第二のホルムズ海峡 ~魔王、鋼板不足で完全敗北か……?~
第二のホルムズ海峡、ついに完成間近!
……のはずが、まさかの資材不足!?
威厳だけでは解決できない問題に、魔王はどう立ち向かうのか。
そして、宿命のライバル・勇者との関係にも変化が……?
今回も、魔王と勇者の現場奮闘記をお楽しみください!
海峡建設が始まって数ヶ月。
第二のホルムズ海峡は、いよいよ完成間近を迎えていた。
護岸や点検通路には、海水や潮風に強いSGL鋼板が使われている。
ところが、その重要な資材をめぐって、思いもよらないトラブルが発生した。
「魔王様……SGL鋼板の発注数を間違えました」
側近が、申し訳なさそうに頭を下げた。
「何枚足りない?」
「必要数の半分です」
「……半分?」
俺はゆっくりと側近を振り返った。
「いいか。敵軍が半数なら、残り半数を叩けばいい。だが、鋼板はそうはいかない!」
「は、はい……」
「敵なら捕虜にできる! 鋼板は捕虜にできない! そもそも、残りの鋼板はどこへ逃げたんだ!」
「魔王様……鋼板は逃亡したのではなく、最初から注文されておりません」
「お前まで勇者のようなことを言うな!」
「……確実に私が発注していませんので」
「じゃあ、今すぐ発注しろ!」
「……納期が間に合いません!」
「…………」
俺は黙った。
鋼板は悪くない。
悪いのは発注数を確認しなかった側近……いや、発注を任せきりにしていた俺にも責任がある。
しかし、そんなことを認めるわけにはいかない。
「……勇者を呼べ」
「よろしいのですか?」
「よくはない! だが、このままでは工事が止まる!」
ほどなくして、勇者が現場にやってきた。
「魔王。発注前に数量を確認したか?」
「……」
「図面と照合したか?」
「……」
「つまり、確認していないんだな」
「勇者よ! 説教は後にしろ。今は鋼板を持ってこい!」
「もう手配した」
「何?」
勇者は手元の資料を見せた。
「必要な規格のSGL鋼板を確保できる業者を探した。納期と搬入経路も調整してある。ただし、届くまでの工程は組み直す必要がある」
「……お前、いつの間に」
「魔王が鋼板に向かって怒鳴っている間に」
「鋼板は悪くない!」
「それは分かっている。悪いのは発注数を確認しなかったことだ」
ぐっ……。
こいつ、いちいち正論しか言わん。
「……今回だけは、お前の手腕を認めてやろう」
「毎回そう言っているな」
「毎回ではない!」
「じゃあ、前回は?」
「……記憶にない!」
側近は、そっと顔を背けた。
こうして不足していた鋼板は確保され、工程も組み直された。
だが、勇者は現場を離れる前に、俺へ図面を差し出した。
「魔王。今度は自分で確認しろ」
「言われなくても分かっている!」
俺は図面を広げた。
寸法、取り付け位置、部材の向き。
ひとつずつ確認していく。
……ん?
「待て。ここはおかしい」
勇者が顔を上げた。
「何がだ?」
「この取り合いだ。図面どおりに取り付けると、隣の部材と干渉するぞ」
勇者は図面をのぞき込んだ。
「……本当だ。現場の寸法と合っていない」
「ふっ。ようやく気づいたか」
「いや、気づいたのは魔王だ」
「当然だ! 俺は魔王である以前に、納まりを極めし者!」
「その前に発注を極めてくれ」
「お前、今日という今日は……!」
怒鳴りながらも、俺は図面に修正を書き込んだ。
勇者も現場を確認し、施工手順と必要な部材を見直していく。
「この修正なら、手戻りを最小限にできそうだな」
「当然だ。現場を見ずして、納まりは語れん!」
「……その言葉、最初から聞きたかったよ」
「何か言ったか?」
「いや。頼りにしているぞ、魔王」
……ふん。
こいつに褒められても、少しも嬉しくなどない。
少ししか。
そして、必要な修正を終えた第二のホルムズ海峡は、ついに竣工の日を迎えた。
「魔王様! ついに完成です!」
「見たか! すべて俺の納まりによって、第二のホルムズ海峡が完成したのだ!」
「魔王。まだ引き渡しは終わっていない」
「何……だと!?」
「検査と記録の確認が残っている」
「……あと少しじゃないか」
「その『あと少し』を省くと、あとで大変なことになる」
俺は口をつぐんだ。
……確かに、発注数を半分にした俺が言えることではない。
「よし! 検査と記録の確認を始めるぞ!」
「……ずいぶん素直になったな」
「当然だ! 俺は魔王だぞ!」
「発注数を半分にした魔王だ」
「その称号は今すぐ撤回しろ!」
こうして検査と記録の確認も終わり、第二のホルムズ海峡は無事に引き渡されることとなった。
俺は完成した海峡を見渡した。
巨大な構造物。
複雑な取り合い。
幾度も確認した寸法。
……うむ。
納まりは、完璧だ。
「魔王。感慨にふけっているところ悪いが、次の現場だ」
勇者がスマホを取り出した。
「もしもし? 例の東京の老朽化アパートの件ですが……はい。入居者が住んだまま、外壁と防水、給排水設備の改修ですね」
勇者の表情が曇った。
「……予算は限られている? 工事中も住民は退去できない? わかりました。まず現地を確認します」
電話を切ると、勇者は深いため息をついた。
「魔王。次の現場だ」
「任せておけ! 老朽化した建物など、俺の納まりで……」
「現地を見る前に工法を決めるなよ」
「……まずは現地調査だ」
「図面も確認しろ」
「分かっている!」
「発注数もな」
「分かっていると言っているだろう!」
側近が感心したようにうなずいた。
「さすが魔王様。勇者様とも、すっかり息が合ってまいりましたな」
「息など合っておらぬ!」
「では、お二人の関係も、すっかり納まったということで」
「その納まりは認めん!」
俺と勇者の新たな戦いが、今、始まろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第二のホルムズ海峡を完成させた魔王。
しかし、次の現場は東京の老朽化アパート。
限られた予算、複雑な納まり、そして暮らし続ける住民。
果たして魔王は、今度こそ最初から現場を確認できるのか?
次回もお楽しみに!




