第3話 被追放回数10回
……クソッ。全部あのアホコスプレ女のせいだ。
ミナトは、記憶の中にある青い長髪を靡かせた忌々しい女性に悪態をついた。
一定の活躍なんぞ分からないが、とにかく強くならなければ。元の、俺がいたはずの世界に帰るんだ。
ミナトが頭を悩ませながらギルドの扉を開くと、突然肩を強く掴まれる。
「おい、ミナト!!」
振り返るとそこには、パーティの面々が立っていた。それも、今朝組んだばかりのパーティ。みな一様に険しい顔をしている。
「お前にはうんざりだ! 右から崩せと言えば左から、1度退けと言えば敵に突進……」
その険しい顔は、みるみるうちに歪んでいく。
「なぜいつも指示と逆のことをするんだ!!」
そしてミナトは、いつも通り笑みを浮かべた。
ふむ、今回はどうしてやろうか……。
あっ、そうだ。そうしてやろう。
ミナトはトドメの一撃を決めると、顔を上げた。両眼の下瞼を引っ張り、舌を出す。
「んべろべろっ、ばあああ!!!」
俺の一撃は、ギルド前の通りに響き渡った。
「てめっ……!」
ミナトの口角は、微かに上がる。
「追放だっ!!」
すると、あっという間に操作された冒険者カードにより、俺の胸ポケットが震えた。
——被追放回数11回に到達。レベルが11に上がります。——
いつもの脳内アナウンスだ。一体これも、どういう理屈で聞こえるのか……不明だ。
「じゃあな!」
元パーティの面々は、そう吐き捨てると足早に去っていく。
「ふう……」
これでレベルは11。レベルが上がるごとに攻撃力や魔力が増えている。それは、モンスターとの戦いを経て火を見るよりも明らかだった。
「……確かに。こりゃチートスキルかもなあ」
アホコスプレ女から、コスプレ女に格上げしてやろう。
ミナトは心の中でそう呟くと、ギルドの入り口を潜った。
湿った木と汗の匂い。飛び交う喧騒。ミナトの視界には、数多の冒険者たちが映っていた。
「なあ君、このクエスト一緒に行かないかい?」
「突如現れる飛龍!? そんなの俺が瞬殺してやるよ!」
多種多様な冒険者たちが、ギルド内を闊歩していた。ミナトはそれを横目に、受付へと直進していく。
受付嬢と目が合うと、彼女は判を押したような笑顔をこちらへ向けた。
「お疲れ様です! ご用件をお伺いしても?」
「ああ、ランクの確認を」
ミナトは冒険者カードを取り出すと、受付に差し出す。
「かしこまりました! 現在のランクとポイントの照会ですね!」
受付嬢が何かを操作しているのを横目に、ミナトは考えていた。
冒険者におけるランク。これが、コスプレ女の言う評価に当たる可能性がある。元の世界に戻る、そのために……。
「お待たせしました!」
受付嬢の言葉で、ミナトは我に帰る。
「冒険者ミナト様ですね。ええと……。え!」
しかし突然、その受付嬢の表情が変化した。目を見開いている。一体、何だと言うのだ。
「ポイントは673ですので、変わらずDランクではありますが……。それがたったの数週間……?」
「ん? それは何かおかしいのか?」
ミナトは不思議に思い、頭に浮かんだ疑問をそのまま投げかける。
「は、はい。ランクアップは早くて数年、もっと言えば冒険者稼業を低ランクのまま終える方もいますので。これほどのスピード、最近ではセナさんくらいしか……」
……なるほど。俺のスキルによるレベルアップが異常ってことか。スキル〝追放系〟。予想以上だ。
「そうか、そりゃどうも」
ミナトは急かすように手を差し出すと、感謝を述べる。
Cランクは1000ポイント。となると、あと約200ポイントか。
「い、いえ。それでは引き続き、頑張ってください。高ランク帯のモンスターを倒せば、獲得ポイントも高くなりますので」
受付嬢からカードを返してもらうと、ミナトは踵を返した。
さあ、次はどのパーティを追放されようか。
ギルドに群がるパーティたちを、品定めするように視線を走らせる。
あのパーティは……優しそうな面してるな、ダメだ。それならあっちのパーティは……ダメダメ。俺より強いやつがいる。逆上して殺されちゃ本末転倒だ。
ギルドを練り歩いていると、自分の名前がミナトの耳に飛び込んできた。それも、聞き馴染みのない言葉と共に、だ。
「あいつ、もしかしてミナトか?」
「噂の奴だろ。狂犬って呼ばれてる。狂犬ミナト」
狂犬ミナト……? 何だそれは。異名か?
ミナトはあらゆる可能性に思考を巡らせた。が、めぼしい答えは見つからない。
……しかし、俺のあの獲得ポイント。俺の活躍を知っているなら好都合だ。パーティが組みやすい。
ミナトは、狂犬ミナト、などと話す男たちに近付いていく。
そう、いつも通り。笑顔を向けるんだ。爽やかに、爽やかにだぞ。
「なあ君たち。良かったら、俺とパーティを組まないか?」
しかし男たちは、ミナトの想定とは裏腹に眉を吊り上げた。
「はあ? 何言ってんだ。お前、パーティ組んでもはちゃめちゃなことするんだろ?」
「は……?」
あ、あれ……?
「組むわけねえだろ、狂犬野郎! じゃあな」
そう吐き捨てると、男たちはそそくさとその場から離れていく。
狂犬ミナト……。もしかして、異名じゃなく蔑称……?
ミナトの動悸が、少しずつ激しくなっていく。
もしかして俺、これまでの追放ムーブでパーティ組みづらくなってんのか……? つまり、追放されづらく、なってんのか……!?
その時、受付から大きなベルの音が鳴り響いてきた。
「レイドバトルです! 冒険者の皆さん、レイドバトルが発令されました!! 至急、希望者はギルド裏までお越しください!!」
鳴り響くベルと、一層強くなる冒険者たちの喧騒。
ミナトの鼓膜には、それらの音が嫌に近く聞こえてきていた。




