↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

12Paris

「今になって思うと、あまり無理はしてないです」

私は奏が喜んだり、固まったり、やさしく微笑んでくれたり、

そういうものが、欲しかっただけ。


「凛が、本をくれた時のVネックは?」

誰だって興味の視線で、いつも胸を見られたら嫌に決まってる。

それなのに凛は、見られることを承知で胸の谷間が覗くVネックを着てきてくれた。


「奏、固まるけど、そういう時必ず「似合ってるよ」って言うでしょ」

そうだ。奏は服とかフォームとか表情を褒めてくれる。


「でも凛は、胸に集中する視線が嫌で苦しんでたじゃないか」

オレは、心苦しくて。だけど押さえ込んだ凛に申し訳なかった。


「奏、本当に大丈夫なの。」

不思議だ。奏は、凄くエッチなのに可愛いとさえ思える。


「凛、あれは?白のチビTシャツ」

あのデートは永久保存だ。


「あれは、恥ずかしかったよ。でも、奏の仕草とか表情とか見てたら可愛さが勝った」

親友の彩に感謝している。


「あと、そばかすも。隠したかったのに最近は化粧も薄くしてる」

顔の中心で常に愛くるしい。


「それは、本当に本当に大丈夫。実は、まんざらでもない」

私自身が感じる。奏の前では表情が豊かになる。私の顔が緩むと奏は必ず喜ぶから。


「凛が、そう言うなら今まで通りにする」

葛藤を抱えながらオレを喜ばせようとした凛が、愛しい。


「うん。そうして。そこから避けられるのは嫌」

そばかすも胸も身体の中心にあるから避けられたら逆に辛い。


「わかった。2こ、やって」


「はい・・・可能ならば」


「ひとつめ。「んーっ」てやって」


「そんなこと?たまにやってない?」


「ずっと、盗み見るんじゃなくて、やらせたかった」


「んーっ」



「ふたつめ。オレのスパーリングパートナーになって」


「それは、おもしろそう。蹴りのスピードなら負けないよ」


「いえいえ、蹴りもパンチも威力半減させるし、ディフェンス強化の目的だから」


「私は本気でいいのね。了解。いつでもどうぞ」




◇奏語り◇

オレは、どんなに果報者なのだろうか。

本当に今になって思うと、凛は、葛藤を抱えながらオレを喜ばせようとしてくれていた。

あの時のオレに戻れたら涙がこぼれたことだろう。

凛の身体の輪郭。凛にとってはコンプレックス。

凛の「そばかす」。凛にとってはコンプレックス。

凛は、身体の使い方が滑らかで、走る時も泳ぐ時もフォームが自然だ。

天性のカンなのだろう。絶対感覚だ。

肩甲骨や大腿骨は勿論のこと、肘や膝、手首や足首。指先の動きまで滑らかで見とれてしまう。

その動きは運動だけにとどまらない。

立ち止まって振り返る時、落ちた物を拾う時、パスタの食べ方や珈琲の飲み方まで

自然体にやさしさと知性が同居する。気高さとはまた別の質感の高さに魅せられる。

それに伴って大きな胸が上下に弾み、ときには谷間を作り停止を拒んでいる。

ウエストから腰にかけてのヒップラインは、その都度、服に張り付いて形を露にする。

凛は、「奏の視線は違うから」と言ってまんざらでもない様子。

そして「そばかす」。笑顔は勿論だし、酸っぱい顔をした時や鼻にしわを寄せたとき。

一番好きなのは寝顔・・・かもしれない。

凛は、「奏はわたしを甘やかす」と言ってまんざらでもない様子。




♪♪その⑮♪♪


奏とホテルのディナーショーに行った。

マジックショーとJAZZとかなんとか。

少し薄暗い照明で、食事とお酒を楽しみながら、

音楽とマジックパフォーマンスを鑑賞する。

テーブルは円卓で中央辺りにバスケットに入ったパン。

凄く美味しそうだ。

そして、サーバーされたポタージュスープ。湯気がたっている。


私は、この美味しそうなパンをスープに浸して食べたかった。

モスグリーンのワンピースを着ていた。

「凛、ワンピース質感高いな。凄く似合うよ。」

「奏、ありがとう。あのね、パンが凄く美味しそう。」

「きっとホテルで焼いたパンだから絶対に美味いよ。取ってあげるよ。」

「大丈夫。」

その時、照明が落ちてマジック特有の間が訪れた。


「熱っ」


静まり返った会場で、私は声をあげてしまった。

奏が慌ててスマホの灯りで私を照らした。


私の左おっぱいがパンの代わりに・・・

「奏、どうしよう・・・熱い。」

「凛、ちょっと待って。クスっ」


しっかりスープに浸かっていた。


「凛出るぞ。トイレに行け。障害者用の方な。氷貰って直ぐにいくから。」

私はナフキンを胸にあてて暗闇の会場をでた。

奏は直ぐに氷を持って来てくれた。

「早く脱いで。下着もはずせ。」

「奏、やって。火傷してるかもしれない。」

「了解。」

ピンク色が真っ赤だ。

奏は、氷をあててくれた。そっと、やさしく。

「奏・・・ありがと。」

「いや。火傷は大丈夫そうだな。これから部屋とって一晩冷やそう。」


「でも奏、クスってしたでしょう」

「ごめん。だって凛の左おっぱいがパンの代わりにスープに浸かってたから。つい・・・」

私と全く同じ表現だった。



「もぉ」



凛のプラス25センチを奏はいつも注意するようになった。




[◇奏+凛photobook10◇]

今度の任務は空港に向かうところから始まっていた。変装だ。といっても普段着なのだが。

お祝いのつもりか? シャルル・ド・ゴール空港を出た瞬間、パリの空気が来た。

石と排気と、どこかから流れてくる珈琲の匂いが混ざった、あの独特の重さだ。

雰囲気ががらりと変わった。私が先を歩いた。パリの地下は暗い。奏が後ろについた。

メトロの下、さらに続く通路がある。観光客は来ない。

石造りの壁が湿っていて、灯の間隔が広い。ルーブルまで続く、という話を聞いていた。

権力が地下に通路を作る理由は、いつの時代も同じだ。表を歩けない何かを、運ぶためだ。

気配だけで奏を確認する。二人の足音の間隔が、任務中の正しい距離を保っていた。

地上に出たとき、奏が隣に来た。何も言わなかった。ただ、呆然と並んで周りを見渡した。

パリの光が、ルーブルのピラミッドが、地下の暗さと正反対で、この調査任務の意味合いを理解した。

ウィーンに帰れず国家反逆罪にされた王妃を処刑した場所だと考えずにはいられなかった。


キャップスを深めに被った凛の後頭部を見ながら思った。凛のカジュアルは変装として完璧すぎる。

ひと味違う。アニエスベーの黒ニットにオレの履き潰した501、アディダスカントリーの歩幅が、

パリの石畳に慣れている人間の歩き方だった。

オレのショットシングルライダースが肩からずり落ちて、大きな膨らみで押し広げられている。

パリの学生にしか見えない。胸と姿勢の良さが自信をにじませ、正しく将来の大女優の卵という感じだ。

見とれてしまうほど輝いていた。フレンチカジュアルを見事に表現している。

凛にブロンズのバレッタヘアクリップをプレゼントした。

ずっと一緒にいたい気持ちと感謝を込めて。マリーアントワネットは処刑台に向かう途中、

「お許しください。わざとではありません。」と言った。

凛、その格好も罪だよ。似合いすぎる。

[◇/◇]




了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。