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人類最強  作者: 白石らいおん
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11 - たとえそれでも

「その後は?」

「動物たちが逃げたが、そのことは【バベル】によって闇に葬ったよ。本当に映画のように、逃げた動物たちは何等かの病原菌を帯びて、噛まれた人が感染するわけでもないからね」

 カントウは何かを探そうに、コートの内側ポケットに手を突っ込んだ。しかし何もなかったので、彼は苦笑いを漏らした。

「動物たちは逃げた。そして何も起こらなかった。だからあの時のわたしたちもそのことについて何の心配もしなかった。人語を話す動物を裏社会のプロたちに探すように頼んだままという、放置と言っていいほど処置しかしかなかったよ」

 

 --それがまさかあんなことが起きるとは、とカントウが付け加えた。


「あんなこととは……」

「ペットが眠っている主人を襲う、動物園の動物たちが暴走して観客を襲う。農場にいる牛や羊、町中にいるガラスと猫……ほぼ同時に、動物が人を襲う事件が世界範囲で大量に起きた。--まるで何かが動物たちの指揮を執っているようだった」

「ペット」や「動物園」など、聞きなれない言葉を耳にしたクーカスがルリアに目を向くと、ルリアが彼に説明した。

「人類と動物ってそういう関係だったのか……」

 代わりに説明してくれたルリアに礼を言って、カントウが話を戻す。

「いつ、急に戦争が勃発するかわからないあの頃、いつ戦争が勃発しても対応できるようにどの国もある程度の備えを用意していた。--しかし、まさか動物が人類に戦争を仕掛けるとは、あの時は誰も予想しなかった」


 その後に起きたことは実にシンプルだった。

 何年も可愛がってきたペットが自分に牙を向いた。戦友だと思い込んだ軍用犬が一夜で軍隊を廃滅させた……

 人類は次々と不意を突かれ、どうにかせねばと気づいた時に、事態はすでに「どうにもできない」状況に陥った。


「まさにパニック。世界中の人たちはパニックに陥った。--そこで、ヤハの言葉を証明するように、ある小国のバカ首領が実にバカらしい決断をしたのさ」

 --世の中にはバカと戦争狂しかいないのか。

 ルリアたちはさっきの話を思い出した。

「『人類の危機が訪れたこの機に、我々は核兵器の使用を決意した。--我々は明日の朝8時00分に、我が国のxx地方に核爆弾を投下する。早急に避難を』、と」

「自分の国に核爆弾を?!」

 ルリアがそう訊くと、カントウは鼻で笑った。

「xx地方はその国の辺境にある場所だ。そこに核爆弾を投下すれば、隣国にも被害が及ぶ。しかも、その通知が公表された時点でも夜の23時だ。あの国の人はとっくに避難を終えている」

 カントウはその通知の裏に潜む真の意図を解いた。

「通常の戦争では勝てない、核兵器禁止条約があるから公的に開発も使用もできない。--動物が暴走したことを口実に、邪魔な敵を核爆弾でドッカンと蹴散らしたいわけだ。--子供でもわかる、実に浅はかな考えだ」

 人類の危機が勃発したというのに、人類と人類の争いはまだ消えなかった。

「貴様がそう言うなら、こっちだって考えがある! と、次々と同じ手口で核兵器の使用を公表する国が現れた。--世界大戦の始まりは案外、子供の喧嘩と似ているのだ」

 国と国がその機に正式に戦争を始めた。もちろん、一般人やそれに参加したくない人たちは避難を始めた。

「当時、わたしは【バベル】の地下シェルターに隠れてもらった。入って見ると、科学者よりも一般人のほうが多かった。わたしたちはそこに数か月間隠れていた。そしておおよそ今から15年前、地上での戦争がおわったとの知らせが入ったので、わたしたちは再び地上へ上がった」

 そう言って、カントウはゆっくりと彼の後ろにあるドアへ向かって、口を開く。

「その後のことはあなたが彼らに説明しよう。ボルスくん」

 ドアが開き、そこにはボルスの姿があった。

「盗み聞きするほどの話でもないと思うが?」

「すみません、今来たばかりで」

 ボルスが水の入った五つのコップを運んで通信室に入ってきた。

「ボルスさん、その後は?」

 水を受け取ってからルリアがすぐに訊いた。

「その後は……あの化けどもがいつの間にか地球を占領した。碌な武器もないおれたちは一年間アニモと戦ったが、結局逃げてばかりだ」

 悔しそうにボルスが答えた。

「でも」とボルトがルリアたちを見て付け加える。「君たちが来てくれた。地球を取り戻そう」と。

「まるで地球は人類のものみたいな言い方だな」

 カントウがそう言って、鋭い目でボルスを見つめた。

「これを見てもわからないのか?」カントウは自分の両足を指して、「これは地球を自分たちの所有物と思い込んだ罰だ。その報いだ」と怒鳴った。

 肩をピクッと震わせたルリアたちを見て、カントウは自分が急に大声を出したことに気づいて「これは失礼」と謝った。

 水を一口飲み、カントウがルリアたちに向き直す。

「アニモは言葉がわかる。だからわたしは話し合うことを望んで、彼らのところに行った」

 カントウは彼が掴まれた経緯を話した。

「わたしはそこで何を見たと思う?」

 ルリアたちが頭を横に振ると、カントウは「実験だ」と答えた。

「実験という名の復讐。ーー言葉だけではなく、彼らは記憶もあるのだ。ーーわたしたちが彼らにしたことを、彼らは今も覚えている。そして恨んでいる。今の状況はまさにその復讐だ」

 杖を手に取って、カントウは立ち上がった。

「これが世界の真相だ。--もちろん、わたしとヤハ、どっちを信じるかはあなたたちの自由だが」

 

 ルリア三人は顔を合わせた。

 誰も声を出さずに、三人の目線には彼らにしかわからないメッセージが乗っているように見える。

 すると、

「わかりました。ありがとうございます。カントウさん」

 ルリアがカントウに礼を言った。

「ほう、人類が地球の神を気取った最後を知った今でも、あなたたちはそれでも地球を取り戻すというのかい?」

「……違う」

「それでも俺たちの目的は変わらないってことだ」

 シーカがそう言うと、クーカスも口を開いた。

「そもそも俺たちは地球で生まれたわけでもないからな、地球を『取り戻す』って感じはあんまりないけどよ」

「私たちの任務は地球の調査と」

「……襲われた人類を助ける」

「ついてに、この広い星に俺たちの家を作る! --だよな?」

 クーカスが締めの言葉を口に出したあと、三人はもう一度笑顔を合わせた。


 カントウは、不思議なものを見るような目を三人に向けた。

「そうかそうか……まあ、どの道、先に食事にしよう。助けてもらった礼はそれだけじゃないんだ」

 教徒が傍に添えて、カントウは通信室の外へ出た。

「あの、カントウさん」

 ルリアがカントウを呼び止めると、カントウは笑みを浮かべた。

「スマホのことを気にしているかい?」

 図星だったように、ルリアの顔が赤くなった。

 さっきの案内人がやってきて、カントウが彼からスマホをもらった。

「もう一度それをかしてくれないか?」

 カントウがルリアの「ボックス」へ目をやると、ルリアが、「はい」と返事して彼に「ボックス」を渡した。

 案内人がカントウの代わりに「ボックス」を背負い、彼らは通信室の隣にある部屋に入る。

 ここは誰かの工房のようだ。見たこともない道具がたくさん散らばっている。

 カントウが「ボックス」を弄り始めると、ルリアが「ああああ!」と悲鳴を上げた。

「心配するな、あとで直して置くから」

 モニター付きのキーボードを「ボックス」から外し、カントウがそこからはみ出したケーブルを、スマホという板に繋ぐ。

 しばらく立つと、「……リア、……応答せよ……」と、聞きなれたオペレーターさんの声がスマホから流れ出した。

「こちら。--聞こえますか?」

『ルリアちゃん!?--どこに行ったの?』

 オペレーターの次に、今度はカグヤの声が聞こえた。

 返事がちゃんと返ってきたことに、ルリアの顔に喜悦の色が浮かぶ。

「ボルスさんの救助に向かった途中で燃料と神鋼剣が尽きました。クーカスの戦闘服も……物資の補給をお願いします」

『そうか……すぐに資源隊を送ります。今から合流ポイントに向かってください』

「今から、ですか……」

 外から漂ってきた匂いを嗅いで、ルリアは残念そうな口調で言う。

『どうしたの?』

「いいえ、今からごはんを食べようと……」

 地球に来たから戦闘ばかりで、三人はまだ食事を取っていなかった。

 すでに食卓に座っているクーカスを眺めて、ルリアもすぐに向かおうと足をぱたぱたさせた。

『ごめんね、皆。--方舟(アーク)より【パイオニア】へ』

 カグヤはそう謝って、すぐに任務を言い渡した。


『ーーレジスタンスのアジトは今攻撃を受けている。直ちに救助に向かうように』

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