19 - 【ズウ】という国
資源隊の二人は一旦方舟に戻ると言った。
地上にいる【パイオニア】のために方舟から宇宙砂などの支給品を運び、そして戻る時は方舟のために地上の物資を持ち帰る。大変な仕事だけど、大事な仕事でもある。
「あなたたちも、一旦戻るかい?」
小型の宇宙船を起動させ、ハースは聞いてきた。
「私たちは結構です。--いってらっしゃい」
「そうか」
眉を曲げるように笑って、ハースは小型宇宙船入った。
宇宙砂をエネルギー源としたその宇宙船は大気を振動させて、空へ飛びあがった。
窓から薄らと見える、手を振っているハースは、「次来る時はいつかわかんないから、大事に使えよ!」と言っているらしい。
「行っちゃったね」
「ああ。俺たちも行こうか」
振り向くと、すでに新しい戦闘服を着替えたクーカスがいた。
真っ黒の一式で、以前の戦闘服よりも、彼の力を制御する銀色の糸が増えた気がする。一本一本がしっかりとクーカスの身体を纏い、特に両腕のところに這いつくばる糸が目立つほど太い。
ヤハ爺、もしくはカグヤ姉さんがクーカスの成長を予想して予め作ってくれたでしょう。
「……こっちも、準備完了」
今度はシーカも仕度を終えた。
右腰にある刃の収納筒。綺麗で並べられた収納筒の中には全部で30本の刃が入れる。
そして右腰にある加熱装置、ーー鞘。そこにもすでに一本の剣が納められてあるので、シーカは合計31本のバベル式神鋼剣を装備した。
「どうした? ルリア。新装備もらえなくてすねてんのか?」
新たな戦闘服を見せびらかしながらクーカスがルリアに声をかけた。
「クーカスじゃあるまいし……それに私の装備は自分で作るし!」
舌を出して「べー」と声を漏らすルリア。
悪ふざけをそこまでにして、最後はルリアが「ボックス」の点検を終わらせてから、いよいよ出発。
--【ズウ】。新たな任務地。
怪我したカントウさん、および教会の皆さんは戦闘人員ではない。
レジスタンスの皆も、ルバルトを含めた数人しかアニモと戦えないので、非戦闘員たちを守るためにも、今回【ズウ】に向かうのは、--ルリア、クーカス、シーカ。この三人だけだ。
「見送りもないとはな……」
元「廃墟都市・イングゥ」である人類の新拠点「アース・タウン」。その高壁を抜けて外に出るまで誰も見送りに来ないことにクーカスが不満そうな口調で言う。
「皆、忙しいから仕方はないのよ」
ルリアはスマホを見つめながら足を前へと踏み出す。
「ルリア、それ何?」
「すまほ、とカントウさんが呼んでいる」
「知ってるよ。--それ使えんのって聞いてる」
「まだわからないけど」
ルリアがスマホの画面をクーカスとシーカに見せた。
「方舟から地図データがここに転送したら、こうなった。--ここが私たちの現在位置」
周囲の風景のモデルがそのまま画面の中に入って、画面の真ん中にある光った点が、現在ルリアたちの位置を示している。
「へい、すごいな」
「でしょう? --昔の人たちはこのような便利なものをたくさん持っているみたいなの。ーー何か拾ったら私にあげてね」
そう言ってルリアが再びスマホに目を向けた。
「このまま真っ直ぐ……谷が見えたら東へ、と……そして、--あっ、あわわわ」
スマホを見ながら歩くルリアが急に何かを蹴ったらしく、転びかけた。
幸い、まるでそうなるとわかっているように、シーカが事前にルリアが転倒する方向にいるので、ルリアは途中でバランスを取り戻した。
「ありがとう」
「……危ない」
「わかった、ごめん」
礼を言って、ルリアがスマホを「ボックス」に閉まる。
「背負ってやるか? そうすれば地図も見れるし」
クーカスがそう言い出すと、ルリアが「大丈夫」と答えた。
「地図は覚えたから」
的確に進路を指さして、ルリアが率先して前を歩く。
だがすぐに何かを思いついたかのように、ルリアはクーカスへ振り向いた。
「やっぱり背負って」
180センチもあるクーカスがしゃがんで、ルリアが跨るように細い両足を、クーカスの両肩に一本ずつ乗せた。
両手がしっかりクーカスの頭を捕まえて、「OK!」と合図を出したら、クーカスがゆっくりと立ち上がる。
「行こう!」
落ちないようにしっかりルリアの両足の足首を捕まって、クーカスが示された方向へ足を運んだ。
黄色砂が大地を覆う。
地球に来てからどこも大体そんな風になっているのだ。
しかし、【ズウ】へ向かう途中で、シーカは何か異変に気づいたようだった。
「どうしたの? シーカ」
ぐんぐん、と鼻を動かして、シーカが答えた。
「……湿度が上がった」
言われてみればというような顔で、ルリアとクーカスが一緒に頷いた。
クーカスの肩に乗ったままルリアが周りを見回す。
「でも、水源はどこにも」
「……そこ」
シーカが指さす方向はまだ何も見えないけど、地図が間違いなければその先には【ズウ】があるはず。
ぽんぽんと、軽くクーカスの頭を叩いて、クーカスはルリアを下ろした。
三人はそこから言葉も交わさず、足音にも気をづけながら【ズウ】に近づいた。
すると、だんだん視界の中に、薄らと城壁の影が映る。
「……25」
告げられたアニモの数。これ以上近づけてはいけないという意味を込めたシーカの合図に、ルリアとクーカスは足を止めた。
「どうする? 突破できなくもないが?」
「いいえ。ここで装備の消耗はしたくない。それに敵が25匹だけとは考えにくい」
ルリアたちの正面に、【ズウ】の城壁は左右に真っ直ぐと伸ばしている。
シーカには見えるかもしれないけど、ルリアとクーカスの目ではその城壁がどこまで伸びているかは視認できない。
「じゃあどうすればいいんだ?」
手で頭を掻きながらクーカスがこぼすと、ルリアは「ボックス」を下ろして、「ボックス」の前にしゃがんだままスマホに何かの操作をし始めた。
「まずはこれで中の状況を見てみよう……さっきでようやくこれの使い方が少しだけわかってきたから」
嬉しそうに目をキラキラさせてルリアが言う。
それは【ズウ】へ近づけない現状を打破する方法を思い付いたからではなく、ただ新しいおもちゃを一刻も早く試したいからである、とシーカとクーカスはわかっている。
「飛ぶのか?」
「ええ、飛ぶのよ。--私じゃなくて、これが!」
ぽちっと、ルリアがスマホを指でタッチした。
すると、床に置かれた「ボックス」が自動的に起動して、上空した。
「へい」とクーカスが「ボックス」を見上げて驚嘆を漏らす。
「ふふん、すごいでしょう! --まだまだ終わらないよ! もっとすごいのがあるんだから」
ルリアがスマホを操作して、「ボックス」はルリアたちを離れていく。
上へ、そして【ズウ】へ近づき、最後は【ズウ】の上空に浮遊した。
「これこれ」
ルリアがクーカスとシーカを呼び寄せた。
円を作り、三人はスマホを囲むように佇む。
「ええ? おかしいな、『ボックス』に搭載したカメラで撮った映像はそのままこっちに転送できるように設置したけど……ううん」
「やっぱりダメじゃん」
「ダメじゃないし、さっき成功したのよ! --というかやっぱりってないだよ!」
口喧嘩をまた始まろうとするその時、シーカが「……映った」と口に出した。
三人は息を呑み、スマホの画面に映り出した【ズウ】の光景を目に焼き込んだ。
--まるで一つの「国」だ。
華奢な建物と住人が町を歩き回る。
ある場所は、商品となるペットを舞台の真ん中に置き、商人らしき者が何かを喋り出すと、彼を囲む者たちは次々と手を上げる。その光景はまるでオークションだ。
ある場所は、サーカス団と思わせる者たちが、彼らのペットたちに己の技を披露し、周りから喝采と拍手を集めている。
そこの住人たちの特徴といえば、誰もが鎖を手に持って、ペットを連れていることだ。
しかし、
「ルリア。カメラ壊れてないよな?」
「ないよ、さっき見た時は正常だもの……これは本当のことよ」
もう一度、ルリアたちはスマホに目を戻した。
--【ズウ】の住人たちは、皆アニモだ。
そしてそこのアニモたちは皆、「人類」をペットのように鎖で縛って、連れまわしている。




