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捨てられ第三王子は、信頼を取り戻したいだけなのに、崩壊寸前の辺境領と婚約破棄寸前の令嬢まで任されました  作者: 玖城イサ
第一章

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第36話 処断

 

 処分は、その日のうちに出した。


 先延ばしにすると、人は逃げる。

 紙も消える。

 味方だったはずの者まで、様子見に回る。


 だから順番は早い方がいい。


 領都の中庭には、昼過ぎから人が集まり始めていた。

 役人。

 兵。

 使用人。

 市場の者まで、少し離れた場所から様子を見ている。


 大騒ぎではない。

 だが、皆知っている。


 何かが決まる。

 しかもいつものように、曖昧には終わらないらしいと。


 レオンは石段の上に立った。

 隣にフィアナ。

 少し後ろにセリス。

 左右にドルクと巡回兵。


 風は冷たい。

 けれど空気は不思議と澄んでいた。


 読み上げは、フィアナが行った。


 辺境伯家名代として領務を執る者の声。

 そこへ、王家から派遣された第三王子レオンの承認が重なる。

 その形を見せるために、二人は並んで立っている。


 まず読み上げたのは更迭だ。


 倉庫副書記。

 徴税担当。

 関係書記二名。


 配給・徴税に関わる職務から即時解任。

 役室封鎖。

 帳簿、印章、私蔵金の差し押さえ。

 会議室で認めた内容と、原本照合による不一致を理由とする臨時拘束。


 言葉は硬い。

 だが、その硬さが必要だった。


 ざわめきが広がる。


「本当に」

「やるのか」

「拘束まで」


 そんな声が、遠くで混じる。


 徴税担当の男は最後まで口をつぐんでいた。

 副書記は青ざめている。

 巡回兵に挟まれ、中庭へ出された時点で、もう自分の立場を理解した顔だった。


 倉庫番だけは処分を分けた。


 即時解任ではない。

 倉庫職から外し、監視下に置く。

 今後の照合と証言への協力を条件に、身柄拘束は当面見送る。


 灰色は灰色として扱う。

 全部を同じ箱へ入れない。


 それもまた、線引きだった。


 読み上げを終えたあと、フィアナが紙を下ろす。


 ざわめきは消えない。

 だが、もう昨日までのざわめきではない。


 どうせ変わらない、ではなく。

 本当にやった、のざわめきだ。


 レオンは一歩だけ前へ出た。


「足りない分まで、今日で全部戻るわけじゃない」


 静かに言う。


「でも、途中で抜く側は止める」

「配給も帳面も、いったん開く」

「村へ届く順番も、領都で見える形に変える」


 誰も口を挟まない。


「回っていたからいい、では済まさない」

「その“回っていた”で削られたものがあるからだ」


 少し離れたところで、兵の一人が姿勢を正した。

 市場の女が、口元を押さえている。

 役人の中には、露骨に顔を伏せた者もいた。


 敵も味方も、たぶんまだ決まっていない。


 それでも一つだけは変わった。


 この領都で、初めて“切ると言って本当に切った”のだ。


 レオンが下がると、フィアナが小さく言った。


「思っていたより、静かですね」


「暴れられても困るしな」


「そういう意味ではありません」


 彼女は前を見たまま続ける。


「もっと反発が出るかと」

「ですが今は……皆、まだ測っている」


「こっちが本当に続けるかを?」


「ええ」


 それはそうだろう。

 一回だけなら、見せしめでもできる。

 問題は、この後も同じ温度で続くかだ。


 セリスが後ろから口を挟む。


「少なくとも、今日で“どうせ何も起きない”は崩れました」


「十分だな」


「はい。かなり」


 珍しく素直な肯定だった。


 その時、ドルクが石段を上がってきた。


「殿下」


「何か出たか」


「封じてた私物箱の目録が終わりました」

「申告にない封書が一束。立会いの前で開けたら、税や倉庫の話とは別の文が混じってます」


 セリスがすぐに手を出す。


 受け取った束は薄い。

 だが封の切り方が雑ではない。

 誰かが後で取り出すつもりで、箱の底に寝かせていた形だ。


 セリスが一枚目だけを見て、目を細めた。


「……これは」


 フィアナが横から覗く。

 次の瞬間、彼女の表情がわずかに固まった。


 レオンが問う。


「何だ」


 セリスは紙を閉じた。


「後で確認すべきものです」

「ただ、倉庫と配給だけで終わる話ではなさそうです」


 フィアナは何も言わない。

 ただ、その沈黙が少し重かった。


 中庭ではまだ、人々のざわめきが続いている。

 恐れと期待が半分ずつ混ざった音だ。


 レオンは石段の下を見た。


 最初の処断は終わった。

 でも、これで終わりではない。


 止めた先には、誰が得をしていたのかが残る。

 そしてたぶん、その先にはフィアナの名前も絡んでいる。


 北風が紙の端を揺らした。


 領都の空気は、確かに変わった。

 だが同時に、別の火種がようやく顔を出し始めていた。



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