24 - 兵器にとって一番大事なこと
いけないことをやっているような気分だった。
誰が来たらすぐに知らせてくださいと指示を受け、ルリアがドアに耳を当てながら、ポカルスの部屋でこそこそ機械のゴミ山を漁る彼を見ていた。
「これだこれだ」
ポカルスはあるものを手に持ってルリアに見せた。
彼の太った手より少しだけ大きい。骨の構造から推測すると二足歩行タイプ、頭も身体も、両手両足もついているので、ルリアはそれを人形と判断した。
だが人形にしては人間離れすぎた外見だった。カッチカチのボディ、表情も読めない。人形というより、それは人を似せたように機械部品を組み立てたものと言った方が正しいかもしれない。
「これはロボットと言って、昔の兵器だ」
「これが、兵器……」
半信半疑な目でルリアはその「ロボット」というものを見つめた。
「本物はちょうデカいからな。--この中に本当の人間が乗り込んで、中から操作するんだ。すると動き出す! 敵と戦えるわけだ」
自慢げにポカルスが語った。ルリアはそのロボットを手に持ってしばらく観察したら、ポカルスにいくつかの質問を投げた。
「これは何ですか?」
「それはビームガンだ。エネルギーを弾のように打ち出して、当てた敵は爆発する」
「じゃあこの頭のようなものは何ですか?」
「それは、頭だ」
「この、ロボットという兵器に、頭は必要なものですか?」
「ううん……一応目からビームが出せから必要だ」
「ビームガンとの構造が違うのに、同じビームが出せるのですか?」
「もちろん目から出たビームの威力は落ちるけど、それはそれでいいんだ。むしろそれがいい」
「ふん……」
ルリアは少し考えた。そして、パキッとロボットの頭を外した。
「何をしてんだ!」
ポカルスは慌ててルリアからロボットを奪い返した。
「あ、すみません……ただ、その頭の部分を削ってもう一本のビームガンを搭載したほうがいいのでは? と思って……その頭のメリットは感じられません」
「メリットを感じるじゃなくて魅了を感じるんだよ!」
ポカルスの訴えに、ルリアは全く聞いてなかったように話を続けた。
「それなら一層その足も外したほうがいいですね! 車のようなタイヤで」
「ついてるよ! 足の裏にタイヤが」
「どうして足の裏につくのですか? 無駄な部品を削ってエネルギーの消耗も抑えられます……無駄と言ったらそこの部分もですが」
「ちょっと待って!」
ポカルスは丁寧にロボットの胴体と折られた頭を元の場所に戻した。
「ルリアちゃん、どうやらあなたに兵器の作り方を教えるのはまだ早いみたい」
「ええ!? どうしてですか?」
失望そうな顔でルリアは訊き返した。ポカルスはその可憐な目に一瞬心が揺らしたようだが、すぐに何かの決心をしたらしく、再び顔を引き締めた。
「兵器を作りに当たって一番大事なことは何だと思いますか?」
ふいと、ポカルスが質問を投げつけた。
「殺傷力……いや、長時間の作戦を想定したら継続力も考慮しないと……いかにローコストでハイダメージを出す、ですか?」
真剣に考えた答えを出したが、ポカルスは頭を横に振った。
「アニモを殺したければ刀で十分だ。あなたたちのチームにもちょうど一人いるじゃないか? あの剣を持ってる人」
「シーカ」
「そう。そして継続力を補うためなら、ーーまあ、見るには地球では作れないものだけど、それを定期的にアークから送ってもらえば継続力の問題も解決できるわけだ。--わざわざ兵器を作る必要はない」
「じゃあ一番大事なことは何ですか?」
「カッコ良さだ!」
決め台詞のようにポカルスが言い切った。
「兵器に大事なのはかっこいいってことだ! カッコよければたとえ不合理なデザインも許される! 効率の悪い武器も搭載する! --すべてはカッコいいのために!」
ここでの話は誰かにバレたらまずいということを忘れたかのように、ポカルスは次第に熱くなっていく。
「それらがすべて戦闘力の向上に繋がるんだ! カッコ悪い機体を操ってもパイロットのテンションは低くなる、一瞬の油断が死を招く戦場でカッコ悪い機体になっているパイロットはこう考えちゃうのだ。--ああ、向こうはいいな、あんなカッコいい機体におれも乗りたいなぁって……」
意味がわからない単語が次第にぽんぽん出て来て、ルリアはもうポカルスの話についていけなくなったが、ポカルスがあんまりにも熱く語っているので、ルリアはしばらく黙っていることにした。
「可愛いが正義であれば、カッコいいもまた正義である! 男のロマンも実現できない兵器など、人類の未来が救えるはずがない!」
ぽんとポカルスは腹を叩いて演説を終えたらしい。ぽよんぽよんと揺らぐ贅肉から目をそらし、ルリアにこりと苦笑いをする。
「またわかってないようだな……省がない。仕方がない、見せてやるか」
またもポカルスは何かを取り出そうとした。
ゴミ山から汚いモニターと黒い箱を取り出して、数本のケーブルでその二つの機械を繋げる。
するとまたどこかから一つの円盤を持ち出した。
「それも兵器ですか?」
ルリアがその円盤を見て訊くと、ポカルスはニヤッと笑った。
「違う。--これは兵器の設計図だ」
円盤の真ん中に一つの穴が空いている。円盤が指に掛かるようにポカルスは食指の一節をその穴に通した。そしてそのまま黒い箱の中に入れた。
ピッ、と音が鳴り、モニターから何かが映りだした。
「さっきのロボットはおれの『カッコいい』を組み上げたものだ。ルリアちゃん、あなたもあなたの『カッコいい』を見つけるといい。--話はそれからだ」
ルリアがモニターを見ると、そこには見慣れた宇宙の光景が映っていた。見慣れた光景だが、一つ違和感を言うなら、そこで映っていた蒼い星は今まで見たことがない。
数体のロボットが宇宙を飛んで、戦い始めた。形はさっきポカルスが見せてくれたやつと微妙に違うけど、それもロボットだろうとルリアが思った。
「それが終わったら、そこらへんにある円盤を入れ替えればいい。ーーおれはちょっと用事がある、誰にも部屋に入れないように」
だけどルリアはポカルスの話を聞いてなかったようだ。まるでモニターの中の世界に入り込んだように、ルリアはじーとモニターを見つめていた。
そんな彼女の後ろ姿を眺めて、ポカルスはくすっと笑って、そっと部屋を出た。
周りの気配を警戒し、カチッとカギをかける。
「何をしてんの? ポカルス」
急に誰かがやってきて、ポカルスに声をかけた。
「あ、え、その、あの……っ!」
目を大きく見開き、ポカルスは石化されたかのように固まった。
「まあいいよ。どうせまたおもちゃをいじってるだろ?」
その人はそれだけ言ってまたどこかへ姿を消した。
残されたポカルスは、心の中で大きく叫んだ。
--まじで、おれ何やってんだ?
せっかく可愛い女子が部屋に入ってくれたのに、部屋で女子と二人きりのチャンスなのに……ロボットよりも話すべきこといっぱいあるだろう!
これでもう何回目なのかポカルスは覚えていない。ロボットや機械の話になるといつも勝手に暴走してしまって、周りから変人扱いされる。女子ところか、男の友達さえいなかった。
「まあ、いいか」
ポカルスは部屋のほうを見た。
このドアに向こうにあるもの。銀髪の少女とあの「ボックス」はこれからどのように化けていくかを想像したのか、ポカルスの顔に掛かった曇りを一掃された。
「さて、後は教祖様にどう言い訳をつけるかだ……」




