【11】私はもう弱虫じゃない
屋敷から追い出される美世を呆然と見ていた三雲さまは、ハッとして私を見る。
「くそ……くそ……お前、そんなにぼくを貶めたいのか!」
氷月さまに直接言うことが出来ないから私に……?
だけど私はもう弱虫じゃない。
「貶めたのはあなたの方でしょ?抵抗できない私に風の異能で襲い掛かった。最低なことだよ」
あの日言えなかった言葉をやっと言えるんだ。
「そんなの、美世がやらせたんだ!」
その言葉にはぁ……と息を吐く。
「あなたも嬉々としてやっていたように見えたけど。あなたたちは立派な共犯。今さら言い逃れ出きるなんて思わないで」
キッと彼を睨む。
「……っ」
三雲さまが……いやもうさま付けなんて必要ない。ここまで言い返されると思わなかったのか、三雲が黙りこくる。
「連れていけ」
氷月さまの冷めきった言葉と共に三雲も追い出される。
「さて……片付いたか」
ホッと息を吐く氷月さま。
「うん……氷月さま、ありがとう」
ぎゅっと氷月さまの袂を握れば。
「何の。咲柚のためだ。当然のことだ」
そこにあるのは優しい笑み。
「だけど……どうして?」
「少し胸騒ぎがしてな。俺の勘は当たるんだ」
「うん、当たったね」
私ひとりではまた弱虫のままだったかもしれない。
「咲柚を助けられて良かった」
「私も……」
氷月さまがいたから勇気を出せたのだ。
「ありがとうな」
「それは私のセリフなのに……」
思わず頬が赤らむ。
「でも俺の妻になれて良かったと言ってくれた」
「うん。選んでもらえて良かった」
その言葉に氷月さまが私を抱き締める。
「氷月さま」
「ああ、咲柚。愛してる」
その言葉に胸が飛び出しそうな感覚を覚える。そして抱擁が解かれ、彼の顔が間近に迫っている。
ふわり……と、優しく唇が重なる。
「咲柚、咲柚は」
「……っ、その、あ、愛、してます」
「ああ、ありがとう」
再びの抱擁に酔いしれそうになる。
「ずっとこうしていたいな」
「だけど……宴は」
「そうだった」
「もう少し……がんばろ?」
「うーん」
「氷名くんも待ってる」
「なら仕方がない」
かわいい弟のために折れてしまうところも微笑ましい。
「咲柚、宴に戻ろうか。もうあのような無礼なやからはいない」
「そうだね」
あんなに恐かった美世たち。しかし勇気を出して言い返したこと。氷月さまが味方をしてくれたことで追い返せた。
氷月さまがいればこれからも私は弱虫でいなくて済む。勇気を出して前に進むことができるから。
一歩一歩確かな歩を進めながら氷月さまと共に宴会場に戻れば。賑やかながらも優しい祝福を浴びる。
「竜王さまが花嫁を迎えるとは」
「ああ、何とめでたい」
「末長くお幸せであられますよう」
いつの間にかこんなにも私たちの結婚を祝ってくれるひとびとに溢れていたなんて。
「咲柚」
「氷月さま」
「これからもよろしくな」
「こちらこそ」
氷月さまと末長く良き夫婦であれますように。そんな願いを込めて、乾杯した。
※※※
宴が終わり、宴会場は片付けで忙しない。一方で竜王の宮の居住区は静寂に包まれている。
「氷名はもう眠ってしまったろうか」
月明かりが優しく降り注ぎ、ちょうど眠たくなる時間である。
「そうかも。遊んであげられなかった分、明日はたくさん遊べるといいな」
「そうだな。氷名のことも……ありがとうな」
「私の方こそ……!氷名くんはとってもわかいくて……それからね、氷月さまのことが大好きで」
「ふふっ。最近は『にいさま』と呼びながら駆け寄ってくれるからかわいいのなんの。今まで恐がられているとばかり思っていたから」
「それは……」
ふたりの間にあった誤解。しかし今は分かり合えた。
「けど氷名との距離が縮まったのも……咲柚のお陰だと思ってる」
「……私」
「ああ。偶然咲柚が氷名を見付けてくれた。あの時は手当てをしようとしてくれていたのに、悪かったな」
「ううん、氷名くんを大切にしている証拠だもの……!」
「咲柚は優しいな」
「氷月さまこそ……っ!」
「俺は氷の異能のせいで冷たいだの冷酷無比だの散々言われてきたから、そう言ってもらえるのが嬉しいよ」
「そう言えば……その噂」
「今までは竜王らしくしようと放置していたが……咲柚に恐がられるのなら少しは丸くなっておいた方が良かったろうか」
最初の出会いのことを言ってるの……?
「そ……そんなことっ!その、恐くなんてないから。氷月さまはいつだって優しくてカッコいいよ」
「ああ、嬉しいよ。咲柚」
氷月さまが優しく微笑む。
「咲柚、ずっとずっと……愛してる」
ふわりと抱き締める、優しい腕。
「わ……私も」
「うん?」
まるでその答えを待っているかのような静寂が下りてくる。
「私も……ずっとずっと……ずーっと愛してる」
この気持ちを氷月さまに届ける勇気を。
私は既に、この手に持っている。
「ああ、咲柚」
抱擁は確かな熱を持ち、ひんやりとした回廊がその熱をより一層掻き立てる。
「氷月さま」
幸せな、幸せな時間。私は氷月さまと幸せになるのだ。やっと……幸せになれるのだ。
「さて、夜は冷えるだろう。咲柚の身体を冷やしては大変だ。寝室に行こうか」
「うん」
寝室ではすやすやと寝息を立てる氷名くんの姿がある。起こさないように2人でそっと布団に入れば、今夜も幸せな夢を見られるような予感がした。




