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魔王、第二の人生 〜こんどは人間界に転生したので、世界をリノベします〜  作者: 木口タカシ


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9/12

居酒屋改装 〜ぶつかり合う職人魂〜

今回の魔王様のお仕事は、居酒屋の改修工事。


職人同士のこだわりがぶつかり合い、思わぬ方向へ……。


果たして、無事に納まるのでしょうか。

「魔王殿。ちょいと頼まれてくれませんかね」


大工のじいさんが、珍しく神妙な顔でやってきた。


「何だ。申してみよ」


「甥っ子がやってる居酒屋があるんですがね。そこの改修を手伝ってほしいんです」


「居酒屋か」


俺は腕を組んだ。


「よかろう。我に任せよ」


話を聞くと、店主はじいさんの甥っ子らしい。


長年、夫婦で小さな居酒屋を営んできたが、店内の傷みが目立ち始めていた。とはいえ、蓄えもほとんどなく、大掛かりな改修は難しいという。


「できるだけ安く、きれいにしてもらえればいいんです」


店主は申し訳なさそうに頭を下げた。


「年金暮らしみたいなもんですからね。あまり金はかけられません」


「ふむ。予算の範囲で、最善を尽くそう」


俺は店内を見回した。


古びたカウンター。傷のついた収納扉。油汚れの目立つ壁面。


「カウンターはメラミン化粧板で仕上げる。収納扉も同様。厨房まわりはポリ板で十分だろう」


「おい、若造」


隣で聞いていたじいさんが口を挟んだ。


「カウンターは天然木にしろ」


「……何だと?」


「酒を飲む場所だぞ。木の温もりってもんがあるだろうが」


「耐久性、耐汚染性、維持管理の容易さ。いずれもメラミン化粧板に利がある」


「そういう話をしてんじゃねえ!」


じいさんはカウンターを拳で叩いた。


「ここは客が毎晩、肘をついて酒を飲む場所だ。木の手触りが大事なんだよ」


「ならば、天板は天然木。側面はメラミンで仕上げればよかろう」


「側面も木目を合わせろ!」


「……ほう。言うではないか」


俺は図面を広げた。


「ならば、木目の流れを切らず、見切り材の納まりも整える。天板との取り合いは――」


「見切りを入れるなら、ここは無垢材で回せ!」


「無垢材では反りや伸縮を考慮せねばならぬ。固定方法も再検討が必要だ」


「だから、それを考えるのが職人だろうが!」


「面白い……!」


俺は思わず笑みを浮かべた。


「よかろう。最高の納まりを見せてやる」


「おう、やってみろ!」


「……あの、お二人とも」


店主が遠慮がちに声をかけた。


「予算のほうは……」


「案ずるな!」


俺とじいさんは、同時に答えた。


「「何とかなる!」」


店主の顔が、わずかに引きつった。


────────


数日後。


俺たちは改修工事に取りかかった。


カウンターの天板には天然木を採用。木目を見極め、反りや癖を考慮しながら加工を進める。


収納扉にはメラミン化粧板を使用。汚れや傷に強く、日々の手入れも容易だ。


厨房まわりにはポリ板を使い、清掃性を確保する。


それぞれの素材の特性を活かしながら、取り合いを一つずつ検討していった。


「おい、そこは三ミリ逃がせ」


「なぜだ。図面上は納まっている」


「現物を見ろ。木は生きてるんだ」


「ならば、こちらの見切りを調整すればよい」


「おっ、わかってきたじゃねえか」


「ふっ。我を誰だと思っている」


「ただの若造だろうが」


「……貴様」


口論をしながらも、作業は着々と進んだ。


やがて、カウンターの天板が据え付けられた。


木目は自然につながり、側面の仕上げも美しく納まっている。収納扉との取り合いにも無駄がない。


「……悪くねえ」


じいさんが、しばらく眺めたあとにつぶやいた。


「当然だ」


俺は満足げにうなずいた。


「機能性と意匠性を両立させた、見事な納まりである」


「へっ。木を見て仕事ができるようになったじゃねえか」


「貴様の経験も、多少は役に立ったようだな」


「言ってろ、若造」


店主は完成した店内を見回し、何度も頭を下げた。


「ありがとうございます。本当に、立派な店になりました」


「うむ。これからも大切に使うがよい」


俺は威厳たっぷりに告げた。


「ただし、仕上げ材の特性に応じた維持管理を怠るでないぞ」


「は、はい……」


店主は感激した様子だった。


そのときまでは……。


────────


数日後。


「……え?」


店主の声が、静かな店内に響いた。


手には請求書が握られている。


「これ、何かの間違いじゃ……」


じいさんが横からのぞき込んだ。


「ん? どうした」


「いや、だって……予算の三倍以上なんですけど……」


「三倍?」


じいさんが固まった。


俺は請求書を受け取り、目を通した。


天然木への変更に伴う材料費の増加。複雑な加工。追加の見切り材。納まりを追求したことによる施工手間。


いずれも正当な費用である。


「何がおかしい?」


俺は首をかしげた。


「これほどの仕事だ。当然の対価であろう」


「いやいやいや! 最初に予算を伝えたじゃないですか!」


店主が悲鳴を上げた。


「できるだけ安くって!」


「……そうだったか」


俺は腕を組んだ。


じいさんは請求書と店主の顔を交互に見て、頭を抱えた。


「だから言っただろうが、若造……!」


「貴様も天然木を要求したではないか!」


「そりゃあ、あんなカウンターを見せられたら、こだわりたくもなるだろうが!」


「ならば、完成したものに文句はあるまい!」


「そういう話じゃねえんだよ!」


店主は椅子に腰を下ろし、遠い目をしていた。


「これじゃあ、年金が吹き飛ぶどころか、何年働けば元が取れるんだ……!」


店主が頭を抱えて突っ伏す横で、俺は美しく仕上がったカウンターをうっとりと撫でた。


木目の流れ。見切りの納まり。素材ごとの取り合い。


どこを見ても、妥協はない。


「……ふむ」


俺は満足げにうなずいた。


「やはり、納まりとは奥が深い」


「感心してる場合かあああ!」


じいさんと店主の声が、店内に響き渡った。


────────


翌朝。


「魔王様! 大変です!」


側近が、血相を変えて駆け込んできた。


「今度は何だ」


「居酒屋の店主から、支払いについて相談が……」


「ほう」


俺はゆっくりと立ち上がった。


「面白い。次はどのような納まりの問題だ?」


側近は、なぜか泣きそうな顔をしていた。


「……魔王様。今度は、金銭の納まりでございます」


「……」


俺は静かに図面を閉じた。


建築の納まりに完璧はあっても、世の中にはどうしても納まらないものがあるらしい。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


建築の仕事では、納まりを追求することも大切ですが、予算に納めることも大切です(笑)


魔王様には、もう少し勉強していただく必要がありそうですね。


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