第5話 永久の庭
「ゴアア!」
「セン・スピニング!」
3体のうちの1体——オークAは、ミナトの剣技に首を掻き切られると、血を噴き出しその場に倒れた。
セン・スピニング。剣を構えながら自身が旋回することで、全方位の隙を無くしつつ、その旋回の力を利用し前方の敵に斬りかかる。ザン・スラッシュと並び、初級に数えられる技だ。
「ボッフ!」
「ガアアアア」
セン・スピニングによって攻めあぐねていた2体のオークは、倒れた同胞を見て興奮していた。
ああ、今だ。
ミナトは決断すると、オークBに手のひらを向けた。
「ウィンド!!」
手のひらから放たれた突風。
「ボウッ!」
それはオークBの顔面に届き、半歩後ろに下がった。
ミナトはその隙にオークCへと駆け出す。各個撃破。そのための簡単な戦略だった。
「ザン・スラッシュ!」
「ブアアア!」
オークCを斬り伏せると、すぐにオークBへ焦点を合わせる。オークBはミナトの風魔法から復帰し、すでにこちらへ切り掛かっていた。
はっ、もう遅い。
「トツ・スタブ!」
「バハア!」
ミナトの刺突。腹部を貫かれたオークBは、ミナトが剣を引き抜くと同時に力なく倒れた。
「ふう」
ミナトは一息つくと、剣を鞘にしまう。
うん、この程度なら1人でいけそうだな。
「うお、オーク3体を1人で……?」
背後でミナトの戦闘を見ていた冒険者たちは、その戦いぶりに衝撃を受けているようだった。
「お前、1人で何体倒せる?」
「1体が限界だろ……そもそもパーティで戦うような相手だ」
その反応は、ミナトの耳にも微かに届いていた。
「へへ、良い感じだ」
ミナトの口角が上がる。
「うぎゃあああ!!」
すると右から、悲鳴を上げながら逃げてくる冒険者が視界に入った。奥にはオーク。恐らく、仕留めきれず逃げてきたのだろう。
ミナトは再び剣の柄に手をかけると、足を踏み込んだ。
「ザン・スラッシュ!」
「ゴアア」
オークの腹部は斜めに斬られ、血を流しながら崩れ落ちる。逃げてきた冒険者は、尻餅をつきこちらを見上げていた。
お、チャンスだチャンス。
「無事かい? 怪我はない? 協力してオークを倒そうな!」
ミナトは渾身の笑顔で手を差し伸べる。
「あ、ありがとう……!」
尻餅の冒険者は、ミナトの手を握るとそのまま立ち上がった。再び後方から、ミナトの活躍を見た冒険者たちの声が聴こえる。
「あいつ、良い奴じゃないか?」
「おい、騙されるな! 狂犬だぞ!」
「いやでもあの強さ……うちに入れば即戦力だろ」
くく、大漁大漁。
ミナトはその笑みを喉の奥にしまいながら、尻餅の冒険者に手を上げた。
「また何かあったら声かけてくれ!」
「……あ、ああ!」
そうして、その場を離れていく。
全く。面倒な仕事だ。好感度をわざわざ考えないといけないなんて。
「……適当にパーティに参加して、追放してくれるだけで良いんだけどな」
ミナトは小声で、地面に吐き捨てる。
しかし、そんなのをお願いしたって訝しがられて終わりだ。スキルがバレても危険。誰に狙われるかもわかったもんじゃない。
ミナトの頭は、諦めたように項垂れた。
「おい、みんな!! ボス部屋があったぞ!!」
「なんだって!?」
「こっちだ!」
遠くから聞こえてきたボス部屋の場所。それにより、冒険者たちは浮き足立ち始める。
……とうとう来たか。さらに大漁のチャンス。
ミナトは声のする方へ駆け出した。早く行かねば、剣姫に先を越されてしまう。
「この扉だ!」
「剣姫はどこだ? 待った方がいいんじゃないか……」
「だな、俺たちだけじゃ流石に……」
ボス部屋らしい扉の前に着くと、冒険者たちが立ちすくんでいた。
おいおい、何をしてる。さっさと開けてしまえ!
そう思うが、こいつらには不可能だろう。セナ頼りで参加したD級だ。ミナトは逸る気持ちを抑えるため、深く深呼吸をする。
……落ち着け。チャンスに変えるんだ。
意を決して後ろを振り向くと、ミナトは再び渾身のスマイルを貼り付けた。
「俺が前線に立とう。俺ならキングオークをやれる」
その言葉で、冒険者たちは一様にミナトへ視線を向けた。
「……みんなには補助をお願いしたいんだ! 俺たちで、討伐報酬まで取ってやろうじゃないか!!」
ミナトは力強く拳を上げ、言い切る。すると、冒険者たちは徐々に表情を変えていく。
「た、確かに」
「狂犬のあの動きならもしかして……」
「討伐報酬までおこぼれか」
そしてその表情は、次第に不安から覚悟へと変わっていくように見えた。
「俺は行くぞ!!」
そしてミナトは、立ちすくむ冒険者たちの集団から一歩踏み出した。そのまま歩みを進め、3メートルはあるであろう扉の前へと辿り着く。石造りに金属の意匠が施された、厳かな扉だ。
ミナトは一つ深呼吸をすると、扉の取手に手をかけた。それは背筋まで届くように冷たく、多少の力では動く気配がない。
右足に力を入れ、地面を踏み込む。体重をかけたその扉は、徐に動き始めた。しかし一度動き始めると、先ほどまでの重さなど嘘だったかのように、滑らかに扉は開いていく。まるで、冒険者たちを招き入れているようだ。
「おお……!」
「ひ、広いな」
後ろからついてきていた冒険者たちの嘆息が漏れる。それを合図に、ミナトも顔を上げた。
広さで言えば体育館のようだが、その実立方体の方が形は近いだろう。その中心やや奥に、それはいた。
「ブフォオオオ……!」
オークにしては規格外に大きな、3メートルほどの体躯。それが深く、息を吐いてミナトたちを睨みつけていた。
「……さあ」
戦闘開始だ。




