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妖霊怪奇学園綺譚  作者: ±√
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18/25

17話

突如として目の前に現れた男は私の顔をよく覗き込んだ。男は若い容姿の割に深い目をしていた。彼が私の頭に触れる。瞬間激しい痛みが頭中を走り回る。その痛みはどこか「4月の痛み」に似ていた。目の前が真っ暗になった私の頭の中に流れるノイズ。古びて壊れかけたテレビの砂嵐のような映像が頭の中に居座り、その映像は少しずつ人を映すようになる。映像が悪すぎて、それが人間だとやっと認識するレベルだが、こんな映像は見たことがない。もしかするとこれは、私の失くした記憶。

「いやっ!!」

私の「芯」がまるでその記憶を拒むかのように不快感を発している。

『あの人のいない世界に私は生きる意味がないの』

『元々死ぬために生まれてきたのに』

『失敗作だから』

『ねぇ』

『おねがい』

『私を殺して』

悲痛の中でそう叫ぶ声はどこか耳馴染みがあった。そこはとにかく真っ暗な闇の中だった。


「あら、目が覚めたのね」

「京華さんっ!」

青空をバックに映る先輩の顔はやたらと疲れて見えた。

「あの二人は――」

「逃げたわ。貴方は精神疲労で倒れたの」

精神疲労。直前に見たことを思い出そうとしてもあまり良く思い出せない。

「痛むところはない?」

「はい。刹那ちゃんはどこに?」

彼女は少し離れたところを見つめた。

「復旧作業に行ってるわ。あと、亡くなった人の回収に」

その時、初めて今回の件で死者がいることを知った。そんな相手が逃げ出した、それを聞いて、どす黒い日が腹の中で燃えるような気持ちになった。

「なにか、観(・)た?」

「――……はい、よく、思い出せないんですけど」

私がそう言うと、京華さんは何かを感じ取ったかのようにふぅっと息をついた。

「もしかしたら、貴方の探しているものは追ってはいけないものかもしれないわね」

京華さんの言う通りかもしれない。覚えていないが、覚えている、あの不快感を。思い出せても思い出したくないあの苦しみを。

「彼、貴方のことを『紫蘭』と呼んだわ。その人に心当たりは?」

「すみません。ないです」

「それもそうよね」

彼は千年前に封じられた身。私と面識があるはずがないのだ。となれば私によく似た人が千年前にもいたということだろう。もし、私の記憶がイモムシを噛むような記憶なら。ただの自己防衛なら。それでも私は自分を追いたかった。ノイズの先の少女が気になるから。こうして長くて短い1日はぐちゃぐちゃに濁った雪を私の心に残して過ぎていった。そして私は少しばかり世界から色を失った。


 20XX年5月XX日羅天神社、羅刹天の出現より死者4名、負傷者6名。


 どれだけ拒んでも朝は来る。月日のめぐりは早いもので、合宿が終わったかと思えば次は体育祭だとか。時間割にあるHRの時間にクラスの体育委員が出場種目の競り(せり)を行っている。手を上げたもんがちだとか。そういうわけで自己主張の激しいクラスの中心人物から種目が決まっていく。もっといい決め方はなかったのか。やっとの思いで私は目立たない玉入れと綱引きの権利を手に入れた。特段運動が苦手というわけでもないがやっぱり見る専。気ままに楽しみにしていよう。

「え?美月先輩、どの種目にも出ないんですか?」

放課後、少し早めに放送室に向かうとすでに美月先輩がいた。

「えぇ。昔から病気がちでね、お医者さんから止められてるの」

美月先輩は「本当は私も走り回ったりしてみたいのだけど……」と少し寂しそうな顔を浮かべて外を見た。

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そんな空気を粉々にする誰かの声。凄い音で放送室の扉が開き息切れ切れの早瀬さんがやってくる。

「匿って、匿って!」

そう言って彼は美月先輩の後ろに隠れる。するとすぐに再び扉が動き一人の教員が顔を出す。

「ごらぁ、早瀬はどこだぁ、どこ行った」

低くて太いその声の教師は早瀬さんを探しているようだ。この人は何かをしたのだろうか。

「先生、早瀬はここです」

「ぬあ⁉おまえっ!!」

美月先輩が容赦なく早瀬さんを売る。

抵抗するも虚しく首根っこを掴まれる早瀬さん。いったい彼に何があったんだ。

「お前、ギリギリ進学した万年赤点人間だろ。ほら、付きやってやるからせめて1教科でも赤点を回避しろ」

「いやだぁぁ!お前に教わるぐらいなら俺は後輩に教わる!!」

「お前、先輩としてのプライドはないのか。國光、こいつどうにかしてやってくれ」

「この人は副会長に教わったほうが素直じゃないですか?」

「ふん。ならお前、次のテストでも全強化赤点だったら今年は放課後毎日補習だからな。中学範囲からやり直させてやる」

「いやだぁぁぁぁぁ!だって俺、いんぶんすうかい?できないもん」

「「因数分解な」」

たしかにそれは大変だ。後輩にも教われる内容だ。話を聞けば毎回全強化赤点だとか。一体この人はどうやってこの学校に入学したんだ。

「そうだ、白(つくも)と一緒に補習を受ければ怖くない!」

「舘森(たてもり)は常に学年平均のちょっと上ぐらいよ」

「国光は?」

「残念、私は全教科常に1桁順位よ」

さすが文学少女、美月先輩。やはりこの人は頭がいいのか。私も忘れていたが中間テストは体育祭の前にある。私も頑張らなければ。

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