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捨てられ第三王子は、信頼を取り戻したいだけなのに、崩壊寸前の辺境領と婚約破棄寸前の令嬢まで任されました  作者: 玖城イサ
第一章

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第43話 癒着の痕跡

 

 倉から戻った頃には、夜はだいぶ深くなっていた。


 それでも実務室の机はまた埋まった。

 今度は差し押さえた封書、通行銀の控え、そして倉から持ち出した荷印付きの袋口札だ。


 セリスが灯りの位置を変えながら言う。


「これで、線が一本増えましたね」


「嫌な方にな」

 とレオンが返す。


 フィアナは荷印札を三つ並べていた。


「同じ商会印ではありません」

「ですが、どれも北市場で力のある家です」

「少なくとも、日雇いが勝手に持ち込める類の荷ではありません」


「市場で力のある商会が、帳簿外倉庫とつながってる」


「そう考えるのが自然です」


 レオンは通行銀の隠し控えを開いた。

 日付。

 数量。

 銀の額。

 そして短い記号。


 最初は雑に見えた。

 だが倉から出た袋数と重ねると、妙に噛み合う。


「減った分をそのまま抜いたんじゃない」

「一度ここへ寄せてる」


 セリスが頷く。


「ええ」

「しかも全量ではありません」

「全部消せば、さすがに目立つ」

「だから“足りないけれど説明はつく”くらいの量だけを継続して抜いていたのでしょう」


 継続して。

 そこが重かった。


 一回の横領ではない。

 冬前の値動きを見越して、少しずつ流れを細らせる。

 その結果、村は持たなくなり、領都では不足感が強まり、商人側は値を釣り上げやすくなる。


 フィアナが低く言った。


「……飢えを、商売にしたのですね」


 声は小さい。

 だが、今までで一番冷えていた。


 レオンは答える代わりに、別の封書を開いた。

 短い文だ。

 王都の書記宛て。

 内容の大半は物資不足と輸送不安。

 そして最後に、いつもの一文が添えてある。


 辺境伯令嬢は感情よりも独断を優先し、商流を硬直させる恐れあり。


「なるほどな」


 セリスが視線を寄越す。


「何がですか」


「足りないのは天候のせい」

「通らないのは北方の難しさ」

「そしてまとめきれないのはフィアナの性格のせい」

「そういう話にしたかったんだろ」


 フィアナが薄く目を伏せる。


「私が商人へ強く出たのは事実です」

「借りを増やせば、春以降の首が締まると分かっていましたから」


「それも利用された」


 レオンは紙を机へ置いた。


「簡単に頷かない」

「だから扱いにくい」

「しかも領地は実際に苦しい」

「なら、流れを少し細らせて不足を作れば、全部あなたのせいに寄せやすい」


 セリスが補足する。


「王都へは“冷たい令嬢が商流を詰まらせている”と見せる」

「領都では“仕方ないから値が上がる”と見せる」

「悪くありません。腐った側から見ればですが」


 レオンは苦く笑いそうになってやめた。

 悪くない。

 本当にそうだ。

 仕組みとしては綺麗すぎるほど綺麗だ。


 誰かが大声で奪うより、よほど厄介だった。


 ドルクが腕を組んだまま言う。


「今すぐ商人どもを引っ張りますか」


「まだだ」

 とレオンは首を振る。


「倉を見つけたことを向こうが知らないうちに、こっちの手を揃える」

「先に騒げば、帳簿も人も逃げる」


「だが放っとくのも気分が悪い」


「それは同感」


 レオンは正直に答えた。

 気分は最悪だった。

 でも、気分で動くと次に困るのは領地だ。


 フィアナが紙束を整えながら言う。


「公表はまだ危険です」

「隠し備蓄があると知れれば、市場は一気に騒ぎます」

「正規の買付にも影響が出るでしょう」


「領民も動く」

 とセリスが続けた。

「今の配給体制では受け止められません」


 そこだった。


 見つけた。

 だからすぐ配る。

 話としては分かりやすい。


 だが、現実はそこから先が面倒だ。


 どこへ、どれだけ、誰が運び、誰が見張るか。

 領都へ先に出せば村が荒れる。

 村へだけ出せば領都の不満が膨らむ。

 しかも荷が動いた時点で、誰かは気づく。


 手札は増えた。

 だからこそ、切り方を間違えられない。


 レオンは椅子に座り直した。


「今夜の結論は二つだ」

「一つ、この倉の存在は伏せる」

「二つ、最優先配給の準備に入る」


 フィアナが頷く。


「北道沿いの村を先に持たせるべきです」

「先日の視察で見た通り、痩せ方が深い」

「次の雪で道が切れれば、最初に詰まります」


「領都外れも少しは見る必要がある」

 とセリスが言う。

「完全に外すと、噂が出た時に一番早く荒れます」


 ドルクが鼻を鳴らした。


「結局、どこも楽じゃないってことですね」


「そういうことだ」

 とレオンは答える。

「だから順番を作る」


 フィアナは静かに地図を引き寄せた。

 迷いがない。

 怒りをそのままぶつけるのでなく、次の処理へ落とし込む動きだった。


「でしたら、今夜のうちに危険度の切り分けを始めましょう」

「村ごとの事情は私が入れます」

「帳面だけでは、持たない場所を見誤ります」


 レオンは頷いた。


「頼む」


 倉庫は見つかった。

 癒着の形も見えた。

 ようやく反撃の手札ができたのは間違いない。


 だが、その手札は剣じゃない。

 雑に振れば、助けるはずの領地をまた傷つける。


 机の上で、領内図の白い余白がまだ多く残っていた。


 次に必要なのは、怒りではなく順番だった。


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