玉ねぎの中の玉ねぎ 3
奇跡の休息
1966年のカレンダーをめくると、そこには不自然なほどの余白が広がっていた。
本来なら、僕たちは今ごろテキサスの荒野を模したロケ地に立っているはずだった。ブライアンが持ってきた三作目の映画、西部劇コメディの台本。馬を乗り回し、カウボーイハットを被ってドタバタ劇を演じる……そんな計画が、僕たちの目の前で音を立てて崩れ去った。
「もう、こういうのはいいだろう」
誰かがそう言ったとき、誰も反対しなかった。スクリーンの中で愛嬌を振りまく「ビートルズ」を演じることに、僕たちは心底飽き飽きしていたんだ。役者でもない僕たちが、自分たちのパロディを演じる必要なんてどこにある?
映画の出演辞退。それは、デビュー以来ずっと僕たちを縛り付けていた、あの秒刻みのスケジュールが消え去ったことを意味していた。
不意に訪れた、数ヶ月に及ぶ空白の時間。僕たちはそれぞれ、ロンドンの街や自宅の静寂の中へと散っていった。
ジョンは屋根裏部屋で、見たこともないような古い本や、意識の深淵を説く言葉に耽った。ジョージはシタールという異国の楽器の弦を弾き、その震えの中に自分を探していた。ポールはクラシックのコンサートや前衛的なギャラリーへ足を運び、僕たちがまだ知らない音の断片を拾い集めていた。
叫び声の届かない場所で、僕たちは初めて、自分たちのためだけの呼吸を始めたんだ。
やがて春が訪れた。約束したわけでも、新しい傑作を作ろうと気負っていたわけでもない。ただ、長すぎる休暇に少しだけ退屈し、あの懐かしいスタジオの空気を吸いたくなって、僕たちはアビイ・ロードに顔を出した。
「何か面白い音はないか?」
誰かが機材のスイッチを入れる。その時、僕たちの手元にあったのは、三ヶ月前までのポップ・ソングの書き方とは似ても似つかない、奇妙で歪んだ音の種ばかりだった。
スタジオの重い扉が閉まる。外の世界ではまだ、昨日までの「僕たち」を求める喧騒が渦巻いている。けれど、防音扉の向こう側で、誰かがテープを逆回転させ、誰かがシタールの弦を弾き始めたとき、そこには今まで誰も足を踏み入れたことのない、全く別の宇宙が広がり始めていた。




