第11話 ありがとう
「ミナトくん! 右から回り込んで!!」
マリーの声が鼓膜に届いた。目の前には、タートルステップに囲まれたゴブリンが、3体並んでいる。ミナトは指示通りに動きながらも、その思考は別のところにあった。
……追放されよう。すでに俺の目的は達成された。だからまた、追放されるんだ。
「プーネッツ! 僕の後ろに!!」
モレンの声も響く。
でも仮に、ここで俺が追放されたらその後はどうなる? 同じように、俺の狂犬の噂が広がるだけじゃないか? また、パーティに追放されなくなるのでは?
そうか、そうだよな。
……じゃあ、タートルステップがパーティごと壊滅すれば良いんじゃ? 噂を広める当事者がいなければ、別に広まることはない。そうじゃないか。
「……テッド、一旦引いた方が」
次はプーネッツの指示だ。ミナトはそれに反応して、戦闘を繰り広げる仲間たちを見渡した。
テッド、モレン、プーネッツ、そしてマリー。
……そうか。そうなのか。俺がその気になれば、こいつら死ぬんだ。
「ミナト!!」
テッドの声が聞こえると同時に、ミナトの体がテッドに突き飛ばされる。
「いてっ……」
「何ぼーっとしてんだミナト!!」
ミナトが先ほどいた場所に視線を向けると、そこにはゴブリンの剣が深く突き刺さっていた。
……俺、助けられたのか。
「あ、ああ。ごめん!」
そうテッドに応えながらも、ミナトは頭を抱えた。
あれ? こいつ今、俺を助けたのか? 助けたんだよな。そりゃあそうだ。同じパーティなんだから。
……いやいや、待て。俺はさっき何を考えていた? こいつらが死んだ方が都合がいい、
と。そう考えていた。
つまり、殺す。それと同じことを。
「テッド! 挟み込んで!!」
「了解! 頼んだぞモレン!!」
タートルステップの声が、遠くで響いている。
……何考えてたんだ俺は。人を殺してまで、元の世界に戻りたいのか? そもそも、俺はどうして戻りたいんだよ。コスプレ女が言うからか? ……だってそりゃ、戻りたいだろ。家族も、友達もいる。
「うっ!」
その時、ミナトの頭に鋭い痛みが走った。
——ミナトだろ、やったの。信じらんねえ。——
なんだ今の声。どこかで、聞いたことがあるような……。
——お前なんか信じなきゃ良かったぜ。どっか行けよ。——
くそ、何だよ。なんだよこの声は!!
「ミナト! トドメ!!」
その瞬間、テッドの声でミナトは我に帰る。目の前には、一匹のゴブリン。ミナトの方へ逃げてきているようだった。
「ぐっ……!」
ミナトは、まだ遠くにいる頭の痛みを振り解くかのように、地面を強く蹴った。そしてすぐに、ゴブリンへと肉薄する。
「……ザン・スラッシュ!!」
「ギアアアアア」
雄叫びがダンジョン内に響き渡ると、ゴブリンはそのまま力なく倒れ伏した。ミナトは、剣についた血を払うように振るう。
すると、テッドとプーネッツがこちらへ寄ってきた。
「いやあ、ボーッとしててもさすがミナトだな。信じてたぜ」
「……ほんとだね」
……信じる。
信じる?
何だよそれ。俺はお前らを、殺そうとしていたのに。
「疲れたね〜。もう遅いし、そろそろ帰ろうか?」
モレンが言葉を発しても、ミナトは上の空だった。何でこいつらは、こんなに俺を信じているんだ。俺は何もしていない。むしろ、メチャクチャなことをして追放されていた狂犬なのに。
「そうだね! 帰ろ、ミナトくん!」
マリーはそう言うと、ミナトに笑顔を向けた。
……あれ?
ミナトは、マリーと自己紹介した時のことを思い出していた。
そういえばマリーは、俺の名前をすでに知っていたはすだ。名前を伝えた覚えなんてないのに。
ああ、そうだ。そうだった。こいつは、狂犬ミナトと知りながら俺に近づいたんだ。そして、狂犬ミナトと知りながら、俺にありがとうと。そう言ったんだ。
テッドは来た道を戻りながら、両手を高く上げた。
「よっしゃあ! 今日も帰ったら、飲んで食ってしようぜ!!」
——別にランクが上がらなくたって、こうやって仲間とダラダラ話して、美味しいご飯食べてさ。たまあにちゃんと戦って。……それだけで幸せだよね——
モレンの声が脳内を撫でる。
ああ、そうか。そうだったのか。
「ミナトくーん! どうしたの?」
「ほら、帰るぞミナト!」
「僕お腹空いたよ〜」
「……食いしん坊」
顔を上げると、そこには4人が並んでいた。パーティが、仲間たちが足を止め、ミナトの歩みを待っているようだった。




