19話
6月のくせにサウナの中のような暑さが私を襲う。本日は体育祭。
「暑いね―」
「暑いですねー」
「暑いよね―」
「暑いですよね―」
暑さで脳みそが溶け、永遠とこの会話を繰り返す。会話の相手は半袖半ズボンの体操服の下に黒の長袖、タイツを履きサングラスを掛け、テントの中にもかかわらず日傘を差している美月先輩だ。日の下で長時間肌を晒してはいけないのだとか。私達は放送部。放送で競技の説明や実況、選手の案内を行うのが今日の仕事だ。私の出場競技はすべて午後なので午前中はずっとここにいるつもりだ。え?友達のところへ行かないのかって?いるわけ無いだろう、そんな友達。なんせ体育祭はクラスごとに色が異なり色ごとに応援席もとい待機所が設けられる。まぁ、私の同じ部活以外の友人など刹那と福井くんしかおらず、福井くんは違うチームだし、刹那は声をかけてもずっと本を読んでるし、つまりいないようなものなのだ。それと応援席はテントがないので、まぁ暑い。
「放送部。次の選手案内入れて」
私は手元のマイクの電源を入れる。
「借り物競争へ出場する選手は入場門前に集まってください。次の競技は『水合戦』です」
そしてまた違うボタンを押すと軽快な音楽がスピーカーから流れ、多くの選手が入場してくる。
「えー、水合戦は各クラス15人の選抜です。ルールは頭の上についている紙風船を割られれば生徒はその時点で失格。選手が多く残っていたクラスが勝ちとなります。また、紙風船への素手での攻撃は禁止です。紙風船を破壊するときは各クラスが用意した道具を使って水で攻撃してください。失格になった生徒の道具の使用は禁止です。今回の競技、見どころはどこでしょう、放送部の美月さん。」
「そうですね。この競技は肉体だけの勝負でなく頭脳勝負でもあるということでしょうか。各クラスには800円ずつ支給され、その中で生徒たちが今日使用する武器を選択したため、いかに低予算で威力の高い武器を用意できるかが要になりますね」
「なるほど。目安までに割としっかりとした水鉄砲が百均で1個100円で売られてますね。ちなみに800円は税抜きなのでしょうか」
「税込みでしょう。もちろん1人1個水鉄砲を用意するお金などないのでチーム全員に均等に配当するのか、偏りを作らせるのかも重要ですね。ちなみに水は無制限に補給することができますが補給所は2箇所しかないため補給している間に狙われる可能性もあります」
「ありがとうございます。いよいよ競技が始まります。選手の皆さんは位置についてください」
パァンというピストルの音が鳴り響く。
「さぁ、勢いよくスタートしました。やはり鉄砲を持つ人が多い印象ですね」
「と、ここで2年3組が集まってますね。一体どういった作戦なのでしょう」
「いえ、これは給水所を囲んでいます。水の1つを独占しています。たまらず他の選手がもう一方を目指します!まるで食べ物に群がるありのようだ!!」
「2年3組の選手の一人が勢いよく飛び出しました。今度は何をする気なのでしょう。……これは、もう一方の給水所を目指していますね」
「あ、もう一方の給水所の水が入ったバケツを倒しましたね。そしてそのまま頭の上の風船を割られてしまった。しかし、これで2年3組以外は水を足すことができなくなってしまいました」
「まるで兵糧攻めですね。さぁ、どう打開するのでしょう」
「このまま2年3組の作戦勝ちですかね」
誰もがそう思っっていた。もちろんそれは選手たちも。だから他のチームは2年3組を避け2位を狙おうとした。水を節約しながら。そんなとき2年3組の青いはちまきの中に一色、違うはちまきが混ざっていた。すると突然給水所を中心に多くの水が飛び散った。集団戦法が仇となった2年3組はその一撃で多くの紙風船を失った。
「2年4組早瀬選手。給水所の貯水をすべて撒き散らした!なんと大胆!」
「。2年3組の紙風船は残りわずか!そして早瀬選手、止まることなく自身の水鉄砲で敵を倒していく。さぁ、どうなってしまうのでしょう」
パァン。ピストルの音が鳴り響く。
「ここで試合終了!」
様々な競技で大活躍を見せる早瀬さんの意気揚々とした実況を遠くに私は自販機で水を買いに来た。すでに売り切れの文字が多く見られるそれにお金を入れボタンを押し、ドンッという音とともに透明な容器と液体が下から私を覗いている。私は姿勢を低くして冷たい容器を手にする。その時、なにかがカンカンの太陽が発する光の一部を遮った。私はふと顔を上げてみた。すると目の前の何かと目があった。
「あ。」
目の前の何かは小さくそう発した。それが人であることに気がついたとき、すでにそれは小さくしゃがみ込む私につまずき、私を飛び越えて頭から地面に突っ込んでいった。
「――いたた……」
痛いのはこちらもだ。それ……その男の子は私とそれほど年が変わらないように見えた。ただ、体操服を着ておらず、誰かしらの血縁なのだろう。
「あぁ、ごめんなさい、前見てなくて……」
彼は私と目を合わさないでそういった。シャイな子なのだろう。彼はこの暑さにも関わらず長袖に長ズボン。顔こそ赤いが怪我はしていないように見える。それにしても誰かに似ている。
「えっと、とりあえず怪我はないですか?何かあれば保健室まで案内しますよ」
「あ、いえ。特には。妹を探さないといけないので」
人探し。迷子だろうか?
「人が多くて大変そうですけど、私でよろしければ妹さんを探すお手伝いしましょうか?」
「いえ、そんな。ご迷惑になりますし」
自販機の使用者に気が付かないほど焦っているのだろう。
「ちょうどお昼休みまですることがないので構いませんよ」
「でも――」
彼は少し考えた。そして「おねがいします」とやっと私の目を見て答えた。




