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冷酷無比な竜王さまに嫁いだら溺愛型だった  作者: 夕凪 瓊紗.com


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【10】竜王の花嫁



凍てつく回廊に、脅えきった三雲さまの様子。

三雲さまは震える手で氷月さまに頭を下げている。


「ど……どうかお許しください、竜王さま!」

「何をだ?言ってみろ」

氷月さまは冷酷な目で見下ろしている。 


「こ……こたびの美世の無礼を……」

「それだけではないだろう!」

「ひ……っ」

あれだけ高慢だった三雲さまも今は脅えるしかできない。


「そう言えば……白羽は風の異能を持つのだったな」

「……っ」

三雲さまがハッと顔を上げが真っ青に染まる。


「そ……それは?」

「異能の残滓。取り分け竜の血が濃い竜王一族は伴侶に対する他の竜人の残滓に敏感だ」

残滓……っ!そう言えば竜人にはそう言う能力があるのだ。


「咲柚が嫁いできた時。咲柚は傷だらけだった。そこに纏わり付いていた残滓……」

氷月さまが冷たく三雲さまを見下ろす。


「……お前のだな」

気付いていたんだ……!

「な……何を、仰って……ぼくは、何も知らな……っ」

「白々しい嘘を吐くんじゃねえ!」

カッと烈火の炎が灯る。


「ひ……っ」

三雲さまの歯がガタガタと波打つ。


「どういうつもりかは知らないが……俺の花嫁に傷をつけた。その事実には変わらない」

凍てつく氷に反して燃え上がる怒気。


「その……じ、事情があるのです!そ……その、咲柚が……そうだ咲柚が悪いんだ!」

混乱状態にある三雲さまは私を指さした。


「咲柚が何をしたって言うんだ!」

「だ……だって……咲柚がぼくの婚約者でなければぼくは……美世と婚約できたのに……っ」

三雲さまが苦し紛れに吐き捨てる。


「そんなもの家が契約したものだろう。咲柚のせいではないし、咲柚を傷付けていい理由にはならないだろ!」

氷月さまが一蹴し、三雲は最後の希望に目を向ける。

「だけど……だけど……美世!た、たすけ……」


「私は何も知らないわ。あんたが勝手にやったことだもの」

美世はフンと顔を背ける。


「そんな……っ」

三雲さまが驚愕の表情を浮かべる。この期に及んで美世が掌を返したのだ。


「さて……白羽三雲。俺の花嫁に手を出した以上、白羽家もろともただでは済むと思わないことだ」

「そ……そんな」

三雲さまはひとり孤独に崩れ落ちる。


「それから……」

氷月さまがひとり我関せずの美世を睨む。


「ふふふっ」

しかし美世はこの場の雰囲気にまるで似合わぬ勝ち誇った笑みを浮かべる。


「氷月さまぁ」

氷月さまの名を……っ。


「元々は私が氷月さまの花嫁になるはずだったの」

それは……事実だが。


「なのに咲柚が強引にその座を奪ったから私は咲柚の婚約者だった三雲さまと婚約せざるを得なかった」

嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ……っ!


「さらには三雲さまが落ち目になるなんて……私ってとってもかわいそうな女の子だと思わない?」

「は?」

「氷月さまだってそんなずるくて、さらには女の魅力もない咲柚よりも、かわいくて清楚な私の方がいいでしょぉ?」

ずるいのは……美世の方じゃない!


「だからぁ……」

「ふざけるな」

「は??」

美世が呆ける。氷月さま……!


「咲柚がずるくて魅力がないだと?そんなわけあるか!咲柚は優しくて芯の強い子だ。咲柚の悪口を言うな!」

氷月さまは分かってくださっている。私のことを裏切らないでいてくれる。


「ひ、氷月さまは騙されているのよぉっ!目を覚まして!」

「目ならとっくに覚めている!それに……貴様に名を呼ばれる筋合いはない!」

「な……そんな!氷月さま!私の方が咲柚よりも……っ私こそ、竜王さまの花嫁としてふさわしいはずよぉっ!」


「お前は却下だ」

「は……?」

「巫女の家は他にもたくさんある。遣わされた花嫁がふさわしくないと思えば突き返す気だった」

「そんな……」

初めて聞いた。あの縁談は強制ではなかったのだ。むしろ試される縁談だった。


「だから俺は……咲柚だから花嫁に迎えたんだ」

氷月さま……!私も……氷月さまだったから……っ。


氷月さまは美世の甘言を退け、私のために戦ってくれているんだ。


「やめて!」

私は……もう弱虫なんかじゃない……!


「は……?何よ。咲柚のくせに私に意見する気?咲柚のくせに咲柚のくせに咲柚のくせに!!」

「私だからだよ!」

まっすぐに美世の目を見る。

彼女はこんな顔だったのか。


「はぁっ!?」

焦り冷や汗をかきながら激昂する姿。


「私は……私は何も悪いことなんてしてない!氷月さまへの輿入れだってあなたが嫌がったから……あなたが三雲さまと浮気していたから私が嫁ぐことになったの!!」

「何でたらめ言ってるのよ!氷月さまぁ、こんなの事実無根よぉ。咲柚は嘘つきなの!」

「名を呼ぶなと言っただろう」

氷月さまの鋭い視線が美世を制する。


「咲柚、よく頑張ってる。さすがは俺の妻だ」

いつだってホッとさせる、いつもの氷月さまの笑み。

「氷月さま……!うん……私、氷月さまの花嫁になれてよかったと今は思うの!」

氷月さまの手を取り、まっすぐに見上げれば。

「咲柚……!」

氷月さまが私の手を握り返す。


「だから美世、ありがとう」

決意を胸に、美世を見下ろす。

「は……?」

ポカンと口を開ける美世。


「そしてさようなら」

ずっと……告げたかった。告げねばならぬ言葉。

「な、何を……」

美世は口をパクパクさせている。


「私は氷月さまの妻として生きていく。その座は誰にもあげない。あなたにも。これは私が選んで掴みとった道だから!」

胸に手を当てて、そして叫ぶ。


「な……何なのよぉっ!咲柚のくせに咲柚のくせに咲柚のくせに!ずるいずるいずるいずるいずるいずるい!」

美世は自分の思い通りにいかないといつもそうだ。そして怒鳴られ蹴られ、いつも恐くて畏縮した。

だけど今は……。


「いい加減にして!」

まっすぐに美世を見下ろす。


「はぁ……?」

美世はわなわなと震えながら目を見開く。


「私には氷月さまがいるから。もうあなたの癇癪に脅えたりなんてしない!」

ずいと足を一歩前に踏み出せば。


「何よ私の癇癪って!まるで私が悪いみたいじゃない!」

美世が尻もちをつきながら後ずさる。


「自分が悪いことにすら気が付いていないの?かわいそうなひと」

哀れに見下ろすことが、彼女には一番に効くことを知っている。


「わ……わたしは、私はかわいくて誰にでも愛される!私はかわいそうなんかじゃないわっ!!私は悪くない悪くない悪くない!!」

美世はそれでも手足をバタバタさせながら叫ぶ。


「悪いのはお前だ!!」

氷月さまの雷が落ちる。


「ひ……っ」

美世が硬直する。


「咲柚の様子を見ればお前が咲柚に何をしてきたかくらい想像がつく」

「わ……わたしは、何も……私のせいじゃ……っ」

顔は蒼白に……いや、紫色に近い。


「お前のせいだよ。全部、全部」

その言葉が美世を追い詰める。


「嘘よそんなの!」

美世が立ち上がりこちらに向かってこようとするが、制止する。


「何よこれ!?」

美世の足元が凍り付いていた。


「竜王の不興を買ったのだ。これくらい当然のことだろう?」

氷月さまがニィとほくそ笑む。


「何ですって!?こんなの卑怯よ!」

「卑怯な手を最初に使ったのはお前たちではないのか?白羽の力を使って咲柚を傷付けた」

「私は何も知らない!」

この期に及んで美世は首を振る。


「この期に及んでシラを切れると思うな!お前たちも白羽家も同罪。即刻我が宮から出ていってもらおうか」

いつの間にか駆け付けた武人たちが彼女たちを取り囲む。


「いやっ!いやぁっ!」

しかし足を氷漬けにされた美世が抵抗できるはずもない。

やっと終わるんだ。解放されるんだ。


私はホッと、深い息を吐いた。




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