第二のホルムズ海峡 〜伝説の職人世界の物流に挑む〜
世界情勢の悪化により、多くの材料が手に入らなくなった。
職人として死活問題に直面した元魔王のもとに、前代未聞の依頼が舞い込む。
「第二のホルムズ海峡を造ってほしい」
渡された図面には、SGL鋼板と高耐水木材の文字が並んでいた。
「……よかろう。図面を見せろ!」
世界を揺るがす物流危機に、伝説の職人が立ち上がる。
果たして魔王は、海峡を納めることができるのか。
「……これを造れというのか?」
魔王……いや、俺は、机の上に広げられた図面を見つめていた。
図面の中央には、堂々たる文字でこう記されている。
『第二のホルムズ海峡建設計画』
その下には、使用材料の指定があった。
世界的な鋼材・セメント不足により、コンクリートによる護岸工事は不可能。
そこで採用されたのが、耐食性がガルバリウムの3倍以上あるSGL鋼板と、塩水に強い高耐水木材を組み合わせた、超巨大乾式工法だった。
「SGL鋼板に、高耐水木材……か」
俺は図面をもう一度見つめた。
「なるほど……」
「お引き受けいただけますか?」
依頼主が期待に満ちた目を向けてくる。
俺は静かに腕を組んだ。
「まず確認したい。SGL鋼板の厚みは?」
「えっ?」
「高耐水木材の規格は? 接合部の仕様は? それと、この断面図を描いたのは誰だ?」
依頼主の顔から、少しずつ笑みが消えていく。
「……あの、海峡そのものを造る計画なのですが」
「見ればわかる」
俺は鉛筆を手に取った。
「だが、海峡だからといって、納まりを考えなくていい理由にはならん」
かつて俺は、魔王として異世界に君臨していた。
幾多の戦いを経て、最後には伝説の職人と呼ばれるまでになった。
そして人間界に転生した今も、俺の職人魂は変わらない。
材料が指定されているなら、その特性を理解する。
条件が厳しいなら、取り合いを考える。
納まらないなら、納まる方法を探す。
それだけだ。
「よろしい。まずはSGL鋼板と高耐水木材の接合方法から検討する」
「本当に造れるのですか?」
俺は顔を上げた。
「君は、俺が無理だと言うためにここへ来たと思っているのか?」
依頼主は黙り込んだ。
「無理だと言うのは簡単だ。だが、納める方法を考えるのが職人だ」
俺は図面の余白に、接合部のスケッチを描き始めた。
鋼板の取り合い。木材との接合。水の侵入をどう防ぐか。そして、長期使用に耐える構造をどう成立させるか。
考えるべきことはいくらでもある。
だが、俺は笑っていた。
久しぶりに、腕が鳴る仕事だった。
「……ところで」
俺は鉛筆を止めた。
「この計画の予算はいくらだ?」
依頼主は、恐る恐る金額を告げた。
俺は数秒間、沈黙した。
「……ふむ」
「いかがでしょう?」
俺は図面を裏返した。
「予算に合わせて、見えるところだけ仕上げるか」
「海峡ですよ!?」
「わかっている。だからこそ、割付が重要なのだ」
依頼主は頭を抱えた。
俺は再び図面に向き直る。
人間界には、勇者も魔王軍も存在しない。
だが、予算と納期、そして材料指定の厳しさは、異世界と何も変わらなかった。
そして俺は、世界の物流を左右する壮大な計画に、たった一本の鉛筆で立ち向かい始めたのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ついに魔王、海峡建設に挑戦です。
世界の物流を左右する巨大プロジェクトも、魔王にとっては材料と納まりの問題。
予算が足りなければ、見えるところだけ仕上げる。
それもまた、職人の知恵……なのかもしれません〔笑}
次回も、魔王の第二の人生をよろしくお願いします!
納まれば良い!
※実際は国家規模のプロジェクトを、このような材料だけで工事はできません。




