第8話 タートルステップ
マリーがギルドの扉を開けると、中の喧騒が漏れ出すように聞こえてきた。ミナトはその後ろから、パーティリーダーのテッドと並んで潜る。この扉を潜るのも、一体何個目のパーティだろうか。
すると、入り口の近くで立っていた冒険者が、こちらに気付いたように表情を明るくした。
「やあ、マリー! レイドから帰ったのか?」
「あ、うん! 無事、みんなもね!!」
「そりゃ良かった! ん、お前ら5人だったか?」
「ああ、それはね……」
マリーが談笑していると、また別の方から冒険者が寄ってくる。
「あれ? タートルステップじゃないか!」
タートルステップ。マリーの——いや、今ではミナトの所属するパーティの名前だ。
「テッド。この前は助かったよ! また今度、困ったら頼らせてくれ!」
「ああ。お互い様だけどな」
テッドはその冒険者と腕を合わせると、手を挙げて離れていく姿を見送る。
なんだ。こいつら人気だな。アホタンクのパーティだからてっきりポンコツかと。
そのままマリーとテッドの後ろに付き、受付へと向かう。受付嬢もこちらに気がつくと、顔が柔らかく綻んだ。
「お疲れ様です。今日も無事なようで何よりです!」
「まあな! キングオーク、半端なかったぜ」
「C級ですからね……!」
テッドが受付嬢と談笑している。初めて見たぞ、受付嬢のあんな軽いやり取り。事務的じゃないのか。
タートルステップ……。こいつら、弱小パーティかと思ったが、案外強いのか……?
ミナトは後ろを振り返り、戦士のモレンに視線を向けた。
「あー……君たち、強いんだな」
そう話しかけると、モレンはポカンとした表情で口を開けた。
「へ、何で??」
モレンはただでさえ恰幅良く背の高い戦士だ。こうして口を開けると、吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。
「いやだって、なんか人気じゃないか? タートルステップ」
「ああ……。ははは! 違う違う。弱いよ僕たちは! な、プーネッツ!」
プーネッツ。そう呼ばれたのは、モレンの隣を歩いていた小さな女僧侶だ。
「あ、うん。……だね」
プーネッツは真顔で応えた。
実際、ミナトより20センチ程しか低くないだろうが、モレンと並ぶと小人に見える。
「え? いやいや」
弱いって、そんなわけ……。
「……で、D級の鉱石採取クエストで良いか?」
するとテッドがこちらを振り返った。
「うん!」
「それが良いと思う」
「……いいよ」
モレンとプーネッツ、マリーは口を揃える。
「ミナトもいいか? 5人で行くのは初めてだから、討伐より採取のほうが良いかと」
「あ、ああ。任せるよ」
テッドはミナトたちの言葉を聞くと、また受付に視線を戻した。同時にミナトも、先ほどの会話に意識が戻る。
弱い? タートルステップが? どういうことだろうか。じゃあ、この人気の秘密は一体。
「よし、受注完了! 明日の朝に改めて集合しよう」
テッドの一声で、一行は出口へと足を向ける。ミナトもそれについて行こうとすると、テッドがこちらを向いた。
「俺たち、信頼を大事にしてるんだ」
信頼?
「困ってるパーティがいたら協力したり、素材を交換したり……挨拶一つ取ってもそうさ」
するとマリーも、困惑したミナトに笑顔を向けた。
「そ! 私たち信頼厚いの!」
「いや、自分で言わない方が……」
「……ほんとね」
モレンとプーネッツがすぐにツッコミを入れる。こうして、いつもマリーに突っ込んだり笑ったりしてるのだろう。慣れた掛け合いを感じる。
「そうか……」
信頼。……信頼、か。
「にしてもミナト。ありがとな、俺たちのパーティに参加してくれて!」
テッドは、綺麗な白い歯を見せる。グレーの短髪が、このお人好しな笑顔とよく合っていた。
モレンも同様に、笑顔でこちらを見下ろす。
「ほんと、あの強さはほとんどC級だよね! 僕びっくりしたよ……!」
「いや、全然」
こいつら、俺の狂犬の噂は知らないのか? 一応レイドでの活躍は見たみたいだが……。まあ、この俺への応対を見るに知らないのだろう。それならそれに越したことはない。
「これから、よろしく頼むよ」
ミナトは、テッドやモレンに笑顔を向ける。しかし横にいたマリーは、肩を揺らしくすくすと笑っていた。何だ、こいつ。
「ふふ、ミナトくんって他だと大人しいんだね」
……。
「うるさいなアホタンク」
「ちょ……マリーだってば!」
マリーの大声で、前を歩いていた3人は振り返る。
「2人、仲良いんだな!」
仲良くないわ別に……。
再びこの5人でギルドの扉を潜る。また明日集まってから、クエストに向かうらしい。
とにかく、お人好しパーティで助かった。
……ん? 待てよ。
このお人好しパーティに所属していれば、俺の好感度も一緒に上がっていくんじゃないか……?
そうだ、信頼が貯まる。信頼貯金だ。
ミナトは誰にもバレないように小さく頷くと、笑みが溢れた。
……当分寄生してやるぜ。




