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フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


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六本木編 転職

六本木編 転職


結婚の夢もなくなった。


もう失うものはない。


そう思った僕は、清水の舞台から飛び降りてもいいと思った。


転職だ。


秀樹の紹介で、いわゆる「就職ハンター」と知り合った。


そして僕は、外資系企業へ転職した。


人生が、大きく動き始めた。


そして、もうひとつの夢も実現した。


六本木に住んだ。


家賃は月二十二万円。


当時の僕にとっては、かなりの金額だった。


でも、迷いはなかった。


六本木に住みたい。


それは、ずっと心のどこかに残っていた夢だった。


マンションはロアビルの近くにあった。


会社は赤坂ツインタワー。


六本木から歩いて通勤できる距離だった。


朝、マンションを出る。


六本木の街を歩いて、赤坂へ向かう。


途中、こじゃれた店に入ってモーニングを食べる。


そんな朝が、僕の日常になった。


そして仕事が終わると、また六本木へ戻る。


夜はキャンティに通った。


あれほど憧れていた六本木が、自分の生活の中にあった。


ミュージシャンになる夢は消えた。


結婚の夢も消えた。


失恋もした。


会社も辞めた。


そのたびに、僕の人生から何かが失われていった。


でも、最後に残った「六本木に住みたい」という夢だけは、なぜか消えなかった。


そして僕は、とうとうそこに住んだ。


朝は六本木から赤坂へ歩き、夜は六本木の街へ戻ってくる。


気がつけば、昔、ただ歩いているだけで楽しかった街が、僕の暮らしそのものになっていた。


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