第2話 被追放回数0回
「……えあ? 何だここ?」
ミナトは目を覚ますと、何もない空間に存在していた。強いて言うなら白い空間。しかし、それもただ真っ白ではない。
ミナトは辺りを見回しながら、そんな不思議な感覚に襲われていた。
「やっと目を覚ましましたね」
「うお! 誰だ!?」
後ろを振り向くと、そこには椅子に座る女性が居た。
その椅子は、何の変哲もないただの木の椅子だ。しかし、ミナトにとってその女性自体が妙であった。
まるで、ゲームに出てくる女神……。
ミナトは、その女神の格好をした女をまじまじと見る。
「あなたは、死にました」
「……え」
何を言ってるんだ、このコスプレ女。
「何を言ってるんだ、コスプレ女」
しまった。そのまま口に出してしまった。
「な……! 誰がコスプレ女ですか!! 私は女神です!」
「いや、だって格好が……」
非現実的だし。……というか。
「そもそもここはどこだよ?」
この場所こそ非現実的だ。何だよ、この白いような白くないような空間は。気味悪い。
「だから、死んだんです。天国です。まあ、厳密に言えば天国への通り道なんですが……」
「はあ??」
天国? こいつ、頭おかしいのか?
うん、確かにおかしいかもしれない。コスプレしながら急に人に死んだとか言うんだから、むしろ正常なはずがない。
ミナトは頭を悩ませた。まず、ここに来る前後の記憶もなければ場所も分からない。まだここが夢の中だと言われた方が信憑性があった。
「勘弁してくれ……」
ミナトはそう呟き、胡座をかいて座る床に目を向ける。
しかしそこでミナトは、衝撃の事実に目を瞠った。
「は……?」
嘘だろ。
「影が……ない」
床に映るはずのミナトの影は、一切存在しなかった。
……どういうことだ。
「だから言ったじゃないですか、天国だって。あなた死んだんですよ」
女神と自称する女は、欠伸をして足を組む。
影が、無い。周りの空間も、変な雰囲気で気味が悪い。目の前には女神の格好をした女。
嘘だろ。本当に……俺……いや、そんなまさか。急に死んだとか言われて、ここは天国だと話す。
でも、だって。俺は今、確かにここに存在しているじゃないか。
「じゃ、手続きを始めますね」
はあ?
「手続き? ……何の話だよ」
手続きなんて言われても、話がさっぱり分からない。
ミナトは狼狽えながらも、どうにか思考を纏めようとしていた。まず、ここにきた記憶はない。コスプレ女の言葉で言うと、死ぬ前の記憶が、だ。
いや、そもそもを思い出せ。一番近い記憶は、学校から帰ってきて、母さんにただいまと言って。そう、妹は出かけていた。友達と遊ぶ約束もしていたような……。いや、そこからだ。そこから思い出せない。くそ、何だってんだ。
「では、異世界にあなたを召喚します。少々お待ちを!」
「え、異世界……?」
こいつ、何言ってるんだ……?
「はい。魔法の存在する、いわゆるファンタジーの世界に行ってもらいます」
「なっ……!」
何だそれは。そんなのまるで、ラノベじゃないか。
ミナトは驚きを隠せず、目を見開いた。
「待てよ、そんなこと急に言われても……。そもそもなんでそんな」
「私も忙しいんで、いちいち答えてる暇ないんですー」
女神はそう言うと、その長く綺麗な青髪を後ろに払う。
「ちゃんとあなたに得ありますから! 異世界の冒険者として一定の活躍を収めれば、元の世界に戻してあげます。もちろん、生きた状態でね」
「え、生きた状態……? 生き返らせてもらえるってことか?」
「そうですよ! 流石私、女神すぎます」
そして女神の周りには、四角い光がパソコンのウィンドウのように複数現れた。女神はそれをポチポチと操作している。
くそ、何が何だか分からねえ……!
「てか、一定の活躍ってなんだよ!」
ミナトは頭を掻きむしりながら、どうにか思ったことを口にする。
「まあ詳しくは追々……あっ、準備できました」
女神の言葉を合図に、ミナトの足元には魔法陣のような何かが広がった。
「待て待て説明を……」
「もちろん、何もないのは可哀想です。チートスキルを授けましょう!!」
「チートスキル……?」
何だよそれ、本当にラノベじゃないか。異世界召喚して、チートスキル。
気が付くと、ミナトの周りが次第に光り始めていた。
あれ? もしかして、もう異世界召喚が始まってるんじゃ……!
「おい女神! と、とにかくそのチートスキルを教えろ!」
記憶とか生き返るとかはそれからだ……!
「ああ、そうでした。あなたのチートスキルは……」
女神は顔を上げると、誇らしげな表情でこちらに力強く指を差した。
「〝追放系〟! 追放されるほど強くなる、そんな能力です!!」
「追放されるほど強くなる……?」
ミナトの頭に浮かんだ疑問とは裏腹に、ミナトの体は光に包まれていく。
「そうです! だって、追放される人は強いんですよね? あなた方の世界の様々な作品で勉強しましたよ!! だからあなたは、パーティに追放されるほどにレベルが上がっていくのです!!」
いやいや……。
「追放系ってのは、強い奴が勘違いで追放される作品なんだよ……」
ミナトは大きく息を吸い込んだ。
「追放されるから強くなるわけねえだろ!!」
「え? そうなんですか? 私てっきり……」
「こいつ……!」
勘違いでクソスキルじゃねえか!!
「アホコスプレ女!!」
そんな捨て台詞が空間に放たれると、そのままミナトは光に包まれて消えていくのだった。




