↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
830/865

北方領土が戻ってきた

北方領土が戻ってきた

ロシアがウクライナとの戦争を終えたのは、七年目の冬だった。


七年間。


ロシアは膨大な兵士と兵器を失いながらも、最後にはウクライナの一部の領土を手に入れた。


モスクワでは、勝利を祝う式典が開かれた。


大統領は演説で言った。


「われわれは勝った」


テレビには、国旗を振る群衆が映し出された。


しかし、その翌月から、ロシア国内で奇妙なことが起こり始めた。


地方政府への送金が遅れた。


軍人への給与が遅れた。


年金の支払いまで、地域によっては滞るようになった。


戦争に勝ったはずなのに、国民の暮らしは急速に苦しくなっていった。


七年間の戦争で、ロシアは領土を得た。


だが、その代わりに国の中身を失っていた。


ある老軍人は、酒場でひとり呟いた。


「土地は取った。しかし、国を取られたようなものだ」


その言葉が、いつしかロシア各地に広がっていった。


やがて地方の共和国や自治地域から、中央政府への反発が強まった。


モスクワでは権力争いが始まった。


軍部も一枚岩ではなかった。


そして、ある朝。


世界中のニュースが、同じ速報を流した。


「ロシア連邦政府、非常事態を宣言」


その三日後、さらに大きなニュースが入った。


「ロシア極東地域で自治政府樹立の動き」


日本では、誰もがテレビに釘付けになった。


北海道の北に浮かぶ島々。


長いあいだ、日本人が自由に行くことのできなかった島々。


北方領土である。


国会では、外務大臣が静かに語った。


「日本は、領土問題を武力によって解決することは望みません。ロシア側との平和的な協議を開始します」


誰も予想していなかった展開だった。


それから二年。


国境線が変わった。


北方四島には、日本の旗が掲げられた。


北海道から船が出た。


島に上陸した日本人のひとりが、海を見ながら言った。


「帰ってきたんだな」


隣にいた老人が答えた。


「違うよ」


「え?」


「島が帰ってきたんじゃない。時間が戻ってきたんだ」


七年間の戦争でロシアが得たものは、確かにあった。


しかし、その勝利がロシアの崩壊の始まりだったと、歴史家たちは後に記すことになる。


戦争には、勝った国と負けた国がある。


だが、ときには――


勝ったことそのものが、敗北の始まりになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。