第13話 図面の誤算と、現場に潜む罠
道の駅の内装工事は順調に進んでいるように見えた。
しかし、現場では図面だけでは気づけない問題が次々と発生する。
魔王は職人たちと知恵を出し合い、難題を乗り越えられるのか。
今度は、現場の納まりが試される。
道の駅の内装工事が始まって数日。
物販コーナーやレストラン、休憩スペースでは、それぞれの製作物の準備が進んでいた。
俺は側近とともに現場を巡回し、各業者の作業状況を確認していた。
大工のじじいも工房で造作家具の寸法を確認し、順次搬入の準備を進めている。
「魔王様。各製作物の進捗は順調でございます。ただ、現場でいくつか確認が必要な箇所が出ておりまして」
側近が険しい顔で図面を差し出した。
「ほう。何があった?」
「まずはレストランのカウンターです。厨房側の設備配管が、カウンター内部の予定位置と干渉しているようです」
俺は図面を覗き込んだ。
「なるほど。設備との取り合いか。現場で位置を確認しよう」
――
第一の難題:設備との取り合い
レストランの厨房側では、設備工事の職人たちが配管作業を進めていた。
俺は現場監督に声をかけ、配管の位置とカウンターの納まりを確認する。
「この位置では、カウンター内部の収納スペースが確保できぬな」
そこへ大工のじじいがやってきた。
「おい、魔王。こっちは図面どおりに造るつもりじゃぞ。後から寸法を変えられても困るわい」
「わかっておる。だが、設備を無視して造作を進めるわけにもいかぬ」
俺は図面を広げ、配管の経路と収納スペースを見比べた。
「配管の位置を確認したうえで、カウンター内部の収納と点検スペースを見直そう。設備側とも相談して納まりを決める」
じじいは腕を組み、納得したように図面を覗き込んだ。
「ふむ。そこまで考えるなら、わしも造作寸法を検討し直してやろう」
――
第二の難題:コンセントの位置
次に向かったのは、休憩スペースだった。
旅行者が気軽に利用できるローカウンターを設置し、スマートフォンの充電などに使えるよう、コンセントを設ける計画である。
ところが、現場で確認すると、電気工事で予定していたコンセントの位置とカウンターの高さが合っていなかった。
「魔王様。これではコンセントの位置がカウンターと干渉してしまいます」
側近が困った顔で図面を見せた。
「ふむ。カウンターの高さだけでなく、コンセントボックスの位置も確認せねばならんな」
俺は電気工事の職人を呼んだ。
「すまぬが、このコンセントの位置をもう一度確認してもらいたい。カウンターの高さと使用する人のことも考え、使いやすい位置に納めたいのだ」
電気工事の職人は図面を確認した。
「なるほど。配線の取り回しもありますので、位置を調整できるか確認しましょう」
「頼む。無理に納めても使いにくくては意味がない」
じじいもカウンターの図面を覗き込んだ。
「電気のことは専門の者に任せよう。わしは造作側の寸法を合わせる」
「うむ。それぞれの仕事を合わせてこそ、良いものができる」
――
第三の難題:搬入経路の罠
数日後。
物販コーナーに設置する大型陳列什器が、ついに工場から運ばれてきた。
トラックが建物の前に停車し、職人たちが慎重に荷台から什器を降ろし始める。
そのときだった。
「おい! これじゃ入口を通らないぞ!」
現場に職人の声が響いた。
トラックの荷台から降ろされたのは、黒塗りの重厚な木目とガラスで飾られた、巨大な物販陳列棚だった。
威風堂々たる佇まいだが、なるほど……自動ドアのフレームと見比べても、明らかに一回り大きい。
「なんじゃこりゃ。ずいぶん立派なもんを造ったのう」
駆けつけたじじいが、陳列棚を見上げた。
「立派なのはよいが、これでは店内に入らぬではないか」
俺は腕を組み、搬入口から設置場所までの経路を確認した。
通路の幅、曲がり角、天井の高さ。
什器そのものの寸法だけでなく、運び込む際に必要な余裕、つまり搬入経路の有効寸法まで考慮する必要があった。
そこへ勇者が駆けつけてきた。
「魔王よ! 搬入が止まっているぞ! 予定していた作業時間がずれれば、ほかの業者にも影響が出る!」
「ふむ……。図面上では問題ないはずだったが」
俺は什器の図面を広げた。
「どうやら、搬入方法を見直す必要がある。分割できる構造に変更し、現場で組み立てる方法を検討しよう。製作側にも確認が必要だ」
じじいは少し不満そうな顔をした。
「せっかく仕上げたものを、またバラすのか」
「無理に通して壁や什器を傷つけるわけにはいかぬ。安全に運び込める方法を考えるのだ」
勇者が腕を組んだ。
「分割して搬入するなら、作業場所と時間を確保しなければならんな。他業者の工程も調整しよう」
「頼む。搬入経路と作業範囲を確保してくれ」
じじいは陳列棚をもう一度見上げた。
「ふん、仕方ないのう。最後まできっちり納めてやるわい」
側近も図面を手に取り、必要な寸法を確認し始めた。
――
その日の夕方。
俺たちは工房に集まり、三つの問題について改めて図面を広げていた。
設備配管との干渉。
コンセントの位置とカウンターの高さ。
そして、巨大什器の搬入方法。
どれも図面を描いて終わりというわけにはいかない。
現場を確認し、関係する職人たちと話し合い、それぞれの仕事が無理なく納まる方法を考える必要がある。
側近が図面を見ながら口を開いた。
「魔王様。図面だけでは気づけないことも、現場には多いのですね」
「そうだ。図面は大切だが、それだけですべてが決まるわけではない」
じじいがニッと笑った。
「ふん。ようやくわかってきたようじゃな」
勇者は書き直した工程表を机に置いた。
「問題はまだ残っている。だが、解決の目処が立てば工程も組み直せる」
俺は三人を見渡した。
「よいか。現場では、一人の都合だけで仕事を進めることはできぬ。設備も電気も造作も、それぞれが関わり合っておる」
俺は図面を閉じた。
「すべての仕事が正しく納まってこそ、建物は完成するのだ」
じじいが深く頷き、勇者も静かに笑った。
こうして、道の駅の内装工事は新たな段階へと進んでいく。
しかし、現場にはまだ、俺たちの予想を超える難題が待ち受けていた。
開館を目前に控えた消防検査。
そして、保健所による保健衛生指導という名の試練。
どうやら、魔王の仕事は什器を納めて終わりというわけにはいかないらしい――。
今回は、内装工事の現場で起こり得る三つの問題を題材にしてみました。
図面上では問題がなくても、実際の現場では設備配管との干渉や電気設備との位置関係、什器の搬入経路など、さまざまな確認が必要になります。
大切なのは、一つの業者だけで判断せず、それぞれの職人や関係者と相談しながら、全体として無理のない納まりを考えること。
魔王の知識だけでなく、勇者の工程管理、側近の学び、そして大工じじいの職人技。
それぞれの力を合わせて、道の駅の完成を目指します。
さて、次はどんな難題が待ち受けているのでしょうか。




