34 - 新たな作戦
「さて、始めましょう」
サーシャと別れ、地下牢を抜け出したルリアは「ボックス」を整備しながら二人に言った。
「始めるって何を?」
クーカスの質問を聞こえなかったようで、ルリアは何一つ返事をせず、「ボックス」の整備に没頭していた。
クーカスも目をほそめてしゃがむ彼女の目先を追った。
以前とはちょっと違う。とクーカスは思った。少し目を離れてシーカのほうげ見やると、どうやら彼もルリアの新装備に気づいたようだ。
真っ黒な箱。外見は以前と変わらないが、中身を覗いてみると、いつもの収納空間がなくなっている。代わりに二本のアームがぴったりと折りたたまれている。
それ以外の変化はなかった。「ボックス」を閉じり、ルリアがそれを背負う。すると初めて気づいた。
「ルリアお前……縮んだ?」
「んなわけないでしょう!」
「でも以前より小さく見えた気が……だよな? シーカ」
無言でシーカは頷きを返す。
「何よ二人とも! 『ボックス』を大きくしたんだよ。っていうか気づくの遅い!」
再び「ボックス」を地面に置き、ルリアは「ひょい!」と「ボックス」の上に座った。
宙に浮いている両足をぶるぶると揺らして、ルリアは足を指しながらいう。
「ほらね、これはわかったでしょ?」
「お前昔それに座っても足は床に付くのに、今は付かなくなった。つまり……」
小首をかしげ、クーカスは数秒ほど考えに耽る。
そして次に、結論を口に出す。
「ルリアが縮んだ」
「むっ!」
眉間にしわを寄せ、ルリアが軽く「ボックス」を叩く。
「ちょっ! ーー痛っ!」
ボックスの左から急に飛び出す一本のアームが「グー」でクーカスを殴った。
「……へぇ」
クーカスとルリアがいつも通りふざけている中、シーカはじーと「ボックス」から伸び出すアームを見て興味を示した。
「ふふーん、どう? すごいでしょ!」
自慢気にドヤ顔をしているルリアに、シーカは素直に拍手を送った。
「……変わったな」
「そうだな、変わった変わった」
シーカとクーカスが口そろってそう言うと、ルリアがとても嬉しく感じたように今度は「ボックス」の上に立った。
「当然です! 私だってサボってるわけじゃないから。--ねえねえ、中身見たい? やれやれしょうがないな、そんなに見たいなら見せてあげよう! 大きくしただけじゃないのですよーー」
「いや、それじゃないんだ」
「……ああ」
何の話か全く理解しなかったように、ルリアは顔を二人の間に往復させた。
「お前だよ、ルリア。--変わったのはお前だ」
クーカスとシーカの笑顔に、ルリアはなぜか一瞬恥ずかしくなってテレ始めた。
「な、な、何よ! もうシーカまで私をいじめるなんて!」
赤らめた顔で「ボックス」から降りて、背負い直す。
「行くわよ! 時間ないんだから!」
「だからどこ? って訊いてるんけど」
「約束した報酬を取りに行くに決まってるでしょ」
茶番はここまで、と言わんばかりにルリアは雰囲気を一変させて、にやりと笑う。口の端から露出した牙に僅かに殺気を帯びさせて、言う。
「今なら一瞬でこの町を吹き飛ばせるわよ」
賛成、もしくは「ルリアってすごいな!」と褒められると思ったのかもしれない。ルリアは自慢げに二人を見ると、意外なことに二人は何の反応もしなかった。
むしろ、二人はため息でも吐きそうな顔だった。
「城門を破った時のあれなら、俺は賛成できない」
「え? なんで?」
「……被害が大きすぎる」
「別にそれをぶっぱなしってわけじゃないのよ? ただ、今の私たちの戦力ならーー」
「ルリア」
まるでルリアがこれから言おうとすることがわかっているように、クーカスは彼女に訊いた。
「今の俺たちなら、あのボスイヌを倒すまで何日かかると思う?」
「4ーーいや、3日かな。ボスイヌのところまで辿り着くのも時間がかかるし、それに前回のように途中で邪魔が入ると思う」
「……10日。方舟のサポートがあれば」
「そんなに掛からないよ、しかもここじゃあアークは繋げられないし……ちょっとシーカ、私を嘗めすぎたじゃないのかな? 私も戦力のうちに入れなさいよ。この、この」
ひょいっとシーカ近づき、ルリアはいつもの調子に戻って肘でシーカを突いた。しかし近くに見てルリアは初めて気づいた。シーカの表情は本気そのものだった。
「その様子だと、お前も奴らと戦ったのか」
右手を拳に、左手が右手を包むようにクーカスは「パン!」と両手を胸の前で合わせた。歯を軋みながらクーカスは悔しそうに言った。
「今の俺ならできる。奴らに勝てる。--俺はそう思って一回ボスイヌのところへ向かった。だがダメだった」
「それはどういう……」
「本気じゃなかったんだ。俺らが必死に逃げて、結局バラバラになってしまって……俺らをそこまで追い込んだあの時の奴らはまだ本気を出さなかったんだってことだ」
クーカスが言い終わった。ルリアはそのことの真偽を確かめるかのようにシーカへ目を向く、するとシーカは無言の頷きを返す。
「それでも戦おうとしたら勝てるだろう。今の俺たちなら、シーカの言う通り、ちゃんと準備をして、10日もあれば勝てるかもしれない。--でも、その間に何人が死ぬかはわからない」
クーカスが眺めている方向に、アニモはもちろん、そこに人間もたくさん住んでいるのだ。
「全員が人質、ということですか」
「ああそうだ。俺が前にバトルショーに参加させらたのもそれが原因だ。--参加しなければ黄老師たちを殺す。脱走しても殺す。反抗してアニモを殺した場合ももちろん……もう、どうすればいいか」
怒りと悔しみが混ざり合って、クーカスはしばらく言葉は出せなかった。
「なんだ、そんなことで悩んでいたのか」
けれどルリアはそんなクーカスの悩みに少しも同感できなかったように、笑顔で彼の肩を叩いた。
「アニモを倒す。人類たちをこの町から逃がす。--この二つの任務を同時に行えばいいじゃない?」
「だからそれができないと」
「できる」
具体的な計画はまだ何一つルリアは口にしなかった。でも、彼女がいう「できる」はとても心強い言葉に聞こえた。
「あんたは黄老師たちと繋がりをもってしまったからアニモたちは彼らの命であんたを脅している。だから、クーカスは戦闘に参加しなくていい」
まるで以前の通りに、ルリアが作戦を言い渡し、シーカとクーカスはそれに耳を傾く。
「でも私は違う。私が大暴れをしていれば奴らはきっと私の方へ注意を向くでしょう。その間に二人は皆をこの町から逃がす。--どう?」
「いい! それいいよ!」
希望の糸口を見つけたかのようにクーカスはルリアの両手を掴んだ。
「やっぱりルリアってすごいな!」
「へへぃ、そんなこと……なくもないけど」
手を頭の後ろへ回し、ルリアは顔を緩めた。
「その前にサンスさんたちを見つけないと。サーシャさんの情報が手に入れて、サンスさんたちを救出した後にこの作戦で行きましょう」
ルリアが手を前に出し、シーカもクーカスもそれに真似て手を出してその上に重ねた。
どうすればいいかわからなかった。そしてルリアが出現してすぐに解決の糸口が見えてきた。
クーカスもシーカも、この流れを知っている。
「じゃあ、今はまず情報収集ですね!」
「ああ」
「……わかった」
--後は彼女の指示通りに動けば、すべてが上手く行くんだ。




