19話 「死を乗り越えてでも」
篠塚が死んだ。まるでその実感がわかない。昨日みたものはフィクション、作り物だったとしか思えない。
篠塚が死んだー。それはわかる。いや、嘘だ。やはりわかることができない。だって篠塚はあのあと、腹を貫かれた後、たしかに自分の足でこちらに向かってきたのだ。あれは襲ってきたのではない。きっと助けを求めていたのだ。それなのに…俺は…俺たちは…篠塚を、仲間を見捨てたのだ。
あんなに残酷な死にかたは映画のなかでしか見たことがない。
昨日は眠ることが出来なかった。脳内にへばりついてとれないのだ。目を閉じようとしても赤い血飛沫が目の前にはっきりと。
不意に部屋の扉が開いた。
「みんな…呼んでるよ?ホールでまってるね。」
三咲も悲壮感の漂った小さな声で俺を呼ぶ。
一人になりたい気分だった。だけど悲しいのはみんな一緒である。
ホールに行くことにした。
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ホールに行くとすでに俺以外のみんなはそこにいた。雷電は所長に掴みかったっていた。
「どうしてなんだぜ!どうして…絶対安全って言ってたのはあんたらのほうなんだぜ!…どうして…嘘ついたんだぜっ!」
雨宮さんが静止しにかかる。
「やめろ。まさか所長もあいつがあんな行動にでるとは思わなかったんだ。」
その雨宮さんに対しても雷電は噛みつく。
「あんたもだぜっ!あんたも…なんであいつを撃ったんだぜ?なんでなんだぜっ!?」
「仕方ないだろう!あんなことになってしまったら…あいつは既に人間ではなくなっていた!あいつはもうゾンビだったんだ!」
苦しそうに涙を流しながら、それでも雷電は食い下がらない。
「だけどあいつはっ…大切な仲間だったろうがよぉ!?」
「やめないか」
所長がいままで聞いたこともないようなドスのきいた低い声で言い放った。
「今回の篠塚くんの死は想定外だった。だがしかし…彼の死でウイルスーツの弱点も少しずつ見えてきた。一度みんなの願いの箱を回収させてもらう。」
所長と黒田さんの言葉は威圧感がある。逆らってはいけない気がしてしまうのだ。
俺たちは願いの箱を預ける。
「お願いします。これでわかりましたよね?一般人では手も足も出ないんです。あなたたちが必要なんです。あなたたちしかこの腐った世界を救えないんです。」
俺はたしかにあのとき、みなぎるパワーを感じた。俺たちならゾンビを倒せると確信した。でも…一般人なら…倒すどころではない。逃げるのだって難しいはずだ。
俺たちはやるしかないのだ。仲間の死を乗り越えてでも。
「…わかった。」
俺たちは…もうアクターなんだ。後戻りは出来ない。
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悲痛な叫び声が渇いた夜に響く。
その声は人間の叫び声なのか獣の咆哮なのか、もはや判別がつかない。
スーツを着た篠塚のような化け物は壊れた夜の街を徘徊していた。
そこに現れるもう一人の黒い化け物…
その黒い化け物は何者かと通信をしているようだった。
「発見したよー!…うん、うん…でーくっちゃっていいの?そりゃあいいか!それが僕の仕事だもんね…」
篠塚のような化け物はその黒い化け物に襲いかかる。
「おっとっと…すまんすまんまたあとでなー…さーてさて…痛くないですよーちぃっとチクッとするだけだからさ!」
そういって黒い化け物は篠塚のような化け物を投げ飛ばし、動けないようにのしかかる。
「それじゃあ!いただきまーす♪」
黒い化け物は篠塚のような化け物の肩に噛みつく。まるで吸血鬼が血を吸うように、ゆっくりと優雅に。
篠塚のような化け物はしばらくすると動かなくなった。




