12話
「刹那ちゃん!」
「いらっしゃい。あがって」
刹那ちゃんに電話でお家にお呼ばれした私は、急いで服を着替えて家を出てきた。刹那ちゃんの家は本当に神社で彼女は巫女のような服を着ていた。聞けば家のお手伝いをしていたのだとか。私はそのまま客間へ案内され、そこでは京華さんが待っていた。なぜ京華さんがいるのかは分からなかったが、私服の彼女はすごく落ち着いた雰囲気をまとっていて大人びて見えた。
「座って」
私は指示されるままに畳の座敷に座った。
「昨日は大変だったみたいね、春馬から聞いたわ」
「そう、ですね......。でも、なんともかなったので」
彼女は「なら良かった」と目の前のお茶を飲んだ。
「それで、これを見せようと思って今日呼んだのだけれど」
刹那ちゃんはすっと古びた分厚い本を机の上に大切そうに置いた。表面はボロボロになっていて、タイトルは読めなかった。
「昔、このあたりであったことをまとめられた本よ、見てほしいのはこのページ」
彼女はペラペラと本をめくりだし丁度真ん中ぐらいのページを開いた。ぺーじには筆で繋がれた文字がズラッと並んでいる。部分的な漢字は読み取ることができても、その文を読むことはできなかった。
「長々書かれているけど、このあたりにあった一つの村の人々が一斉に五年分の記憶を失ってしまったと書かれているわ。でも不思議なことに、それは脳が五年分衰退したわけではなく部分的に、ある少女の記憶を失ったと記されているの」
部分的な記憶の喪失、まるで私のようだ。
「『覚えたるは我ばかり。少女はなほ物の怪なりき。』」
「覚えているのは私だけ。少女はやはり化け物だった」
どうやらこの筆者はその少女のことを覚えているらしい。なんとなく、この記憶喪失の原因は少女にあるのではないかと考えた。
「これはその村の村長が記したものよ。蔵の掃除をしていたら出てきたの」
刹那ちゃんはツンとした態度を取りながらも、どうやら私のことを気にかけていてくれたようだ。なんだが心があたたまる。
「うちにあったそれっぽい情報はこれだけよ。京華さんが訳してくれたのだけど、あまり情報はなかったわ」
「でも、すべての村人の記憶を奪うなんて人間の業じゃない。きっとこの少女が私の記憶っ喪失に関わっているのよね」
「何らかしらの関係はあるのだろうけど、当時、その少女は五歳ぐらいの姿をしていたらしい。それにこの事件の前に何度も変な男が村を訪れたとも書かれている。その男は自分のことを『禍津日神』と名乗った」
「『禍津日神』、日本神話に出てくる災いの神の名前ね。もちろんその少女も男も、その後姿を表すことはなかったのだとか」
「ちなみにこの話はいつぐらいのものなんですか」
「平安後期ぐらいじゃなかったかしら」
平安......。なんとなく文字の具合から予想はしていたが、随分昔の話だ。この話が最近のものならその少女か、そのま禍津日神が原因だという可能性が高まるが、なんとも言えない。私は読めないながらもなんとなくペラペラと本をめくってみる。まるで文字がそういう模様のように右から左へと流れていく。その中でも何度も使われる「幸ひなる村」文字が私の目にとまった。村の名前や特徴だろうか。どちらにせよ、何度も使われているということはこの本にとって重要なワードなのだろう。
「京華さん、これって――」
尋ねかけたその時だった。鼓膜を破るような大きな音と立っていれば倒れてしまったであろう凄まじい揺れが私たちを襲った。
「地震!?」
揺れが止まると、やがて外が騒がしくなった。色んな人がドタドタと家中を走り回っているようだ。刹那ちゃんが「様子を見てくる」と出ていった。部屋に残された私はただならぬ状況に心臓がバクバクと激しく脈打っていた。その一方で京華さんは自身の少し大きめのバッグを開け、そこから黒くて長い袋を取り出した。そこから出てきたのは刃物と棒。
「京華さん、それは?」
「組み立て式の刀よ。さっきの揺れがただの地震じゃないことは何となくわかっていると思うけど、なんだかすごく禍々しい気配がするの」
その時再び床が揺れる。今度はドンドンと何度も揺れ、まるでそれはなにかの足音のようで、私の脳裏に酒吞童子がよぎった。その時バタッと襖が開いた。
「伊与、一旦あなたはここを離れて。帰ってもらえる?」
「どうしたの?!なにかあったの?!」
彼女は苦しそうな表情を浮かべた。
「京華さん、とても危険なものなのですが少し手を貸してもらいたいです。私達では力不足で」
「もちろん。相手は?」
彼女は重々しい口を開いた。
「1000年以上続いた『羅刹天』の封印が今解かれました。何者かの手によって」




