27 - 正門突破!
【万種の町】は、攻撃を受けている。
今度は誰だ? と誰もが眉をひそめ、戦火が燃え上がるほうへ眺める。
「やれやれ……また知らずの人類か」
門のほうから帰ってきた数体アニモがそう言いながら頭を振っていた。彼らを見た者たちも、「そうか、まったく驚いたぜ」と笑い飛ばし、皆それぞれ元の場所に帰ろうとした。
人類ごときに何かできるというのだ。このようなことは今まで何回もあった。一ヶ月前はちょっとできる奴が三人来て王の寝室を壊したが、それも子供の嫌がらせに過ぎなかった。
だから今回の騒ぎも、どうせ昼ご飯ができた頃には静まるだろう、と誰もがそう思っていた。
「歩け!」
攻めてきたのは人類。それを知った者は誰もが元の場所に帰ろうとする時、街中の人類たちだけが、いつまでも門のほうへ縋るような目を投げていた。
「聞こえないのか! このっ!」
罵られても、蹴られても、鎖を引っ張られても、地面に這いずっている人類たちはびくともしなかった。
--もしかすると。
妄想が暴走する。上から唾を飛ばしながら罵声を吐き出すアニモたちに、数人の人類は密かに歯を食い閉め、拳を握った。
「……お騒がせしてすみませんでした」
一体のイヌ型アニモが大声を出した。
アニモにしては小さい個体だが、その丁寧な話方に滲み出すオーラは、街中騒いている者を黙らせる。
「今我が【万種の町】の正門に攻撃を受けています。しかし相手は一匹の人類、我々がすぐに対処しますので、どうか心配しないでください」
それを聞いたアニモたちは「頼んだぞ」と笑みを浮かばせた。
それを聞いた人類たちは、握り締めた拳を、緩めた。
ーーーーーー
「聞こえるか? --シーカ! クーカス!」
いくらマイクに声を入れても、返信は帰ってこない。
ルリアはこの一ヶ月間で何回も通信を試していた。繋がらない原因は距離が離れすぎたと思ったが、今こうして【万種の町】の正門まで来ても繋がらないと、二人のところに何かアクシデントが起きたとしか思えない。
「ねえ、返事して!」
それでもルリアは通信を諦めなかった。必死に二人の名前を叫んで、ヘットフォンに「待ってたよ」という返事が来るのを期待していた。
もう前のようには行かない。この一ヶ月間で頑張ってきて、強くなって、二人を救いに来たのに、もしその二人に何があったら……
「一人で来るとは良い度胸じゃないか! 大人しく」
「っ!?」
ルリアと【万種の町】の正面の間に、まるで黒い海が波を打つように、イヌ型アニモの大軍がいる。
その先頭を走る一体がルリアの不意を突いて、剥きだす牙をルリアの背後を狙ってきた。
「邪魔だって言ってんの!」
一瞬の反応で「ボックス」の推進器でターン、不意打ちを躱してルリアは相手へ目を配ることなく、空中に浮いたままの体勢で、左手首に装着したスマホに、右手の指で操作した。
「ーー『アーム』!」
背後に背負っている「ボックス」から急に二本の腕のようなものが伸び出した。
人間の腕のような可動的な関節が三つ、「手」に当たる部分に、おおよそ20センチもある細くて鋭い「指」がある。
五本の指が収束し、「手首」が回転する。そのアームが一本の「ドリル」と化した瞬間、ルリアを攻撃してきたイヌ型アニモの身体を貫通した。
「それを反撃行為と見なした! ーーこれより敵を駆除する!」
仲間の死を目にして、アニモたちが更に激しく攻撃を仕掛けてきた。
「勝手な……」
大軍が迫ってくる。それを前にしたルリアはスマホを操作しながらため息を吐く。
「--『マシンガン・モード』!」
二本のアームが銀色の輝きを放つ、その光は眩しくて誰もが目を瞑らずにはいられなかった。
そして再び目を開くと、ルリアの「ボックス」から伸び出した二本のアームはどこにも見当たらない。
代わりに、ルリアの両肩の上に、長い二挺のマシンガンが現れた。
「よし」
ヘットフォンを嵌めて、ルリアが叫ぶ。
「退きなさい!」
ーーダダダダダダダダダダダダッ!
銃口から火花が散り、音が響く。目も追えない速度で弾丸をアニモの大軍に打ち出す。
「ぐっ! ああああああああああああああああああああああああ!」
銃声の次に響くのは、被弾したアニモたちの悶絶だった。
「シーカ、クーカス……」
アニモの数が少し減ってから、ルリアは片方の「マシンガン」を「アーム」に戻した。
五本の指。その「食指」を空へ向くように。
「頼む、気づいて」
ぽちっと、スマホの画面を押す。すると赤い信号弾がその食指の先から打ち上げた。
ゆらりと、信号弾が空へ上がった。最高点に達した次の瞬間、黄色空を真っ赤に染める光を放った。
「仲間を呼んだのか?」
「人類が何人群れたところで何になる! --怯むな! 進め!」
見知らぬ兵器、予想以上の戦力を見せたのに、アニモの大軍は後退ところが、そっちも増援を次々とこちらへ送って、押してきた。
「ちっ!」
ルリアは思わず舌打ちを漏らした。
「もう一発っ」
再びアームの食指を空へ向けさせる。
「おーい!」
微かに、男の呼び声が聞こえた。
「ん?」
声のほうは正門。アニモの大軍の後ろ。
ルリアは首にかけている銀色の首輪をタッチした。それがアクセサリーであるが、ただのアクセサリーではなかった。ルリアがタッチするとその首輪が変形して、ゴーグルの形に変化した。
「クーカス!?」
グーグル越しで正門を覗くと、その城壁の上にクーカスが大声を上げながら手を振っている。
次に、ルリアは指をスマホの画面上に躍らせる。今度はアームにある五本の指が変形した。
真っ直ぐに伸びて、手のひらを正門へ向く。一輪の花みたいだが、その正体はルリアの声を拡大して放出するスピーカー・モードだった。
「クーカス! シーカは大丈夫なの!」
クーカスは何か叫んでいたようだが、距離が離れすぎて、しかもこっちは銃声のせいもあってうまく上手く聞こえない。
「そうか……」
クーカスも自分の声がこちらへ届けないと理解したらしく、両手を頭の上に合わせて、一つの「円」を作った。
「シーカも大丈夫! よかった。--すぐに行くから」
二人の無事を確認した。ルリアはやっと肩の力を抜いた。
まずは合流。ルリアは立ち塞がるアニモの大軍へ目を向いた。
「フンッ! 仲間は来ないか……」
迫りくる大軍、今回も大将らしき者がルリアに話かけてきた。
「えい! 退きなさい!」
マシンガンが弾丸を撃ち出し、イヌ型アニモはそれらを尻尾の一振りで全部防いだ。
「無駄だ。そのようなおもちゃはオレには通用しない」
殺気を漂わせ、アニモたちはいつでも攻撃できる構えで陣形を取った。
「わが【万種の町】はこれまで何度も攻撃を受けてきた。だが、この鉄壁の守りを突破できる者はいなかった!」
「ああそう」
距離を取って、ルリアはふっと笑う。
スピーカーでクーカスに「そこから離れて!」と告げてから、ルリアは二本のアームを、合体させた。
「ーー『キャノン・モード』」
二本のアームを合わせて、さらに「ボックス」からいくつのパーツが飛び出して、アームに装着する。
完成されたそれは、「大砲」を思わせる形になった。
「なんだあれは……」
砲口を正門に向け、「ボックス」から二本のパイプが下へ展開して、ルリアと大砲を固定する。
「人類のおもちゃだ、恐れるに足らず!」
そう言っている割にアニモたちの様子は不安そのものだった。
その「おもちゃ」を阻止せねばならない。そう判断したのか、アニモたちはこっちに向かって走り出した。
ルリアは「キャノン」を起動した。
機械の回転音が響く。それにつれて風が砲口に収束するようになった。
風で出来た球。最初は小さかったが、次第大きくなっていき、やがて「ビリビリッ」と火花も帯びるようになる。
黒い「ボックス」がオーバーヒートしそうに赤くなっている。そこから湧き出した熱気がルリアの銀髪をも浮かばせた。
ーー膨大なエネルギーだ。
ルリアの前に構えている「それ」が発射されたらまずいことになる。と間違いなくアニモたちは理解している。
阻止せねば、と誰もが思っているはずだ。
しかし、誰もそれ以上ルリアに近づかなかった。
ーー近づけないからだ。
「鉄壁の守りだって?」
チャージ完了の印がスマホの画面に浮かぶ。
するとルリアは口を開いた。
「ーーじゃあこれを受け止めてみるがいいわ!」




