ってろって言ってたのに」
その瞳には涙を浮かべている。校庭から校門までは一本道。一体どこではぐれる要素があったんだ。
果たして本当に迷子か。普通はこう考えないだろう。だがここ数ヶ月はいろんなことがありすぎた。なんともなければいいのだが。その時、スマホの画面を眺めていた湊くんの肩が大きく揺れた。
「あ、あの......こ、こ、琴音が......、。
琴音から連絡きたんですけど――」
彼がそう言って見せてきた画面に、私は背筋が凍った。
『ふぇQB貉翫∝勧縺gsっ代※縲ゅ%縺はhれ薙′縺〒ゥ縺薙gっりょ°繧上°tねj繧峨↑縺あr�るサ偵¥縺ヲ髟タエjhキ縺�b縺rちぇhrョ縺^後>繧�F』
文字化けしたような羅列の文はどこか不気味だった。
その時、ブッとスマホが揺れ、着信画面が現れる。しかしそれは1秒にも満たず消えてしまう。そしてまた同じようにスマホが揺れ、画面が現れ、消えていく。それは何度も続いた。そして着信画面には「琴音」という文字が確認できた。
「なに......何だよこれ......。ドッキリにしても悪趣味すぎるだろ......」
「少し借りてもいい?」
私は湊くんの手からスマホをとり、タイミングを合わせて電話を繋げた。
「――............。」
声はしない。私はそのままスピーカーボタンを押し、音量を上げた。
「琴音!?今どこにいるの!?」
湊くんが声をかけても返ってくることはない。
「――............。」
「琴音!?琴音!?返事してよ」
「――............。」
「ねぇ!」
「――......縺..ァ蠕......縺ヲ」
ノイズがかかって聞こえにくかったが、たしかにそれは初めて音を発した。
「琴音!?なんて!?」
「――縺昴%縺ァ蠕?▲縺ヲ繧阪?よョコ縺励※繧?k!!」
突然大音量で日本語ではない言葉が飛んでくる。
「ひゃぁぁぁぁははははははぁははあはぁ!
縺昴%縺ァ蠕?▲縺ヲ繧阪?よョコ縺励※繧?k!
縺昴%縺ァ蠕?▲縺ヲ繧阪?よョコ縺励※繧?k!!
縺昴%縺ァ蠕?▲縺ヲ繧阪?よョコ縺励※繧?k!!
ひゃぁぁぁぁぁぁははははぁはぁはぁぁ!!!!
縺昴%縺ァ蠕?▲縺ヲ繧阪?よョコ縺励※繧?k!!」
そしてそれは笑いながら同じような言葉を繰り返していた。湊くんは大急ぎで通話を終了させた。
「なんだよ、なんだよこれ!」
完全に気が狂っている。
「今のは、琴音ちゃん?」
「わかんない......です。声は琴音です。でも、でも......」
彼は肩を震わせ、今にも泣き出しそうだった。




