↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37歳土方、スキル『残土』で要塞都市を築く! ~ドラゴンを埋め、戦場を変えた俺の三十年戦争史~  作者: 塩野さち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/42

第25話 皇帝からの誘い

【ラーグ視点】


 下プファルツ地方にそびえるフランケンタール要塞は、俺が作った巨大な土の坂によって、あっけなく陥落した。


 高い城壁。

 深い堀。

 大砲まで備えた堅牢な要塞都市。

 まともに攻めれば、多くの兵士が傷つき、何日も、何週間もかかったのだろう。


 だが。


 壁が高いなら、壁と同じ高さまで土を盛ればいい。

 俺のスキル『残土』なら、それができた。

 結果として、城壁は城壁ではなくなった。

 ただの坂道の先にある、少し高い場所になってしまったのである。


「……我ながら、ひどいことしたな」


 戦いが終わったフランケンタールの城内には、まだ火薬の匂いが残っていた。


 崩れた石。

 折れた槍。

 泥に汚れた道。


 あちこちから負傷兵のうめき声が聞こえ、その間を兵士や聖職者たちが忙しく走り回っている。

 そんな戦後処理がようやく一段落し始めた頃だった。

 ウィーンから、俺宛てに使者がやってきた。


「ラーグ・フォン・ハイリゲンローデ男爵。皇帝陛下より書状にございます」

「……俺に?」


 嫌な予感しかしない。

 俺は封蝋された書状を受け取り、恐る恐る中身を読んだ。


「…………」


 もう一度読む。


「…………」


 三度読む。


「いやいやいやいや」


 おかしい。


 何度読んでも内容が変わらない。


 神聖ローマ帝国皇帝フェルディナント二世陛下は、フランケンタール攻略における俺の功績を高く評価したらしい。


 そこまではいい。

 問題は、その次だった。


『ラーグ・フォン・ハイリゲンローデ男爵を、フランケンタール伯に封じる』


「なんで!?」


 思わず叫んだ。


 さらに書状には、現在皇帝側が占領を進めているプファルツの土地について、今後その統治と防衛を俺に任せたい、とまで書いてある。


「いやいやいや! 俺、ただの土方ですよ!? 出世なんて興味ないのに!」


 男爵になっただけでも十分すぎる。

 村と土地を任されて。

 要塞を造って。

 兵士を鍛えて。

 本を書かされて。

 ついには戦争までやらされている。

 これ以上、何をしろというのだ。


「伯爵って、男爵より偉いんですよね?」

「当然だ」


 隣で書状を読んでいたコルドバ将軍が平然と答えた。


「仕事も増えます?」

「当然だろう」

「じゃあ、いらないです」

「普通は喜ぶところだぞ」


 コルドバ将軍が呆れた顔をした。


「私なら喜んでもらうがな」

「将軍はそうでしょうけど、俺は建設作業員なんですよ」

「その建設作業員が、要塞都市を一つ落としたのだがな」

「…………」


 言い返せない。

 俺が黙り込むと、コルドバ将軍は城壁の方へ視線を向けた。


「それに、この要塞を見てみろ」

「?」


 俺もそちらを見る。

 そこには、戦いの傷跡が残るフランケンタールの城壁があった。

 そして何より目立つのが――。

 俺が作った巨大な土の坂である。

 城壁とほぼ同じ高さまで積み上げられた大量の土が、どーん、と居座っている。

 どう見ても異様だった。


「壊された上に、あんな坂まで作られてしまっている」

「うん」

「このままでは、かわいそうだとは思わんかね?」

「ああー……」


 言われてみれば。

 確かに、かわいそうだ。


「見たところ、卿なら修復できるだろう?」

「できますね」

「坂も片付けられる」

「できますね」

「城壁も直せる」

「まあ、できますね」

「ならば、ちょうどいいではないか」

「…………」


 なんだろう。

 うまく丸め込まれている気がする。

 俺は改めて巨大な土の坂を見上げた。


 自分で作ったものとはいえ、ものすごい量だ。

 普通なら何百人、何千人という人手を使って撤去することになるだろう。


 だが、俺ならスキル『残土』へ収納すれば済む。

 崩れた土塁も直せる。


 砲撃で傷ついた場所も補修できる。

 堀だって掘り直せる。


「……自分で壊しておいて、そのまま帰るのもなぁ」


 建設作業員として、それは少し気分が悪い。

 壊したのなら直したい。

 作業現場を中途半端な状態で放り出すのは、昔から好きではなかった。


「そっか。放っておくわけにもいかないか」

「そういうことだ」


 コルドバ将軍が満足そうに頷いた。


「いや、待って。修理するのと伯爵になるのは別の話ですよね?」

「気づいたか」

「危なっ!」


 この人、絶対わざとだ。

 そんな話をしている間にも、俺の組の二人は戦場の後始末に追われていた。


「包帯、どんどん持ってきてー! まだ怪我人がいるよ!」


 白いブラウスを泥と血で汚したレイラが、負傷兵の間を走り回っている。

 一方、少し離れた場所ではミラが兵士たちへ指示を飛ばしていた。


「そちらへ聖職者の方をお願いしますわ! 確認が終わったら、次の埋葬場所を掘りますわよ!」


 二人とも、すっかり手際が良くなっていた。

 最初に出会った頃は、ドラゴンを相手に剣を振り回していた冒険者だったはずなのに。

 今では負傷者を助け、戦死者を弔い、俺の組の一員として戦争の後始末までしている。


「……俺たち、ずいぶん遠くまで来ちゃったな」


 誰に聞かせるでもなく呟いた。

 ハイリゲンローデ村で道を造り、畑から石を取り除いていた頃が、ずいぶん昔のことのように感じる。


 だが。

 伯爵になるとなれば、話はさらに大きくなる。

 現在の俺は、統一ヘッセン方伯の配下にいる男爵だ。


 皇帝から新しい爵位をもらい、しかも広大なプファルツの統治まで任されるとなれば、これまでと同じというわけにはいかない。


 ヘッセンだけの男ではなくなる。

 皇帝との関係も深くなる。

 そして間違いなく。

 面倒な国際政治が増える。


「……絶対めんどくさいやつだ」


 俺は皇帝からの書状を見つめた。

 フランケンタール伯爵。

 響きだけなら立派である。

 立派すぎる。

 俺には似合わない。


「分かった」


 俺は大きく息を吐いた。


「一度カッセルへ戻ります」

「ほう?」

「俺だけで決められる話じゃないですから。ヘッセン方伯と相談してきます」

「それがよかろう」


 コルドバ将軍が頷いた。

 こうして俺は、スペイン軍と別れ、一度カッセルへ戻ることになった。

 皇帝から差し出された、伯爵という新しい地位。

 そして、フランケンタールという要塞都市。

 その先には、さらに広大なプファルツの土地まで待っている。


「……俺、平和に土方やりたいだけなんだけどなぁ」


 秋の風が、戦いの終わった城壁を吹き抜ける。

 振り返れば、俺が作った巨大な土の坂が夕日に照らされていた。

 どうやら俺の平和な日常は。

 またしても、少し遠くへ逃げていったらしい。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!

「普通かなぁ?」★三つを押してね!

「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。