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20Hong Kong3

登場人物 

 大村華……遠野凛  中森明……遠野奏  小林博……健人 

 彩……「彩音Ayane」代表取締役   マックスウェル・M ……「彩音Ayane」香港支店長  

 トミー・E ……「彩音Ayane」若手社員    ナオミ・K …… 現地専属通訳 

「大村華です。よろしくお願いします」

衣装は借り物。アクセサリーはゴールドとラピスラズリのピアスだけにした。ラピスラズリは深い青だ。

アレクサンドリアのバレッタと同じ系譜の石を、今日は耳につけてきた。彩のブランドカラーとも合う。

計算した。いや計算だけではなかった。奏が選んでくれた私物の中から身につける。

今日は自分で選んできた。それでも同じこと。奏が3秒固まったから。

「ナカモリアキラです。商品開発部門の責任者をしております。」

「ぷっ。えっ?」

「華さん、紹介しますね。うちの香港支店長のマックスウェルです。みんなマックスと呼んでます。」

「そして、アシスタントのトミーです。彼はオックスフォード出。まだ若いですが将来が楽しみです。」

「このかわいこちゃんはナオミ。商談時に通訳として同行してもらっています。英語、日本語、中国語を

ビジネスライクに話すことができます。」

「みんなにはメールで連絡した通り、華さんの会社とのコラボレーション企画を考えています。」

「今回は観光案内という名目の顔合わせです。各々、忙しいでしょうがマックスは当然のことトミーと

ナオミにも携わって貰いたいと思う。意味するところはわかるでしょ?」



◇奏語り◇

真顔で自己紹介した。ナオミは通訳として同行していた。

凛の直感通り、天真爛漫な表の顔で明るく笑った。同年代で1つか2つ年下に見える。

笑顔にエクボが含まれている。美人というよりは可愛らしさがあり、

自然に周りを明るくさせる雰囲気がある。

凛より背が低く胸も大きくはないが平均的+αといった感じだろうか。

膝上丈の紺のタイトなスカートに刺繡の編み込まれた白いブラウス。

髪は肩にかかる程度で同世代よりも年上の男性から好感を抱かれやすいタイプだ。

疑ってかかるつもりもないが、手強い。

◇/◇


◇健人語り◇

目は悪くないが、眼鏡をかけろと奏に言われたので、凛さんと同じチタンフレームをリクエストした。

奏は、いつもの紺のシングルスーツ。ボタンダウン。ノータイなのに違和感を全く感じさせない。

こいつは、無頓着のふりをしたスーパーエージェントだぞ。

「クラークケントかよ」「みんな、騙されて気を抜くな」って思った。

凛さんは、雰囲気が違って女性経営者というよりセレブな感じを醸し出していて、

いつも上品な人だが、エレガントな雰囲気を上乗せしている。

真っ白なパンツスーツに5センチヒールでブルーのバーキンを提げている。

ホテルのドアマンでなくてもドアを開けて通してあげたくなるほどに……草薙素子。

先ず、オレが作る仕掛けはデコイの新商品開発工程データ武装をすることだった。

ブロックチェーンを用いて追跡ログを仕込む。

ブロックチェーンは暗号化、分散化、コンセンサスの原則に基づいており、新しいブロックはそれぞれ

改ざんが、ほぼ不可能な方法で暗号チェーン内のすべてのブロックと接続される。

成分分析データをブロックチェーンに乗せると、あるブロック内のデータを書き換えると、そのブロック

のハッシュ値が変わり、ブロックチェーンとしての整合性が失われる仕組みになる。

つまりデコイとして流した新商品工程表に追跡ログを仕込むと、「コピーや送信をした瞬間にデータが

破損する」仕組みが技術的に成立する。

変更や更新には過半数の合意が必要なため、一部の不正による改ざんが困難で、正規データのように

見えるが、開こうとした瞬間にオレののシステムが発信元を特定する。

それらに加えて、履歴の追跡が可能で、高い耐改ざん性を持つブロックチェーンは、暗号通貨を使った

資金洗浄の追跡にも使うことができる。仲介業者が報酬を受け取る経路までオレが追跡してしまえば

クライアントが誰かはっきりさせることもできる。

奏には、いつも世話になっているし、凛さんの親友の彩さんのためにもオレが全力で潰す。

◇/◇



マックスウェルと握手した。誠実な目をしていた。彩が信頼する理由がわかった。

でも誠実な人物の周囲に穴がある。それが今回の構造だ。マックスは白だと判断した。

トミー・E、オックスフォード出の若いアシスタント。握手した瞬間、手が少し緊張していた。

賢い人間が緊張する理由は二つだ。格上の相手への敬意か、後ろめたさか。

どちらかは、もう少し観察が必要だ。

ナオミ・K、「このかわいこちゃん」と彩が紹介した瞬間、ナオミが完璧な笑顔を返した。エクボが

あった。天真爛漫に見えた。奏が真顔で「ナカモリアキラです」と言った瞬間の「ぷっ。えっ?」も

自然だった。自然すぎた。用意された自然さだ。

直感が言っている。ナオミ・Kは、この場に慣れている。初対面の緊張が、どこにもない。

健人さんが正に「草薙素子」と褒めてくれた。たぶん。

大村華として動く私が、草薙素子でいられるなら、作戦は正しい方向にある。


私は、奏、トミーと三人で香港観光という名の観察に出た。

トミーは案内役として、香港の街を丁寧に説明した。九龍側から眺めるビクトリアハーバー。

センチュラルのビル群。かつての植民地の痕跡が石畳に残るスタンレー。

賢い男だった。話が面白かった。

でも、落ち着きがなかった。スマートフォンを何度か確認した。さりげなかったが、回数が多かった。

誰かと連絡を取っている。観光案内の業務上の連絡にしては、頻度が高すぎる。

奏のホークアイも同じ場所を見ていた。目が合った。奏が一瞬だけ視線でトミーのスマートフォンを

示した。そばかすをクシュっとさせた。言葉はいらなかった。

トミーが丁寧に「彩音」香港支店のデータ管理の話をした。奏が誘導したのだが。

マックスとLA本社のやり取りをバックアップしている。と何気なく言った。

何気なく、という言葉が正確ではない。意識していない発言だった。

その一言が、核心だった。

マックスのLA本社とのやり取りがハードディスクに存在する。


そして、驚くことにトミーはそれをナオミに渡していた。

何も知らされずに、通訳であるナオミのビジネス教材として。

トミーはナオミに利用されている。おそらくふたりは恋人同士だ。またはトミーの片思いか。

トミーの純粋な瞳はナオミに向かっている。自分が実行犯として機能していることを、

知るよしもない。かわいそうだ。

いや、彩の積み重ねたものをと思うとかわいそうとは思わない。

ナオミ・Kへの怒りが増した。





続く

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