第4話 レイドバトル
D級ダンジョン〈永久の庭〉。町から東へ数km離れた、初心者御用達のダンジョンだ。冒険者たちは、ギルド裏からこの〈永久の庭〉の前に移動してきていた。
ミナトは、ここ一帯に集まっている冒険者たちを一瞥する。
「つっても……」
人数が多いな。優に30人は超えてるんじゃないか? 今回のレイドボスはC級という情報だが……。
ミナトは周囲で談笑していた冒険者に近付いていく。
「なあ。ここにいる奴らはみんなC級以上なのか?」
ボスがC級の場合は、冒険者もC級以上が参加するのが常識だ。かくいう俺もD級だが……まあ、どうにかなる。
冒険者の二人は、ミナトの声に反応して振り返った。
「ああ……いや、ほとんどD級だ」
「何だって?」
おいおい、大丈夫なのか?
「剣姫セナ。知ってるだろ? この町唯一のAランカー。そいつが今回参加するんだよ」
「は、はあ」
「ボスはそいつに任せつつ、レイドバトル参加報酬が目当て。おこぼれだけもらうって魂胆さ」
ははあ、なるほど。悪知恵の働く奴らだな。にしても、剣姫セナか。俺の今回の狙いに邪魔じゃなければ良いんだが。
ミナトが思案していると、冒険者の一人が小声で何かを話し始めた。
「おい。こいつ、癖毛の黒髪に紫の目だ。狂犬ミナトじゃねえか?」
「うげ、マジかよ! 俺話しちまったよ!!」
2人はそう言うと、跳ねるようにその場を後にする。
「くそ……」
結構広まってるな……。
いや、別に良いさ。今回のレイドバトル。ここで活躍して、良い評判を取り戻してやる。俺より活躍しそうと言ったら剣姫セナくらいだろう。大したことじゃない。
ミナトが自分に言い聞かせていると、遠くにいた女性冒険者がミナトを見つけ、目を見開いた。
「あ、あなた!」
女性冒険者がこちらへ駆けてくるのに気付いたミナトは、目を凝らす。
「ん?」
誰だ?
「やっぱり! 前にダンジョンで助けてくれたよね! ほら、2体のオークから!」
2体のオーク……? ミナトは改めてその女性冒険者をまじまじと見た。水色の髪が肩辺りで切り揃えられ、目は微かに潤んでいる。格好からしてD級の冒険者だろうが、その大きな盾にはどこか見覚えがあった。
そう、この不釣り合いに大きな盾を構えていたのは……。
「お前、あの時のアホタンクか」
「ひ、ひどい!」
彼女は絵に描いたように頬を膨らませていた。
「いや、だってタンクがソロでダンジョンって……」
流石にアホとした言いようがない。
「だ、だからあの後パーティを組んだの! ちゃんと!」
「当たり前だ」
「もう、ひどいなあ」
彼女は、次は肩を落とした。何とも、動きが単調である。
しかしすぐに背筋を伸ばすと、弾けるような笑顔をこちらへ向けてきた。
「ま、でもあなたのおかげでパーティを組めたから、ありがと!」
「あ、ああ」
ミナトは、そのまっすぐな感謝に狼狽える。異世界に来てこの方、感謝を伝えられたことなどあっただろうか。
「マリー!」
「へ?」
まりー?
「私の名前! マリーだから、覚えてね!」
マリーはそう言うと、手を差し出してきた。
「ああ。俺の名前は……」
「ミナトくん、よろしく!」
……ん?
ミナトが差し出した手をマリーが握ると、彼女は満足げな表情を浮かべた。
「じゃ、またね! レイドバトル頑張ろうね!」
そう言って、マリーは向こうへ駆けていく。その後ろ姿は、パーティ仲間であろう数人に吸収され、そこからは周囲の冒険者の陰に埋もれていった。
「俺、名前言ったことあったっけか」
その時、ダンジョンの入り口の方から声が反響してきた。
「お集まりの皆さん、準備はよろしいでしょうか!?」
ギルド職員だろう。その声は、拡声効果のある魔石のおかげでよく通っていた。
「今回のレイドボスはC級です! 道中のモンスターがD級とは言え、お気を付けて行ってらっしゃいませ!」
先程までざわざわしていた冒険者たちも、一様に推し黙る。緊張感が辺りを支配していた。
「それでは……!」
数多の人間が地面を掴み、砂利が擦れる。そんな音が聞こえた。
「C級レイドボス緊急討伐クエスト、〝キングオーク〟、開始!!」
「おおおおおおお!!!」
ギルド職員の声を合図に冒険者たちの咆哮が響き渡り、その声と行進で地面が激しく揺れ始めていた。
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次回からは火・金20:00投稿となります。そのため、第5話は金曜日20:00公開です。これからもお楽しみいただければ幸いです!




