玉ねぎの中の玉ねぎ 2
守護神である私の目には、四人の背後に立つブライアン・エプスタインの苦悩が、誰よりも色濃く映っていた。彼はただのマネージャーではない。この四つの原石を磨き上げ、世界という舞台に載せた演出家であり、彼らを守る防波堤でもあった。
ブライアンは楽屋の隅で、手帳を握りしめたまま、ステージから戻ったメンバーの疲弊した顔を見つめている。彼の心臓の鼓動は、不安で早まっていた。彼にとって、ビートルズがステージに立たないということは、自分が彼らと繋がっていられる唯一の「実務」を失うことを意味していた。
もし公演をやめてしまったら、彼らを繋ぎ止めている絆が解けてしまうのではないか。四人がそれぞれの個室に引きこもり、自分の手の届かない場所へ消えてしまうのではないか。彼はその恐怖と戦っていた。
しかし、彼は聡明な男だった。メンバーが「ペイパーバック・ライター」で見せた、あの超人的なコーラスの重なりや、スタジオで実験を繰り返す「リボルバー」の楽曲群を耳にするたび、彼は悟らざるを得なかった。自分が愛した彼らの音楽は、もはやスタジアムの粗末なスピーカーで鳴らすにはあまりに巨大で、繊細な芸術へと進化してしまったのだということを。
叫び声に埋もれ、憔悴していくジョンやジョージの姿を見るのは、ブライアンにとっても耐え難い苦痛だった。彼は自分のビジネスとしての成功よりも、彼ら四人の「美しさ」が壊れることを何よりも恐れていた。
私は、彼の肩にそっと手を置く。彼はふと顔を上げ、誰もいない空間を見つめた。その瞳には、興行主としての打算ではなく、愛する子供たちの旅立ちを見送る親のような、寂しくも決然とした光が宿っていた。
ブライアンは手帳を閉じ、心に決めたようだった。たとえツアーという形を失っても、彼らがスタジオという聖域で最高の魔法を編み出せるよう、自分は全力を尽くそうと。それが、彼らを生み出した者の最後の務めであると、彼は理解したのだ。
暗い廊下を歩き出すブライアンの背中を、私は静かに見守り続けた。




