第7話 VS キングオーク②
「アホタンク!!」
マリーじゃねえか!!
しかし彼女は、ミナトの声に気づく余裕はないようだ。キングオークは標的をマリーに変えたのだろう。身を翻すと、金棒を手にマリーへ突進を始めた。
ミナトはそれに気付き、再び掌を背中に回した。
「ウィンドッ!!」
まるで車のターボのように、ミナトの体は勢いを増す。
「ボヘアアア!!」
キングオークの雄叫び。
「ディ、ディフェンサー!!」
マリーの祈り。
「ウィンドッ、ウィンドォ!!」
俺の叫び。
マリーの居場所に辿り着くと、ミナトはすぐさまマリーの体を抱え上げた。
「ミ、ミナトくん!?」
驚くマリーをよそに、ミナトは振り返る。が、視界にはすでに迫る金棒が見えた。
くっ! これで終わりかよ!! まだ……まだC級にすら……!
ミナトの悪態が心の中を支配したその瞬間、目の前に眩しいほどの光が明滅した。
「ザン・ソニック」
聞き覚えのない、静かな声。それと同時に、目の前を何かが通り過ぎた。
「ブアアアアアア!!!」
何だ……?
呻き声に反応して振り返ると、キングオークは天を見上げ立ち尽くしていた。右肩を押さえている。しかし、そこには一つの違和感があった。
右腕がない。キングオークの右腕は、綺麗さっぱりなくなっていた。
「ブゥ、ブゥ」
何が起きたのだ。
それはキングオーク自身も分かっていないのか、怯むように辺りを見回していた。
「トツ・ソニック」
また、あの静かな声。そしてその直後には、大砲のような爆発音が部屋中に響き渡った。
「ボァァァアアアア」
——目を疑った。
キングオークの腹には、直径30㎝程の丸い穴が空いていたのだ。
そしてそのまま、キングオークは力なく地面に倒れる。当たり前だ。奴にはもう、腹と呼べる代物はないのだから。
巨躯が倒れ衝撃が地面を通じて伝わる。そして部屋には、一瞬の静寂が波紋にように広がった。
「どうかしてるわ」
女性の声。これは、先ほど聞こえてきた女性だろうか。
「セナ……」
「剣姫セナだ!」
「助かった……!」
冒険者たちの視線を辿ると、そこには鉄鎧を身に纏う金髪の女性が歩いてきていた。
あれが、剣姫セナ。……そして、あれがAランクの実力。
「ほとんどD級で部屋に入るなんてね。誰? 決めたのは」
セナは、腰まで伸びる真っ直ぐな金髪を手で払うと、周囲の冒険者たちを睨みつけた。
「ミナトくん……」
マリーが上目遣いで見てきている。
正直、今誤魔化したとて意味はないだろう。いずれバレることだ。
ミナトは、マリーの潤んだ瞳を無視して立ち上がった。
「俺だよ」
セナの目線が、冷たく刺さる。
「……知らない顔ね」
訝しそうな表情だ。
「反省しなさい。死人が出なかったから運が良かったものの、戦犯だわ」
冷たく、平坦な声。その視線は、すでにミナトから興味がなくなったのかすぐに外された。
「あなたたち、帰還するわよ」
「お……おおお!」
セナの一声で、冒険者たちは徐に動き始めた。
「よ、良かった。命があるぜ」
「一応、報酬ももらえる!」
冒険者たちを横目に、ミナトはため息をつく。
くそ。これじゃ冒険者からの評価もダダ下がりだ。何だってんだよ……。
部屋の出口に向かおうとすると、不意に服の袖が引っ張られた。
「ん?」
振り返ると、マリーがミナトの服に手を伸ばしていた。そしてゆっくりと、その口が開く。
「ミナトくん。私のパーティに入らない?」




