第10話 忠犬
「でぇぇぇえあああ!!」
ミナトは、地面を削るように力強く駆けた。
「トツ・スタブ!!」
「ギィィアアア」
その掛け声と同時に、ミナトの剣はオークの胸を貫いた。
「ミナト、前に出過ぎだ!」
テッドの指示が遠くに聞こえる。しかしミナトは、そのまま体を反転させると、もう一体のオークに向かって右足を踏み込んだ。
「ナギ・ホリゾンタル!!」
一文字に薙ぐ剣技。ミナトが剣を振り抜くと、オークは腹から真っ二つに割れ、胴から上を地面に落とした。
「はあ、はあ……」
ミナトは肩で息をしながら、剣を鞘に収める。すると、横からテッドが走ってきていた。続いて、マリーやモレン、プーネッツも近づいてくる。
「ミナト! 倒せたから良かったものの、お前な……」
タートルステップ。このパーティに参加してはや2週間だ。ミナトは、これほど長くパーティにいたことはなかった。
ほぼ連日行われる祝勝会。
大食いコンテストかのような食べっぷりのモレン。
それに冷ややかなツッコミを入れるプーネッツ。
笑顔でコップを煽るテッドに、手を叩いて笑うマリー。
ミナトは、それらの時間を振り払うように戦闘を繰り広げていた。別に、好感度を下げるつもりは毛頭なかったのに。
「……すまん! ちょっと新技を試したくてさ!」
ミナトは先ほどまでの思考を腹の奥にしまい込んで、適当な理由と笑顔を作った。
そういえば、パーティに追放されるために勝手な行動した時もあったな。ふと、そんなことを思い出す。あの時は、指示を無視するなと何度も怒られたっけ。
「……全く。次は指示、無視するなよ」
そうそう、こんな感じだ。
「怪我すんのはミナトなんだからよ」
「……え?」
テッドはそう言うと、後ろを振り返った。
「さ、みんな! 一旦野営の場所を確保しよう!」
「はーい!」
「了解っ!」
「……おけ」
ミナトは、テッドの後ろ姿をじっと見つめる。
「ほら、ミナトも!」
「……あ、ああ」
ミナトは、徐に足を運び始める。しかしその心のうちは、何か嫌な予感に襲われていた。
ダメだ。こいつらと長くいるとおかしくなってしまう。
強くなる。強くなるんだろ? 強くなって、ランクを上げて、あのコスプレ女との約束——元の世界に戻るんだ。
「こっちにセーフティエリアあるよ!」
遠くから、マリーの声が聞こえた。セーフティエリア——ダンジョン内部にある、モンスターが出現・出入りせずトラップもないことが確認された、安全地帯。今日はそこで休息を取るらしい。
マリーに続きセーフティエリアに入ると、そこにはすでにいくつかのパーティが休息を取っていた。大学の大講堂ほどありそうな、大きめのセーフティエリアだ。見渡せば、他のパーティもいくつか滞在しているようだった。
テッドはミナトを振り返ると、ポケットから魔道具を取り出した。ワンタッチで天幕が開く代物。
「ミナト! この天幕張っておいてくれるか」
「ああ、良いけど。テッドは?」
「他のパーティに挨拶してくるわ!」
テッドはそういうと、マリーを連れて歩いていく。プーネッツは荷物整理、モレンは周辺のマッピングをするらしい。
ミナトは大人しく、奥の開けた場所に魔道具を展開した。瞬時に天幕とポールが出現する。ダンジョン内、いわゆる洞窟の様相なのだから天候を気にする必要などないのだが、パーティとしてのまとまりを示すように誰もが天幕を張っていた。
ミナトも例によって準備を始めようとすると、後ろから何やら気配を感じる。
「お! お前狂犬か?」
振り向くと、二人組の冒険者がニヤニヤとした表情でこちらを見ていた。
……見知らぬ顔だ。
「最近忠犬になったって聞いたけど、ほんとか?」
「へ?」
忠犬? 一体何の話だ。
「タートルステップに入ったんだろ? 牙抜かれたって話だぜ」
「ははは! さすがタートルステップだな!」
二人組の冒険者は、笑いながら肩を叩き合っている。
ミナトは狼狽えながらも、どうにか口を開いた。
「あ、ああ。はは、タートルステップは良いパーティだよ」
「がはは! そうかよそうかよ! 良かったな!」
そうして、冒険者の二人は愉快そうに踵を返した。
「……はは」
マジかよ。本当に好感度戻ってきてるじゃんか。こんなに思い通りいくもんかよ。
……どうしよう。そろそろか。そろそろ、追放されようか。
「あれ? ミナト、天幕張った事なかったか?」
振り向くと、挨拶を終えたであろうテッドとマリーが歩いてきていた。
「あ、ああ。いや、考え事してて」
「大丈夫? 今日ちょっといつもと違うよね。ご飯とか用意するから、休んでたら?」
マリーが心配そうにこちらを見つめてくる。
「ああ、いや大丈夫だ」
ミナトはそう答えると、テッドやマリーに合わせて天幕の端を掴み上げた。




