ある蒸発
ある蒸発
砂漠の摩天楼が放つ黄金色の輝きは、時に地上のすべてを焼き尽くすほどに残酷だ。マリアが意識を取り戻したのは、熱せられたアスファルトの上だった。体中の骨が悲鳴を上げ、折れた脊椎が自分の意志を裏切るように動かない。ドバイの華やかな夜の裏側で、彼女は何を見たのか。
一年前、彼女はタイ行機の座席に座っているはずだった。しかし、その足跡は砂嵐に消えるように途絶えた。友人たちが口にしたパーティーという言葉。それは「ポルタ・ポッティ」という忌まわしい隠語と共に、SNSの深淵で囁かれる闇の宴だった。
富豪たちが紙屑のように金をばらまき、人間の尊厳を家畜以下にまで貶める場所。そこで行われたとされる、言葉にするのも汚らわしい獣じみた儀式の数々。マリアの記憶はその断片を拒絶するように、深い空白に塗りつぶされている。ただ、発見された時の彼女の血まみれの姿だけが、音のない悲鳴を上げていた。
四ヶ月もの間、彼女の世界は病院の白い天井だけだった。寝たきりの日々を越え、今も長距離を歩くことは叶わない。それでも彼女は、日本のメディアの前で静かに口を開いた。震える声には、闇に呑み込まれたまま帰らぬ人々への祈りと、消えることのない告発が込められている。
ドバイの街角に転がっていたのは、一人の女性の肉体だけではない。それは、底なしの富と欲望が作り出した現代の奴隷制度の断片だった。リハビリテーションの苦痛に耐えながら、マリアは一歩ずつ、砂漠に蒸発しかけた自分自身を取り戻そうとしている。




