1話 「学園のアイドル」
悲痛な叫び声が渇いた夜に響く。
その声は人間の叫び声なのか獣の咆哮なのか、もはや判別がつかない。
いや…それは人間の叫び声でも獣の咆哮でもなかったのかもしれない。
生物の声でもないのかもしれない。
ただ「人間だったもの」の声。
その声が鳴き声だったのか泣き声だったのかは誰も知らない。
バシッ
頭を教科書か何かでたたかれたようだ。目をあけるとそこには友達の直人がいた。
「おいっ!?こんなときに寝るなんて正気か!」
いったい…何の話をしてるんだ…?おれは眠いんだよ…邪魔しないでくれ…もう一回寝よう…
「だから寝るな!!!過去最大のビッグニュースだぞ!」
こいつは佐藤直人。名字がいっしょだからっていつも絡んでくる。佐藤なんてどこにでも居る名字だろ…
「なんだよ…俺の眠りを妨げるようなビックニュースなのか?」
気だるげに聞き返す。
「ビッグニュースもビッグニュース!なんたってあの黄桜美咲ちゃんが今日!転校しちゃうんだよおおおお!」
「あいつ転校すんのか…へえ…」
「その程度かよ!あの学園のアイドル!黄桜美咲ちゃんだぞ!お前中学一緒って言ってただろ!」
相変わらず直人は声がうるさい。
「中学一緒っていっても…話したことねえし…別になんとも…」
「逆にすげえな…欲がないっていうか…一周回って尊敬するわ。」
ちらっと時計に目をやる。
「そろそろホームルームだぞ…もう先生くるぞ。」
「やべっ!」
直人は焦りつつ席に座る。と同時に
ガララララッ
担任が勢いよく教室に入ってくる。先生の後ろには黄桜も一緒だ。
「えー静かに。もう話を聞いているやつもいるかもしれないが、黄桜さんは家庭の都合により今日で転校することになった。」
男子たちが先ほどに増してざわめきはじめる
「男子たち!うるさいよ!」
委員長が男子たちを静める。委員長に勝てる男子はいないんだ。
先生が話を続ける。
「ゴホン。それでは黄桜さんに最後の挨拶をしてもろうと思います。黄桜さんよろしく。」
みんなの視線が黄桜に集まる。
「私は…今回お父さんの仕事の都合で………
俺はぼんやりとしながら窓を見つめる。中学からいっしょなのについに話すことはなかった。無理もない、俺はあまり女子に話しかけるタイプじゃないし、女子に話しかけられるタイプでもない。
あくびをしながら聞き流す。何を話したかもわからなかいまま黄桜は転校していった。