13 - それは約束できません
「退け!」
止まらない勢い。
クーカスとシーカの進撃を止められるものはいなかった。
「こっちは見当たらない。シーカそっちは?」
「……ない」
アニモを討伐する同時に、シーカとルリアは隠れたレジスタンスたちを探している。
しかし、空を飛ぶルリアの視界とシーカの感知能力を持っていても、未だにレジスタンスたちを居場所をわからなかった。
『ルリアちゃん、レジスタンスたちの場所を送ったわ、先にそっちと合流して』
受信機からその声が流れてきた瞬間、ルリアのスマホの画面にある場所がマークされた地図が送られてきた。
「おおお! これはいい!」
『どうしたの? ルリアちゃん」
「いいえ、こっちの話です! --ありがとう、メアリ姉」
彼女にとってスマホはまたまた不思議な機能がいっぱいあるように、ルリアの目が釘付けになった。
「さあ、行きましょう」
地図を見つめながら、ルリアがシーカとクーカスに進路を伝えた。
アニモがどんどん湧いてくる。
ここがアニモの巣ではないかと勘違うほど、アニモの数が異常だった。
最低でも3メートルある、牙の特徴も何十種類もあるネズミ型アニモが次々とクーカスとシーカの前に現れる。
しかし、どいつもこいつもあっという間にクーカスの重拳を受けと悲鳴を上げながら砕けていくか、シーカの斬撃で悲鳴を上げることもなく粉々になっていくか、だ。
死屍累々。--シーカとクーカスの歩いた後の光景を表すにはちょうどいい言葉だ。
「……ついた」
視界範囲内にある最後の一体を切り倒し、シーカが目的地に到達したことを告げる。
入口が大きな石塊に塞がられている洞窟、のような場所に、クーカスが頭を掻いた。
「おいおい、出る時はどうすんだよ……」
「多分そこから出られるとは思ってなかったのかもしれないね……向こうに人がいるかもしれないから、石を退くときは、そっと、ね」
クーカスは自分の身体より何倍も大きい石塊を軽々しく持ち上げて、隣へ運ぶ。
「結構多いんだけど」
三、四個の石塊を入口から退かしても、その先にはまだまだ石塊がたくさんありそうで、クーカスはめんどくさいと呟いた。
「仕方がないじゃない」
本当はクーカスが一発撃てば貫通できるのに、その向こうにもし人がいるなら巻き込まれる恐れもあると考慮したせいで、それができない。
「……大丈夫」
シーカが言った。それを朗報のように聞き取ったクーカスが早速拳を打ち出す体勢に入った。
「行くぞ」
「ちょっと待って!」
「心配すんな。シーカが言うから向こうはきっと誰もいないんだ」
「だからちょっーーっ!」
ルリアの話の途中で、クーカスがすでに石塊を砕く一撃を打ち出した。
轟音が響き、石塊が粉砕される。その破片があちらこちらに飛び散った。
「痛っ!」
声の元を尋ねて振り向くと、「ボックス」を飛び散る破片から守るルリアの姿がいた。背をこっちに向いたせいで、彼女のお尻に石の欠片がぶつかった痕が見える。
「殺す気か! クーカス!」
「ごめんごめん……」
「だから待ってって言ったでしょう!」
「だからごめんって……」
お尻を揉みながら涙目で訴えるルリアに、反省の色を窺わせないクーカス。
そんないつもの日常に参加することなく、シーカは開けられた通路の向こうへ目を向いた。
石が砕けて、視界はまだ塵に切断されている。向こうから十数人の気配と、騒めく声が聞こえた。
「入口が突破された!」
「戦えない者は隠れろ! 他の奴はオレに続け!」
「隠れろってどこよ! もう隠れるところがないじゃない!」
「さっきの二人は救助呼びに行ったじゃないか! 救助はまだなのか!」
「逃げたに決まってる! ここはオレたちが何とかしないと!」
「何とかって無理よ! あんなの勝てるわけないじゃない!」
「もうダメだ!」
……
「早く行ってあげましょうか」
向こうからの会話を耳にしたルリアがほっこりと笑った。
ルリアが一番前に歩いて、三人は洞窟のような入口を歩いた。
「皆さん、もう心配しなくてーー」
「食らえ! 化け物ども!」
「われわれ人類決してお前らに屈しないぞ! コラァ!」
投げ出された石がルリアの頭に命中した。
「むううぅぅ!」
石が小さく、しかもさほど痛くはない。けれど、ルリアは「石に当てられた」ことによって怒りの頂点に達しているらしい。
「もう! 何なのよ!」
「まあまあ、落ち着け……仕方ないじゃないって言ったじゃあ……」
目を前に向き、レジスタンスの人たちが小さな小石何個も左手で抱えて、右手でこっちに投げるよう構えている。
「皆! やめろ!」
人たちの中から、右腕をなくしている男が現れた。彼は皆の代表らしく、ルリアたちに近づいて謝った。
「すまない……入口がアニモに突破されたかと誤解して、皆は驚いているんだ……すみません」
「おお! ルバルトのさん! 大丈夫だったか」
男はルバルトだった。クーカスが笑ってそう訊くと、ルバルトは「俺は、大丈夫……」と答えて、暗い顔で彼の後ろへ振り向いた。
「もしかして、ここにいるのは……」
「ああ、ここにいるのは、生き残った全員だ」
ルバルトを含めて、合計17人。
力が一気に抜けたように、地面に座ったままの人が数人にいて、ルリアたちを見て安心したのか、急に泣き出す人もいた。
「おねえちゃん、ごめんなさい」
すると、一人の小さな女の子がルリアのところにやってきた。
「わ、わたしが投げたの……くすっ、ごめんなさい……」
泣きながら謝っている女の子。そんな彼女の頭にそっと優しく手を乗せて、ルリアが彼女に微笑んだ。
「痛くないから大丈夫よ。おねえちゃんこそごめんね、怖かったよね……」
そして目を上げて、改めてレジスタンスの皆を見回る。
17人。今朝はまだ34人もいることを思い出したか、ルリアは目を伏せてルバルトに頭を下げた。
「遅くなってすみません」
シーカも無言のまま頭を下げた。クーカスも悔しい顔で唇を噛み締めた。
--世界の真相の話。余計な戦闘。美味しそうなごはん。
三人は今まで自分の都合で無駄に費やした時間を、どんな結果を招いたかを後悔した。
「頭を上げてください。君たちのせいじゃないんだ」
ルバルトは失った右手へ目を落として言った。
「ルバルトさん」
ルリアが改めてルバルトに顔を向き直した。
「アジトはどうして発見されたのですか?」
ここまで来る途中で見た、アニモのあの異常なほどの数。ルリアはそれには何か原因があると見たようにルバルトに訊いた。
「【鼠王】って、知っているか……」
その名を聞いたクーカスはがくりと指が鳴るほど、拳を握りしめた。
「知ってます」とルリアが答える。
「どうやったのかはわからない。--あの白い奴が急に現れて、大量なアニモを連れてアジトを攻撃し始めた……戦闘員たちが奴らを食い止めている間、資源隊の二人が現れておれたちをここまで連れてきたが」
その時点ではすでに17人しか生き残らなかったと、ルバルトはそう付け加えた。
「……あなたたちのせいじゃないのか……」
震えた声で、一人の男が血涙を流しながらルリアたちを指して言った。
「足跡だ……」
「よせ」とルバルトがそう言ったが、男はやめなかった。
「あなたたちの足跡が奴らにバレたに違いない!」
「よせと言ったはずだ! おれたちは彼らに助けてもらったぞ!」
「でもオレの妻は助からなかった!」
男の怒鳴りに、ルバルトも返す言葉が見つからなかったように口を噤んだ。
「今までは無事だった! 外に出る時は必ず足跡を気をづけながらやっていた! だからこれまで一度も奴らにアジトの居場所をバレなかった! ーーでも彼らがやってきたからどうなった? アジトがバレてオレが奴らに殺された!」
その言葉が湖に投げ込んだ小石のように、彼の意見に賛同した声が波紋のように次々と上がってくる。
「おれの父さんも……」「わたしの弟も……」「子供も……」、と。
クーカスが怒り出すのではないかと心配したのか、ルリアはクーカスの顔を窺った。
しかし、その心配は不要だったようだ。
ーールリア。シーカ。クーカス。
この三人の中で一番悔しいのは、あの一撃で仕留めなかったクーカスだった。
「クーカス」
ルリアが小声でクーカスを呼んで、シーカも肘で軽く彼を突いて言う。
「……お前のせいじゃない」
それはオレたちのせいだと、シーカは表情で彼に伝えた。
「君たちのせいじゃない」
ルバルトにもそのサインが拾わられたように、ルバルトが三人にそう言う。そして次は皆に顔を向いて腰を折り、大きく謝罪の意を表した。
「責めるならおれを責めろ。--15年前に皆を守ると誓った。それを果たせなかったおれを責めてくれ」
その後、誰も声を上げなかった。
おそらく誰も知っているだろう。15年前に方舟が宇宙に行った後、乗り遅れた人たちをずっと守ってきたのはルバルトだ。彼を責める奴は誰一人もいない。
「すまない、皆……すまない、皆」
涙をこぼしながら謝るルバルトを改めて見ると、いつもルバルトの傍にいる例の隊員たちの姿はどこにも見当たらなかった。
「退いて退いて!」
急に声が聞こえた。
暴走する車が一台この洞窟の中に突っ込んできた。
「わあああああ!」
最後は転倒する形でようやく車が止まった。中から出る二人はやはり、資源隊のハースとメアリだ。
「どうしていつもそんな運転するんだメアリ……どうしたの皆?」
今度は転倒する車から自力で出られるらしい。ハースが車から出て皆の顔を見てから無神経にそう訊いた。
「まあ、どうしたかは知らないけど。--【パイオニア】たち。仕事だ」
ルリアたちがハースに目を向くと、彼は洞窟の外を指して言う。
「さっきネズミ型アニモのサンプルを収集していたが、急に変な奴が現れてな、こっちにお前たちがここにいるから逃げてきたけど、多分すぐに追ってくる」
そして車から乗り出したメアリがハースの話を補足する。
「白い奴が一匹いるってね。特殊個体と見たわ! そいつはできるだけ五体満足なままアークへ持ち帰りたいけど、お願いできる? --ほら、ここにある宇宙砂と刃を全部あげるから」
車の後ろにある荷物スペースを開けて、メアリが両手を合わせてルリアたちにお願いした。
クーカスが新しい戦闘服を着替えて、シーカが入れるだけの刃を収納筒に刺し込んだ。
「すみません、メアリ姉」
「うん?」
ルリアも「ボックス」いっぱいに宇宙砂を詰め込んだ。
「それは約束できません。サンプルところか」
洞窟の外へ歩き出すシーカとクーカスの姿を眺めて、ルリアが小首をかしげる資源隊の二人に言う。
「ーー多分、滓の一つも残りません」




