第43話 思考能力高め
RAFTの店内に入ってすぐ、希空はガラスケースの前へと足を運び、ガラスケースの中を覗き始めた。
「これは……、やはり真鍮の比重がこのモデルのコアでしょうか。内部バランサーの配置から逆算すれば、ペン先にかかる回転モーメントは理想値になる…。それなら指先の虫様筋への過剰な負荷を完璧に相殺できますね。」
ガラスケースの前で服が地面につかないように足を抱えて座り、真剣な眼差しでシャーペンを見ていた。
「私が見たお兄様の平均筆記速度と連続稼働時間を考慮すれば、軽量な樹脂軸による無意識の筆圧上昇は将来的な正中神経の慢性圧迫を引き起こす。手の痺れや腱鞘炎のトリガーになる、それを回避するための最適な摩擦係数を確保するならこのローレット加工の溝の深さが必要不可欠ですね。」
「おい、希空?」
「指で握るんじゃなくてペンの自重を利用して重力で書かせる状態を作れば腕のエネルギー消費は物理的に最小化される。さらに紙面との摩擦で発生するミクロの固有振動数をこの金属軸の密度で完全に減衰できる。人間は芯のブレや微小な振動を感じるだけで無意識に脳のワーキングメモリを消費して集中力を削いでしまう、思考のボトルネックになる物理的ノイズを完全に排除して知的生産性を最大化するための機能的最適解は…、このモデルしかないですね。」
なんか、すごいなこいつ。ちゃんと引くレベルなんだけど。なんて言うか、改めてちゃんと頭いいんだなって思わされた。思考能力高めなんだろうけど。
希空は唇に手を当てて、はっと我に返ったように俺の方へと振り向く。
「あ、すみません。絢星さんをおいて1人で盛り上がってしまって。」
「いや、大丈夫。どれ買うか決めたならさっさと会計しに行こうぜ。」
「そう、ですね。考えてみたんですけど、このシャーペンにしようと思います。」
希空の後ろについて行って俺が会計をすませる。家に帰ったらお金は返してくれるらしい。希空だと金貸しても返してくれるって確信できるのなんなんだろうな。
「絢星さんのおかげでお兄様にいいプレゼントを買えました。次はお姉様に渡すプレゼントを買いに行きましょう。」
「おう、そうだな。」
流石に海音さんに買うものはこんな考えないと思うけど、さっきの見せられたら少し心配になってきたな。まぁ海音さんに買うものは俺も買おうとは思ってるし、海音さんが好きそうなもの考えとくか。
「希空、海音さんの分はどこで買う?」
「少し待ってくださいね。」
希空はショッピングモールの地図を見る。
「お姉様のプレゼントは…、このFleurirというお店にしましょうか。」
「アクセサリーか、いいと思う。まさっさと行こうぜ。」
「はい、ここからそんなに遠くないですし、ゆっくり行きましょうか。」




