第9話 信頼と幸せ
「カンパーイ!!」
町の隅にある小さな酒場。その壁際で5つのコップが重なり、音を響かせる。
「いやあ、すげえなミナト! オーク2体をちょちょいのちょい!」
「そんなことないさ。テッドの魔法のおかげだよ」
「かー! 謙遜すんなって!」
テッドはそう言いながらも、嬉しそうにコップを煽る。今日は、初めての5人でのクエスト達成を祝って、酒場に祝勝に来ていた。
「そうだよ、即戦力! 連れて来てくれたマリーにも感謝だね」
モレンも、テッドに同調する。
「いやいや……」
ミナトは、それでも手を横に振った。しかし、別段悪い気はしない。
「まーね! 私に感謝して!」
マリーはどんと胸を叩く。それを見たプーネッツは、横槍を入れた。
「マリーの方が偉そう……」
「ちょっと、辛辣!」
そのツッコミに、どっと笑いが起こる。
平和な奴らだ。たった一つ、たったDランクの、たったの採取クエストを終えただけ。それなのにこいつら、嬉しそうに祝杯をあげている。
……だが、別にそれで良い。これだけで信頼貯金が貯まるなら楽なもんだ。
ひとしきり笑い終わると、テッドがコップを置いた。
「いやあほんと。にしてもミナトは、一体どこが狂犬なんだろうな」
……は?
「え、ええと」
どういうことだ。こいつ、俺の異名のことを……?
ミナトは狼狽えながらも、どうにか言葉を口にする。
「狂犬のこと、知ってるのか……?」
だって、俺をパーティに迎え入れたのは狂犬の噂を知らないからだ。そのはずだ。
するとテッドは、きょとんとした顔でこちらを向いた。
「ああ、当たり前だろ! あれだけ有名じゃ」
「あ、ああ……。そうだよな」
……そうなのか?
「マリーが連れて来たからな、別に元から信じてたけどよ。実際、信じてみて良かったぜ!」
「だね。僕も今日助けられちゃった」
「戦闘が……すごい」
テッドの言う通りだという風に、モレンやプーネッツも同調した。
知らないと思ってたのは、俺だけだったのか。
ミナトはあまりの衝撃に、コップを握る手に力が籠る。
「それじゃ、次のクエストどうするか決める?」
「だな!」
マリーの一声で、一同は話の方向性を得たようだ。次は討伐クエストを、いやいやまだ念のため採取クエストを、と、思い思いに意見をぶつけている。
「で、ミナトはどう思う?」
テッドに話を振られ、ミナトに注目が集まった。
「ああ、そうだな。討伐だとしてもまずは低級の……」
……こいつら、お人好しがすぎる。なんて奴らだ。
ミナトは意見を伝えながらも、体の居場所を探すように椅子を座り直していた。
*
「じゃ、また明日同じ場所集合で!」
テッドとマリーが、こちらに手を振っている。ミナトはそれに応えると、踵を返してモレンの横に並んだ。プーネッツはその奥に並ぶ。モレンの奥に居られると、とうとう姿が見えない。2人の宿はミナトと同じ方向らしかった。
「いやー、食べた食べた!」
「モレン……食べ過ぎ」
「だってさ、今日は順調すぎて3つもクエスト回ったよ!」
モレンは嬉しそうに拳を天に掲げる。
「ミナトがいてくれれば、毎回これだけ食べられそうだなー!」
「……それ、俺を飯だと思ってないか?」
「そうだよモレン……失礼」
「ははは! ごめんごめん!」
プーネッツが釘を刺すと、モレンはミナトに向かって手を合わせた。
……必要だろう。こういう何気ない時間も、このパーティに溶け込むためには。
「……まあでもさ!」
モレンは、改まった口調で空を見上げた。
「幸せって、こういうことだよなあ」
幸せ?
「どういうこと?」
「マリー以外の俺たち3人はさ、5年も冒険者してD級なんだ」
「……はあ」
まあ、受付嬢もそれくらいかかるって言ってた気がする。それと幸せが、どう関係しているのか。
「でもさ。別にランクが上がらなくたって、こうやって仲間とダラダラ話して、美味しいご飯食べてさ。たまあにちゃんと戦って。……それだけで幸せだよね」
……何を言っているんだろう、こいつは。それが、幸せ? 全く、言っている意味が分からない。
「モレン……それは賛成」
プーネッツの呟き。その言葉が夜の空を舞って、ミナトの周りを漂ったような気がした。




