↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔王第二の人生――こんどは人間界に転生したので、世界をリノベします――』  作者: 木口タカシ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/13

第11話 勇者の休日

今回、魔王の工房を訪れたのは、あの勇者。

しかし、今回の依頼は魔王討伐でも世界の危機でもありません。

勇者が大切にしている、とある「財宝」を守るための依頼でした。

果たして魔王は、どんな宝物庫を作り上げるのか。

「魔王よ。ちょっと頼みがある」


ある日の午後、工房に現れたのは、見慣れた顔の男だった。


勇者である。


これまで何度も工事現場で顔を合わせてきたが、施工管理という立場から工程や安全に厳しく、魔王にとっては何かと注文の多い相手だった。


「ほう。また面倒な話か? 今度はどこの現場だ?」


「いや、今回は仕事じゃない」


勇者は妙に真剣な顔で、黒いアタッシュケースを作業台に置いた。


「これを見てくれ」


「武器か?」


「違う」


「まさか、魔王軍への宣戦布告か?」


「だから違うって!」


勇者はロックを外し、ゆっくりとケースを開いた。


中には、透明なケースに収められた色鮮やかなカードが整然と並んでいた。


「これは……?」


「ポケモンカードだ」


「ぽけもん?」


「カードゲームだ。俺はこれでも、かなりの腕前なんだぞ」


勇者は少し胸を張った。


「大会でも上位に入る。いわばトップデュエリストだ」


「ほう……」


俺はカードを眺めた。


「つまり、そなたは勇者でありながら、カード遊びの達人でもあるということか」


「カード遊びと言うな! これは戦略と読み合いの競技だ!」


「……なるほど。戦場での駆け引きと同じということか」


「そうだ!」


「それで、今日は何の用だ?」


勇者は一枚のカードを取り出し、俺の前に置いた。


「これを安全に保管できるケースを作ってほしい」


「箱なら市販品があるだろう?」


「普通のケースじゃ駄目なんだ。湿気も紫外線も避けたいし、持ち運ぶときの衝撃も心配だ。できれば展示もできるようにしたい」


「注文が多いな……」


「大切なカードだからな」


勇者はカードをそっと元に戻した。


俺は腕を組んだ。


「ふむ。つまり、カードのための小さな宝物庫が欲しいということだな」


「そういうことだ!」


「よかろう。我に任せよ!」


俺は方眼紙を広げ、鉛筆を握った。


「まずはアタッシュケースをベースにする。内部には着脱式の収納ユニットを設けよう。持ち運ぶときは固定し、保管するときは取り外せる構造だ」


「おお!」


「収納部はカードのサイズに合わせて仕切る。スリーブに入れた状態でも、余裕を持って出し入れできる寸法が必要だ」


俺の鉛筆が勢いよく走り始めた。


「湿度管理には交換式の乾燥剤と湿度計。展示部分にはUVカット材を使う。さらに、外部からの熱の影響を抑える断熱構造も検討しよう」


「赤外線対策も頼む」


「分かっている。赤外線による熱の影響も考慮した構造だな」


「それと、暗証番号式のロックも欲しい」


「盗難対策か」


「そうだ。何しろ、俺のカードには相当な価値がある」


「なるほど……」


俺は一度、勇者の顔を見た。


「ちなみに、そのカードはどれほどの価値があるのだ?」


勇者は少し間を置いて答えた。


「……ものによっては、その辺を走っている車より高い」


俺の鉛筆が止まった。


「なに?」


「中には、それ以上のものもある」


「……」


俺はゆっくりとカードを見た。


「勇者よ」


「何だ?」


「これは、紙ではないな」


「紙だが?」


「いや、財宝だ」


勇者は満足そうにうなずいた。


「分かってくれたか」


「ならば、保管庫にも相応の構造が必要だ。側近! 金物のカタログを持ってこい!」


「魔王様、カードケースの依頼でございますよ?」


「黙れ! 財宝を守るのだ!」


その後、俺の設計は一気に加速した。


スライド式の収納トレー。

着脱可能な内部ユニット。

湿度管理用のスペース。

UVカット仕様の展示窓。

二重ロック機構。


さらには、カードを一枚ずつ取り出せる専用スライダーまで考案した。


「魔王様……」


側近が図面を覗き込む。


「これは、もはやアタッシュケースではございません」


「何だと?」


「移動式の宝物庫でございます」


「ふむ。悪くない名称だ」


そこへ勇者が再び顔を出した。


「魔王よ、進捗はどうだ?」


「順調だ。ところで、カードは何枚収納する必要がある?」


「そうだな……大会で使うデッキは60枚だが、予備のカードも合わせて100枚は入れたい」


「百枚!?」


側近が思わず声を上げた。


「勇者様、そんなに持ち歩くのですか?」


「大会に向けて、デッキの調整も必要だからな」


「……」


側近は俺を見た。


俺は静かに図面に数字を書き加えた。


「収納部を増やそう」


「魔王様! まだ増やすのですか!」


「当然だ。依頼主の要望に応えるのが職人というものだ」


数日後。


試作品が完成した。


黒いアルミニウム合金が鈍い光沢を放つアタッシュケース。その内部には、整然と並ぶ収納ユニット。カードを保護するクッション材、湿度計、乾燥剤、展示用の透明パネルまで完璧に備え付けられていた。


勇者はケースを開くなり、目を輝かせた。


「おおっ! これはすごい!」


「どうだ。これなら持ち運びも保管も問題あるまい」


「魔王よ、感謝する!」


勇者はカードを一枚取り出し、専用の収納部に収めた。


そして、満足そうにケースを閉じた。


「これで次の大会も安心だ」


「優勝できそうか?」


「もちろんだ。俺を誰だと思っている」


「施工管理の勇者だろう?」


「今はデュエリストの勇者だ!」


俺は小さく笑った。


「ふっ。では、優勝したら報告に来るがよい」


「ああ。ところで魔王よ、もう一つ頼みがある」


「何だ?」


「優勝トロフィーを飾るケースも作ってほしい」


俺は鉛筆を落とした。


「……まだ依頼があるのか」


「できれば照明付きで。あと、ホコリが入らないように」


「勇者よ」


「何だ?」


「そなた、世界を救うよりカードを守る方に熱心ではないか?」


勇者は少し考えた。


「……どちらも大切だ」


「そうか」


俺は鉛筆を拾い、再び図面を広げた。


そのとき、工房の入口から声がした。


「おや、勇者さん。また新しいケースを作ってもらったんですか?」


振り返ると、そこには一人の男が立っていた。


「あ、明秀!?」


勇者の表情が一瞬で変わった。


「ほう。知り合いか?」


「ああ……俺のライバルだ」


明秀は勇者の手元にあるカードケースに目を向けた。


「ずいぶん立派なケースですね。大切なカードを守るための特注品ですか?」


「ああ。魔王に頼んで作ってもらったんだ」


「ところで、こちらの方は?」


「紹介しよう。魔王だ」


「……魔王、ですか?」


「知らん!」


「えっ?」


明秀は思わず俺と勇者を交互に見た。


「いや、あの……魔王様、ですよね?」


「だから知らんと言っておる!」


勇者が横で小さく笑った。


「まあ、気にしないでくれ。こいつはいつもこんな調子なんだ」


明秀は少し困ったように笑い、改めて俺に向き直った。


「明秀と申します。よろしくお願いします」


「うむ。よろしく頼む」


明秀は再び勇者の方へ向き直った。


「それにしても、次の大会が楽しみですね。前回は本当に僅差でしたから」


「今度こそ勝たせてもらうぞ!」


「私も負けるつもりはありませんよ。お互い、いい勝負にしましょう」


「望むところだ!」


明秀はそう言い残し、工房を後にした。


俺は勇者の顔を見た。


「……勇者よ。そなた、ずいぶん手強そうな相手がいるではないか」


「手強いからこそ、倒しがいがある!」


勇者はケースを抱え直した。


俺は思った。


どうやら、この宝物庫にはカードだけでなく、勇者のプライドも保管する必要がありそうだ。


「ところで勇者よ」


「何だ?」


「大会はいつなのだ?」


「横浜の現場のあとだ!」


「現場のあとに直行だと!? そなた、カード大会にまで工程表を持ち込むつもりか!」


「当然だ! 勝利への工程にも抜かりはない!」


俺は呆れて鉛筆を置いた。


「……もう好きにするがよい!」

まったく、そなたは最後まで面倒な男だ。

今回は、勇者の意外な一面を書いてみました。


そして、サプライズゲストとして明秀が登場!

実はリアル友人です。デュエリストではなく、コレクターですが〔笑〕。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。