ソフィーちゃん
「いらっしゃいませ」
私、レインの個人商店≪Rainbow≫は大忙しだった。
個人商店というのはユーザー間取引のためにマルチプレイ専用チャンネルが用意され、ユーザーメイドの品やドロップ品等を取引するためのシステムだ。
「本日はどんな品をお探しですか?」
ボイスチェンジャーで少し低くなった声で尋ねる
「わー、レインくんこんにちは、推しにプレゼントしたいんだけど、細身のスーツってある?」
「それでしたら、こちらに」
男装での接客も大分慣れてきた。
今までは細々と自作のドレスや裁縫素材などを置いていた店も、今では男装衣装が店のほとんどを占めていた。
ユウの勧めでお店にいる間は男装しているのだ。
今ではすっかりレインくんと呼ばれるようにまでなった。
久しぶりにお店に立っているけどやっぱり生産職は楽しい。
普段は商店管理用NPCの子が店番をしてくれている。
この子には執事服を着て接客してもらっている。
「いらっしゃいませ」
カランカランと扉が開く。
「あれ、ソフィーちゃん、こんにちは」
ソフィーちゃんは中央都市の服屋のNPCだ。
「最近ずっと来てくれなくて寂しいから会いに来ちゃいました」
少し拗ねたように唇を尖らせる。
「ごめんごめん、最近ちょっと忙しくて」
しばらくフレイヤさんの所に入り浸っていたし、その後は商店が忙しかった。
「レインくんの服屋さん素敵だわ、うちも負けてないけどね」
「それでソフィーちゃん、何か用事?」
疑問を投げかける。NPCがわざわざ出向くなんて初めてだった。
「あら、用事なんてないわよ。会いに来ただけだもの」
「そうなんだ、嬉しいよ」
ソフィーちゃんの手を取る。
「それじゃあ、このままこの辺のお店を見て回るかい?」
男装で接客をしているうちに楽しくなって好きな男装キャラの仕草を真似るようになってきていた。
「ふふっ、エスコートお願いしようかしら」
ソフィーちゃんも乗り気のようだ。
「店番、お願いするね」
「かしこまりました」
商店管理用NPCにお店を任せ、表に出る。
「じゃあ、まずは……雑貨屋なんてどうかな?」
「いいわね、行きましょう」
かわいい小物の他にアクセサリー等を取り扱っているユーザーのお店だ。
男装用のウィッグをオーダーしたこともある。
「どうぞ」
ドアを押さえ、ソフィーちゃんを招き入れる。
「いらっしゃいませ、あ、レインくん」
「こんにちはロビンさん」
「お友達?」
隣に立つソフィーちゃんを見て訪ねてくる。
ロビンさんにはソフィーちゃんではないモブに見えているはずだ。
「うん、お友達」
そういって手を取る。
「新しいもの作ったから良かったら見ていってね」
そういうとロビンさんはカウンターの中へ戻る。
「わぁ、かわいい小物がいっぱいですね」
ソフィーちゃんは楽しそうだ。
木を彫って作った小物や羊毛フェルト等、お店の中はかわいいもので満たされている。
一緒に色々見て回り、ふたりはブレスレットのコーナーへ。
「記念にお揃いで買おうか」
そんな提案をする
「いいの?」
とソフィーちゃん
「うん、せっかくだからね」
「ありがとう、大事にするわ」
お会計を済ませ、店を出る
「またね、ロビンさん」
「また来て頂戴ね」
「そろそろご飯の時間だね」
「そうね、どうしようかしら」
「ちょっと歩くけどごはん屋エリアにいこうか」
「ええ」
衣料品雑貨エリアを通り抜けごはん屋エリアに向かう。
ラーメンにカレー、ピザケバブ等いろいろな屋台が出ている
現実より簡単に美食を追求できると、人気のコンテンツだった。
一日中カレーの調合をしている人までいるという話だ。
「じゃあカレーにしよっか」
カレーの事を考えていたら食べたくなってしまった。
「ええ、そうしましょう」
ソフィーちゃんも賛成してくれる。
「この後はどうしよっか」
「そうね、私は一緒にお洋服を作りたいわ、最近来てくれなかったもの」
昔はスキルのトレーニングでよく一緒に裁縫をしていた。
スキルがカンストしてからも、一緒に作るのが楽しくて時間を見つけては一緒に作業していたのだ。
「いいね、久しぶりにソフィーちゃんと一緒に作るのも楽しそうだ」
ご飯を食べ終わり、二人でソフィーちゃんのお店へと向かう。
「今日は何を作ろっか」
「せっかくだしお互いに服を作って交換しましょう?」
ソフィーちゃんが提案する。
「面白そうだ、それでいこう」
最近は男装衣装を考えてばっかりだった、女性用衣装を考えるのも大好きなので腕がなる。
ソフィーちゃんはおっとりしているようで、行動力もある。
ソフィーちゃんが今着ているタイトなロングスカートも良いけれど、フレアスカートが良いかもしれない。
活発的な印象を少し抑えるために上着にボレロなんていいかもしれない。
ソフィーちゃんの事を考えてソフィーちゃんに服を作る。
こういう時間がとても好きだった。
時間はあっという間に過ぎ、二人とも服を作り終えた。
「どう、かな。ソフィーちゃんの事を考えて作ってみたんだけど」
「ええ、すごくいいわ。普段着ないタイプのスカートだけど気に入ったわ」
満面の笑みだった。
「良かった、すごく似合っているよ」
「……!」
ソフィーちゃんの頬が赤く染まった。
本格的に男装を始めてから、すっかり褒めるのが習慣になった。
「そ、それじゃレインくんの服も受け取ってくれるかしら」
「うん、ありがとう」
服を受け取り、装備を変更する。
ブラウンを基調にしたジャケットとパンツだった。
男装しているから当然かもしれないが、男装衣装だった。
ソフィーちゃんの中ですっかり定着しているようだ。
「うん、すごくいいよ」
ジャケットに袖を通し、全身を見渡す。
「凄く似合っているわ」
ソフィーちゃんが褒めてくれる。
新しい服を着るとテンションが上がる、自分のために作られた衣装ならなおさらだ。
普段はスーツを愛用しているのでジャケットも新鮮だった。
そのまま二人で作った服のお気に入りのポイントや素材の話など、楽しくおしゃべりをした。
「そろそろ帰らなきゃだね」
「ええ、今日は楽しかったわ。また一緒に作りましょう」
「そうだね、僕も凄く楽しかった」
男装を始めてから自分の事を僕と呼ぶようになっていた。
気取ってるようで少し恥ずかしいけれど。
「それじゃ、また」
「ええ、また」
余韻を楽しみながら帰路に付くのだった。