16 - 考える時間
アジトが潰され、あの洞窟に人々の生活を支えるには足りないものはあまりにも多すぎた。
結局、残った17人のレジスタンスはまず、教会が受け入れる形で落ち着いた。
「で、話す前に見せてほしいものがある」
全人類を救う方法。教会についた途端、カントウは皆を大広間に集まるように招集した。
皆が席に座り、目の前方にある教壇の上に、カントウは立っている。
カントウはコードのポケットに手を突っ込んだ。そして皆の顔を伺って、にやっと笑って、何かを取り出した。
「きゃああああああ!」「隠れろ!」「どういうつもりだ!」「測ったな! カントウ!」
と、カントウの手に持っているものを目にした瞬間、広間にいる全員が一瞬で騒ぎ出した。
「はっはは、これは予想以上だ」
一方、カントウの本人はまるでいたずらが上手く行った子供のように笑い上がった。
同じく落ち着いるのは【パイオニア】の三人だった。
「カントウさん、それは?」
「ネズミだ」
カントウの手のひらに、毛玉のような小動物が一匹ぴこぴこと震えいている。
「と言っても、これはネズミの本来の姿だがね」
もふもふする毛玉。カントウはそれを「ネズミ」と呼ぶ。
「ど、どういう冗談だ、カントウ・フジワラ!」
騒乱が静まり、ルバルトが教壇を上がってカントウに近づく。カントウの手に乗っている「ネズミ」を睨みながら、ルバルトが問った。
「冗談じゃないさ、あなたならわかるはずだ、ルバルトくん。これがネズミだと」
そう言って、カントウはその「ネズミ」を地面に置いた。
「きゃあああああああ!」
「ネズミ」が走り出すと、また数人が悲鳴を上げた。「ネズミ」はその声を聴いて更に怯えたように、足を加速して教会から逃げ出した。
ルバルト、そして皆は疑問に満ちた眼差しをカントウに向けた。
「見たの通り、『ネズミ』はネズミに戻ったのさ」
「アニモが普通の動物に戻ったと?」
「それは違う。戻ったのは『ネズミ』だけだ。--彼らのおかげで」
カントウはルリアたちを見てそう言った。
そして今度、皆は目を【パイオニア】の三人に向く。
しかし、ルリアたちは互いの顔を見合わせて、誰も何が起こったかわからないようだ。
「アニモの中には、特殊個体が存在する」
代わりに、カントウが説明をしはじめた。
「一般のアニモと比べて、特殊個体の変異の特徴は違う。--今回の【鼠王】がその一例だ。我々にとってはもちろん、彼は『ネズミ型アニモ』の中でも特別扱いされているようだ」
ボルスに【鼠王】と名付けられたことと、他のネズミ型の態度からも薄々と勘づいた。
「そして、あれだ」
カントウが教会の門のほうへ見た。すでに逃げたさっきの「ネズミ」の足痕を指しながら口を開く。
「【鼠王】が倒されて、ネズミ型アニモが全部ただのネズミに戻った。--これは新発見だよ。わたしは今日これを知ってから、この世界を変える方法を思い付いたんだ」
口を端少し吊り上げ、ルリアは笑う。
「どうやらルリアくんはもうわかったようだな」
「ええ」
ルリアが声を上げた。皆の視線が彼女に集まったところで、ルリアがその答えを口に出す。
「特殊個体を倒して、アニモを動物に戻します。ーーでしょうか」
「そうだ。--アニモと戦争する必要はない。擒賊擒王だ。悪くないだろ?」
「きんぞくきんおう?」
聞き覚えのない言葉にクーカスが首をかしげた。
「敵を叩きたければ先に王を叩くべし、--とても古典的な戦法だが、先人の知恵は侮れないものだ」
「でもよ、特殊個体は何匹いるかはわからないだろ?」
「それをわかっている男は、わたしは知っているさ。--大丈夫、あの男のラボーは何回も行った。わたしの予測では精々10匹ほどが限界だ」
カントウは意味深い笑顔をクーカスたちに向けた。
「いかかでしょう」
ルリアたち三人が考え込むと、ボルスが席を立って先に答えた。
「もちろん乗るさ! カントウ・フジワラが我々に加わればーー」
「あなたに訊いているのではないよ、ボルスくん。--わたしが訊いているのは彼らだ」
カントウは顰めた顔でボルスを叱った。
「勘違わないでほしい。わたしはあなたたちに加わるつもりはない。復讐に呑まれ、未だに地球を我がものと思い込むあなたたちに手を貸すつもりはないのだ」
「【パイオニア】と直接手を結びたいだと?」
ルバルトがそう聞くと、カントウは頭を横に振った。
「わたしが手を結びたい相手は、ルリアくん、クーカスくん、そしてシーカくん。--あなたたち三人だ」
近づいて、手を差し伸べる。
「宇宙生まれのあなたたちに、地球を『取り戻す』感覚は持たない。そんなあなたたちに、手を貸してほしいと頼みたい。ーー共存だ。地球は人類だけではなく、動物や植物など、--神に作られた命全員の家だ」
『うちの子をスカウトする前にまずはこっちに話を通ってからが筋じゃないか?』
その時、ルリアたちの受信機に声が流れた。
カントウが手を差し出して、ルリアはスマホを彼に渡した。
【パイオニア】の受信機と、スマホにある老人の声が響き渡る。
『死んでなかったのか、運のいいやつだ』
「普段から善行を重ねた報いだ。これは神のご加護だよ」
『無駄話に付き合う気はない。--ちょうどよかった。死んでなかったら手を貸せ』
「ほう? わたしは『バベル』で何ができるというのだ?」
『とぼけるな。--いいか、そこにルリアという子がいるんだ。その子にお前の知恵を教えろ」
「ルリアくんは聖書に興味があるかどうかはわからないが、やってみるよ」
『何の話をしてんだ』
「わたしの知恵をルリアくんに貸すって話だろ? 教祖のわたしにある知恵はそれくらいさ」
『……貴様の冗談は相変わらず理解に苦しむ』
ぽちっと、カントウをスマホの画面にタッチして、スマホをルリアに返した。
「あなたたち。わたしはーー」
『方舟より【パイオニア】へ』
ルリアが耳につけている受信機に手を添えると、カントウは「どうぞ」と手のひらを見せた。
『あの男を取り付けろ。--いいか。言葉に巧む男だ、惑わされないように気を付けろ』
「了解です」
方舟からの通信はそこまでだ。
「焦る必要はない。ゆっくり考えるといい」
何かを言おうとするルリアより先に、カントウが口を開いた。
「できるだけアニモとの戦闘を避けつつ、特殊個体を叩く。--『アニモのない世界』は、『人類のみ存在する世界』とは違うものとわたしは考えているんだ。もしあなたたちもわたしの理念に賛同するというのなら、いつでもわたしのところに来るといい」
2、3人の教徒を連れて、カントウは教壇から降りた。
「それまではここでゆっくりしてください。世界の未来に関わる問題だ、こちらとしてもちゃんと考えてから答えを出してほしい」
そして去り際、カントウは【パイオニア】の三人の耳元に、こう囁いた。
「アニモと戦えるあなたに、焦る必要はないのだ」
ぐっと、三人は一斉に歯を喰いしばって、眉をひそめた。




