犬小屋建築 ~魔王、犬に完敗す~
今回は、魔王様の意外な一面が見られるお話です。
魔王の威厳はどこへやら……。どうぞ最後までお楽しみください!
「魔王様! 新たな工事の依頼でございます!」
側近が一枚の依頼書を持って駆け込んできた。
老朽アパートの改装工事を無事に終え、引き渡しを済ませた頃に舞い込んできた依頼だ。
「ほう。今度はどのような大工事だ?」
「犬小屋でございます」
「……犬小屋?」
俺は依頼書に目を落とした。
内容は至ってシンプル。
トイプードル一匹が快適に過ごせる犬小屋。
金にいとめはつけない。最高の犬小屋をお願いします。
そう書かれていた。
「よかろう。引き受けてやる!」
「魔王様、本当によろしいのですか?」
「建築物に大小の区別はない! どのような仕事であろうと、納まりを極める。それが職人というものだ!」
「魔王様……!」
側近は感動したように目を潤ませた。
「では、さっそく仕様を決めるぞ」
俺は図面を広げた。
「外観はメラミン化粧板。内部はポリ板で仕上げる。木口はシールで処理する」
そのとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「ほう」
振り返ると、アパートの工事で対決した大工じいさんが立っていた。
「魔王殿。その犬小屋、天然木ではいけませんかな?」
「何?」
「木には木の温もりがございます。犬だって、自然の木に囲まれたほうが心地よいはず」
「待て。メラミン化粧板は汚れに強く、手入れもしやすい。内部をポリ板にすれば清掃性も確保できる。木口を適切に処理すれば、仕上がりも美しい」
「ですが、天然木には木目の表情がある」
「表情だと? 犬が木目を見て感動すると申すか!」
「犬の気持ちは、犬にしかわかりませんな」
じいさんは涼しい顔で答えた。
くっ……!
正論のようで、何ひとつ言い返せない。
「ならば、実際に造って比べてみようではないか!」
俺は二種類の犬小屋を造ることにした。
一方はメラミン化粧板とポリ板を使い、清掃性を重視した犬小屋。
もう一方は、じいさんが天然木にこだわって造る犬小屋だ。
数日後。
二つの犬小屋が完成した。
「ふっ。見よ、この仕上がり!」
俺の犬小屋は、外観も美しく、内部もすっきりと納まっていた。
一方、じいさんの犬小屋は天然木の木目が美しく、職人の手仕事が感じられる仕上がりだった。
「さあ、どちらが優れているか。犬に選んでもらおうではないか!」
俺たちは依頼主とともに、犬を二つの犬小屋の前に連れてきた。
犬は二つの犬小屋を交互に見た。
そして――。
俺の犬小屋を素通りし、じいさんの犬小屋にも入らず、日当たりのよい地面に寝転がった。
「…………」
「…………」
「魔王殿。どうやら、犬小屋そのものに興味がないようですな」
「そんなはずがあるか!」
俺は犬の前にしゃがみ込んだ。
「おい。どちらがよいのだ。メラミンか、天然木か!」
犬は大きなあくびをした。
そこへ勇者がやってきた。
「お前ら、何をやっているんだ?」
事情を説明すると、勇者は二つの犬小屋を見比べた。
「で、犬の希望は聞いたのか?」
「何?」
「普段どこで寝ているのか。暑がりなのか、寒がりなのか。どんな大きさが必要なのか。そもそも、雨風をしのげる場所に置くのか」
俺は言葉を失った。
「……依頼主の要望を確認せず、仕様を決めてしまったということか」
「そういうことだ」
勇者は犬に目を向けた。
「こいつ、いつもあそこで寝ているんじゃないのか?」
依頼主がうなずいた。
「ええ。日当たりがよくて、風も通るので、いつもそこで寝ているんです」
「…………」
俺は図面を見つめた。
材料の選定も、仕上げも、納まりも、決して間違ってはいない。
だが、肝心の使い手を見ていなかった。
「……よし。まずは設置場所を見直す。通風と日射を確認し、犬の習性に合わせて床の高さも調整する。天然木を使う部分と、清掃性を重視する部分も見直そう」
じいさんが、にやりと笑った。
「魔王殿。ようやく現場が見えてきましたな」
「勘違いするな。天然木が優れていると認めたわけではないぞ!」
「ええ、ええ」
「その笑顔をやめろ!」
こうして犬小屋は、設置場所から見直して造り直されることになった。
造り直した犬小屋には、犬もようやく入ってくれた。
……ただし、昼寝をするときは、相変わらず外の日なたを選んでいた。
「魔王様。犬小屋の納まりは、これでよろしいのでしょうか?」
側近が尋ねた。
俺は腕を組み、静かに答えた。
「……建物だけでは、納まりは完成せん」
勇者が笑った。
「少しは成長したじゃないか、魔王」
「黙れ。次は貴様の家を建ててやる。もちろん、最高級のメラミン仕上げだ!」
「いや、普通でいい」
「遠慮するな!」
――こうして俺は、犬小屋から建築の奥深さを学んだ。
だが、天然木を認めたわけではない。
納まりを極める道は、まだまだ遠い。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
魔王様にも、いろいろと苦労があるようです(笑)
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次回もお楽しみに!




