表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイドアウト断章  作者: 石藏拓(いしくらひらき)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

675/680

原爆のきのこ雲

原爆のきのこ雲


さて、久留米市から大牟田へ転校したのは、二年生だったのか、それとも三年生だったのか。記憶は曖昧なままだが、ひとつだけ、はっきりと焼きついている光景がある。


松原公園で遊んでいた日のことだ。型屋が店を出し、粘土を型に押し込んでは抜く、あの素朴な遊びに夢中になっていた。手を動かしながら、ただ無心に遊んでいた、そのときだった。


ふと顔を上げると、遠くの空に白い煙が立ち上がっていた。


最初は誰も気に留めなかった。しかし、その煙はみるみるうちに膨れ上がり、異様な形をつくりはじめる。やがて空を押し上げるように広がっていくその姿は、子どもの目にもただ事ではないと映った。


そして――ボーン、と鈍い爆発音が遅れて届いた。


胸の奥に響くような重い音だった。公園の空気が一瞬で変わり、遊んでいた手が止まる。周囲の子どもたちも、皆同じ方向を見つめていた。


それが、原爆雲のようなきのこ雲だった。


あとになって、大人たちから聞いた話がある。長崎に原爆が落とされたとき、そのきのこ雲は大牟田からも見えたという。信じがたい話だったが、不思議と納得もした。あの日、自分が見た雲と重なっていたからだ。


ふたつのきのこ雲。時代を隔てて現れたそれらは、同じ方向に立ちのぼっていた。有明海の方角である。


もし、あの光景を見たのが二年生のときなら――。いや、三年生だったのかもしれない。記憶は確かではない。それでも、あの白い煙と、遅れて響いた鈍い爆発音だけは、今も消えずに残っている。


転校の時期を思い出そうとするたび、ぼくはあの空へ引き戻される。答えは出ない。だが、あの雲だけは、確かにそこにあったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ